はじめちゃんが一番!
バケツ一杯の……。
WEとA.A.O.はプロモーションビデオの撮影の為に真夏の沖縄にいた。
亮の計らいではじめは勿論、岡野夫妻も招待され命の洗濯を満喫していたある日のこと……。
「はじめちゃ〜〜〜ん!」
「ん?」
ビーチパラソルの下でのんびり昼寝していたはじめは重い瞼を開けた。声の方を見遣れば亮がブンブンと手を振っている。遠くにいて良くは見えないが何かロープのような物を持っているようだった。
正午の強すぎる日差しでは撮影が出来ないからとWEもA.A.O.も休憩中なのだがそれぞれが好き勝手に遊び回っているので何をしていたのかははじめは知らない。ちなみにはじめも岡野夫妻も今が寝溜めの時と言わんばかりにビーチチェアで惰眠を貪っていたのだった。
「……何を振り回してんだか」
はじめは「よいしょ」と小さく掛け声を掛けてから起き上がった。亮は嬉しそうに、それはまるで飼い主に呼ばれた犬の様に全速力で走ってくるのだった。近づくにつれ、亮は振り回していた腕を背中に隠し、はじめの傍までやってきた。その顔は嬉しくてしょうがないと言う顔だった。
「はじめちゃん! オレ、凄いの見つけたんだよ! 何だと思う!?」
「……何なんですか。UFOでも見つけたんですか?」
「違う違う。UFOよりかはもっと小さいものだよ」
「まあ、背中に隠せる位ですもんね。変な魚でも捕まえたんですか?」
「違うよ。魚よりもうちょい進化した奴だよ!」
「進化ぁ〜〜〜? なんですかそれは……。イリオモテヤマネコでも見つけたんですか?」
「ああ! 行き過ぎ! 進化し過ぎ!」
「んもう! 何なんですか!! ツチノコでも見つけたって言うの!???」
「あ! 凄く惜しい!!!」
「……惜しい?」
「うん、凄く惜しい!」
亮は満面の笑みを浮かべながらそう言った。
「近かったから答え教えるね! ジャ〜〜〜ン! 答えは……」
(ちょっと、待ってよ。ツチノコで惜しいって、惜しいって……っ)
亮はソレをはじめの眼前に突きつけこう言った。
「沖縄名物のハブでした〜〜!!!!」
「………………………………………………………」
はじめの目の前では頭部をがっちり押さえ込まれたハブが身体をくねらせながら藻掻いていたのだ……。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」
天が割れるような叫び声とはこの事だろうか。亮は器用にもハブを掴んだままで耳を押さえていた。余りの大声に閉じた目を開けれみればはじめは一瞬にして亮から10Mは遠ざかっている。はじめの叫び声に飛び起きた岡野夫妻も亮が手にしているハブを見て顔面蒼白に成っていた。
そしてはじめは10Mと言う距離に余裕を取り戻したのか亮を叱りだした。
「ああああああんた! 何考えてんのよ! そそそそ、そんなもの人の目の前に突きつけないでよ!!!!」
「え? だってはじめちゃんが喜ぶかと思って……」
「喜ぶか! ボケェ!!!!! 何考えとんじゃワリャァ!!!」
何をどうすればハブなどのどう猛な毒蛇を貰ってはじめが喜ぶなどと思ったのだろう。強烈な沖縄の日差しによって今まで以上に亮の精神が壊れてしまったのでは無いかと思った。
「…………………喜ばないの?」
「何を喜べって言うのよ! 毒蛇なんか大っ嫌いに決まってるでしょ!!!!」
「…………………でも、これ、結構高いと思うよ?」
「…………………はぁ?????」
話の意図が見えずはじめは訳が分からないという顔をした。
「はじめちゃん知らない? 沖縄って捕まえたハブを役所に持ってくと一匹幾らで買い取ってくれるんだよ」
「な、なんですって!?? そ、それ本当ですか!?」
「うん。それにコレ……」
言って亮は腕に巻き付いている胴体を引っ張って伸ばして体長を目測してみた。
「結構大きいから良い値段になると思うよ?」
「い、良い値段って……?」
「う〜〜ん、前にテレビでやってたのは……確か5000円だったよ」
「5000円!!!!!」
一瞬にしてはじめが10Mの距離を詰めてきたのだ。最早はじめにとってハブは一円の得にも成らない害虫から金の卵産む雌鳥ぐらいの価値へと格上げされたのだった。
「こ、これ一匹で5000円……。もしバケツ一杯捕まえたら……。捕まえたら……」
その金額を計算して興奮したせいか、沖縄の正午の直射日光を浴びで飛び回ったせいかはじめはププッと鼻血を吹いて倒れてしまった。
「は、はじめちゃん!?」
「「はじめ!」」
柔らかい砂の上が幸いしたのははじめはとても幸せそうな顔で気絶していた。助け起こしたいがハブを持ってる手ではそれも叶わない。見越して岡野夫妻がおっかなびっくり近づいてはじめを助け起こした。
「え、江藤さん、すみませんがそれ……」
「バケツ一杯集めるのは難しいなぁ」
「「違います!!!」」
どこかにやってくれと言おうとした岡野夫妻はガックリと肩を落とした。はじめから変わった人だと聞いてはいたがこれ程とは……。
「それじゃあ、オレ、はじめちゃんが目を覚ますまでもうちょっと探してきます。はじめちゃんのお父さんとお母さん。楽しみに待っててくださいね」
((待ってられません))
岡野夫妻は心の中で涙を流しながら乾いた笑いを浮かべて走り去っていく亮を見送ったのだった。
結局亮はこの一匹しか見つける事が出来ず、しかも瑞希から大目玉を食らい一人寂しく砂浜で黄昏れるのだった……。
おわり
お題「ば」でございます。
このお話は拙宅に有ります「お中元」の続編……と言いますか小咄です。読まずとも大丈夫だとは思いますがね(笑)。
ハブは実際沖縄では買い取ってくれるらしいですね。大きければ5000円ぐらいに成るそうですが……。
よい子のみんなはマネしちゃダメだぞ☆
亮君は小さい頃お父さんと色んな所旅してたから結構自然児っぽくて蛇とかも全然平気なんでは〜と思ってますがどうでしょう。
何はともあれ楽しんで頂ければ幸いです。