Harry Potter and the descendant of Myrddin
Boys meets girls.
- In case of James and Lily.-

 大広間では教授たちに背を向ける形で一年生たちが一列に並んでいた。先程組分け帽子の歌が終わりいよいよと言う時の事である。
 マクゴナガルは長く巻かれた羊皮紙を紐解き、名前を呼ばれた者から順に帽子を被って椅子に座る様厳かに指示した。
 そして広間中に沈黙が訪れた。

アッカーソン ・アンドルー!

  アッシュグレイの髪の少年が飛び上がらんばかりに姿勢を正した。緊張一杯の面持ちで偶に蹴躓きながら組分け帽子の元へと歩いていった。そして徐に帽子を被って椅子に座るや……。

レイブンクロー!

  組分け帽子が叫ぶと右側のテーブルから拍手がわき起こり、アッカーソンは小走りでレイブンクローのテーブルに着いた。

アディントン・オルガ!

  黒髪の少女が悠然と歩いて行った。

スリザリン!

  今度は一番端のテーブルから拍手が起こった。

アディントン・クラレンス!

  同じく黒髪の少年が悠然と歩き出した。見た感じ双子の姉弟か兄妹なのかも知れない。

スリザリン!

  同じくスリザリンから拍手が起こった。

エインズワース・シド!

  小さな栗色の髪をした少年がおっかなびっくり歩き出した。

レイブンクロー!

  またもレイブンクローのテーブルから拍手が起こる。

アンブローズ・ブリジット!

  一瞬にして広間は完全な沈黙に支配された。
 名を呼ばれたブリジットは別段気にする訳でもなくいつも通りの無表情で組分け帽子の元へと歩いていった。組分け帽子に向かって会釈をしてから優雅な動作でボロボロの帽子を被った。
 組分け帽子が沈黙する。
 広間中が固唾を呑んでいるのを見てリリーはまた自分だけが何も知らないと言う疎外感を感じていた。

グリフィンドール!

  組分け帽子がそう叫んだ。
 余程意外な結果だったのか広間は騒然となり、グリフィンドールの上級生たちは拍手する事すら忘れている様だった。
 ただそんな中で教授たちのテーブルの中央に座っている老人だけが盛大に拍手している。
 その拍手に吊られてグリフィンドールの上級生たちが疎らに、そしてぎこちない拍手でブリジットを迎えた。
 ブリジットは無表情のまま帽子をスツールに戻し、グリフィンドールのテーブルへと歩いていった。
 組分けは勿論続いていて、マクゴナガルはエイプルトン・セルマの名を読み上げていた。しかし、リリーの目はブリジットを追っていた。
 他のテーブルでは上級生が一年生に気さくに話しかけているというのにブリジットは話しかけらるどころか敢えて見ない様に顔を背けられていたのだ。隣の上級生などブリジットが座った時、彼女との隙間を出来るだけ広く取ろうとしたのをリリーは見逃さなかった。
(そう言えば、結局彼女が何者なのか分からないままだったわ)
 汽車の中でリリーは魔法界の基礎知識を得るのと車内販売のお菓子を食べる事に夢中だったので肝心の話題を綺麗に忘れ去っていたのだ。
 またブリジットも自ら語る真似はしないのでブリジットについては何も分からないまま今に至っているという訳だ。
『表情は乏しいけど、だからって感情まで乏しい訳ではないわ』
 ブリジットの言葉が思い出されてリリーは唇を噛んだ。
 相変わらずブリジットは無表情のままだが、それでも何だか彼女が可哀相になってじっと見ていた。
「意外だな」
 突然右隣に立っていた少年がそう言った。
 ブリジットを見つめていたリリーだったが、気を取られて少年を見た。
 とりあえず目に付いたのはくしゃくしゃの黒髪とまん丸な眼鏡。彼の視線もブリジットの方に向けられていた。
「……何が意外なの?」
 初対面ではあったがリリーは好奇心に勝てずにそう尋ねた。少年はリリーに目を向けるとニヤリと笑った。なんだかそう聞かれる事を前提にしていた様だ。
「知らないの?」
「……知らないから尋ねてるのよ」
 憮然としたリリーの言葉に少年はおやおやと芝居がかった風に目を見開いた。なんだか少年の仕草に不快感を感じながらもリリーは我慢して声を潜めた。
「なんだ親しく話してるからてっきり分かった上での付き合いなんだと思ってたよ」
 クスクス笑う少年をリリーは睨み付けた。今呼ばれた名前はオースティン・ジュディスだった。
「君、マグル出身なんだろ?」
「……悪い?」
「全然! こんなに可愛らしい魔女は純血の家系にだって稀さ」
「……」
 リリーは少年が真面目に話す気が無い事に気づいて前を向いた。リリーの御冠に肩を竦めた少年は同じく前を向いて話し続けた。
「意外だと言ったのは彼女がグリフィンドールに組分けされたからさ」
 リリーは反応せず前を向いてた。私は聞いていないわよと、ツンとした表情を装っていたが神経は少年の言葉に集中している。
「広間中の人間が彼女はスリザリンに組分けされると思ってたんだよ」
「………………」
 リリーは相変わらず前を向いたままだった。少年は反応が無くとも気にせず話し続けている。恐らくはリリーが聞いている事を分かった上での事だろう。
 彼らの目の前では組分けは”A”から”B”へと移っていた。
「何たって彼女は純血の家系の中でも最も著名な一族だからね」
「………………」
「いや、著名なんて言葉じゃ失礼かな? なんて言っても彼女は……」
 少年はクスクスと笑った。気を持たせているのだろうか? それともリリーの反応を予想しているのだろうか? とにかく少年はクスクス笑っていた。
 一方リリーはお預けを喰らってイライラしながらも前を見つめベラミー・フローラがグリフィンドールに組分けされるのを厳しい表情で見ていた。予想通りベラミーはブリジットから離れた席に腰を下ろした。
 二重にイライラしているリリーに少年が事も無げに言った。

「王族なんだから」

「え……?」
「なんだ本当に聞いてなかったのかい?」
 少年は心底つまらなそうに肩を竦めた。一方リリーはマジマジと少年を見つめた。
「あなた、今、なんて言ったの?」
  反応を返してくれたのが嬉しかったのか少年はニッコリ笑ってもう一度衝撃の言葉を口にした。
「彼女はね、魔法界の王族なんだよ」
……!!!」
「しぃ─────!!」
 叫び掛けたリリーの口を少年は慌てて塞いだ。だが、マクゴナガルは剣呑な目で二人を睨んだ。
「静かにしてくるかな。手を離すよ? オーケイ?」
 少年の言葉にリリーは何度も頷いた。漸く手を離されてリリーは何度も深呼吸をした。
「ほ、本当なの? それ」
「まあね」
 狼狽えているリリーに満足したのか少年はニッコリと笑顔を返した。

ブラック・シリウス!

  またも広間が沈黙に包まれた。
 黒髪の少年がすたすたと列から抜け出て組分け帽子を一瞥した後グイッと帽子を被った。
「な、何なの彼」
「彼もまた魔法界の王族なのさ」
「!」

グリフィンドール!

  そして二度目のどよめきが広間を支配し、また老人の拍手だけが響いた。
「面白いね、実に面白い」
 シリウスを見ながら少年は楽しくて溜まらないと言う顔をした。
「アンブローズ家もブラック家も代々スリザリンなんだ。その現当主と次期当主が並んでグリフィンドールとはね……」
 見ればシリウスは当たり前の様にブリジットの隣に腰を下ろした。
「流石にブラック家の子息ともなればアンブローズの名に臆する事もないのかな?」
 リリーは呆然とシリウスを見送ったままだった。
「ま、魔法界も王制だったのね……」
(ブリジットはそんな事言ってなかったんだけど……)
「違うよ」
 少年はさらりと否定した。
「何ですって?」
 聞きとがめたリリーは剣呑な目を向けた。
「王制はないよ。ただ主義は存在するんだ。純血主義って言うのがね」
「……純血……主義?」
「そう、先祖代々魔法使いであり、非魔法族……マグルの血を持たない家系を尊ぶ主義。謂わば選民主義だよ」
「……」
「そしてアンブローズ家とブラック家はその筆頭って訳さ」
「え……?」
 組分けは”B”から”C”、”C”から”D”へと移って行った。
「そして、純血主義を尊ぶ者たちは皆スリザリンに入るんだよ。例外なくね」
 少年の言葉にリリーは俯いた。
 汽車の中でのブリジットはどう見ても純血主義の「じ」の字も感じられなかった。マグル出身であるリリーの質問に対して丁寧に答え、時折ではあるが柔らかに微笑んでくれていた。それに彼女が読んでいたのはマグルの本ではないか。
「ねえ、『例外なく』なのよね?」
  突然のリリーの問い掛けに少年はキョトンとしたが「そうだよ」と頷いた。
「じゃあ、グリフィンドールに行ったブリジットはそうではないって事よね?」
「さあ、どうなんだろうね」
 少年は肩を竦めた。
「何と言っても直接話した事はないんだよ。僕。……その点では君の方が良く知っているんじゃ無いのかい? だからこそケンカ別れしたんだろう?」
 少年はそう言った。
「……あなた、一体いつから見ていたの?」
「……」
 少年は答えずニヤリと笑った。
「とても目立っていたんだよ、君たち。みんなが見てたさ。気が付かなかった?」
 言われてリリーは変な顔をした。
「気付いていなかったんだね」
 少年がもう一度肩を竦めた。

エバンズ・リリー!

「!」
 一気に現実が押し寄せてきてリリーは顔をこわばらせた。
「残念! これまでか」
 固まってしまっているリリーの肩を押しながら少年は残念そうに顰めっ面をした。
「僕の名前はジェームズ・ポッター。覚えておいて」
 歩き出したリリーに「また、会おう。エバンズ」とだけ声を掛け、そして、一瞬振り返ったリリーに軽く手を振った。
 組分け帽子までの距離がイヤに長いものに感じられた。心臓がドキドキと早鐘の様に脈打っている。
  期待と恐怖を合わせて飲み込んでリリーは組分け帽子を被ったのだった。
つづく