Harry Potter and the descendant of Myrddin
Boys meets girls.
- Big 4.-
 リリーは拍手を受けながらグリフィンドールのテーブルへと近づいていった。一人を除いてグリフィンドールのテーブルに着く生徒はリリーの方を見て笑顔で迎え入れてくれている。そう、ただ一人──ブリジットを除いては……。
(ああ、やっぱり……)
 ブリジットは心持ち俯いた姿勢のままテーブルに向かっていて一瞥すらリリーに向ける様子はなかった。その事実に酷くリリーの胸が痛んだ。それでも彼女は歩みを止めず彼女の元へと向かう。ブリジットを避け、固まって座っている一年生たちを通り過ぎて行くリリーに彼らは訝しげな視線を送る。ブリジットの隣に座っているシリウスが意外そうにリリーを見つめているがリリーはブリジットを見つめたままだった。
 やがてリリーはブリジットの前に立った。
「……」
 ブリジットが顔を上げる。感情の見えない半眼で見上げられ、リリーは逃げ出したくなる衝動を抑えてブリジットの目を見つめた。
「ここに座っても良いかしら?」
「……」
 僅かばかりブリジットの目が見開かれた。じっとリリーの瞳を見つめて真意を推し量っているようだった。
「あなたが座りたいと思う席に対して私の許可など必要ないわ」
ブリジットは2、3度瞬いた後、また目を伏せてそう言った。
 言われたリリーは手酷く突き放された感じがしてぐっと唇を噛み締めたが顔とお腹に力を込めて「では勝手に座らせて頂くわ」と言い、腰を下ろした。
 組分けはまだまだ続いていたが グリフィンドール生たちの視線はこの二人──と言うよりもリリーに集中していた。何の為にブリジットの前に座ったのか興味津々と言った様子だった。
「……」
「……」
 だがリリーは話しかけない。見た目に話倦ねている様子だ。そして勿論ブリジットから話しかける筈もない。しばらくの間、間近の席で見物していたシリウスは少々がっかりした様子でリリーに話しかけた。
「君──エバンズだっけ? どうしてそこに座ったんだい?」
 恐らくそれはその場にいた全員が聞きたいと思っていた事柄だろう。皆押し黙ったまま耳をそばだてていた。
 一方、いきなり質問されて、しかもそれが核心に他ならない事柄だったリリーは目を見開いてシリウスを見た。
「これは失礼。僕の名前はシリウス・ブラック。以後よろしく」
 言ってシリウスは優雅な微笑みを浮かべながら右手を差し出した。面を食らいながらもリリーは怖ず怖ずと右手を差し出し握手した。
「こちらこそよろしく」
「うん。──で?」
「で?」
「だから君はどうしてアンブローズの前に座ったんだい? 僕が見てた分に君たちはついさっきケンカ別れしたばかりだと思うんだけど」
「……っ」
 相変わらず優雅な笑みを浮かべたままのシリウスをリリーはキッっと睨み付けた。その気の強さにシリウスは眉を上げて実に楽しそうに笑った。
「あなたには関係ないわ!」
「関係があったらこの程度の口出しで済むと思うかい? 純粋な好奇心だよ」
「!」
 飄々としたシリウスの態度にリリーの頬にさっと朱が差した。勿論、羞恥に因るものでは無いことは明らかだったがシリウスはにこにこ笑い続けていた。その殊更癪に障る笑顔にリリーが何かを言おうとした時、
「私に何か用なの? ミス・エバンズ」
 と、漸くブリジットが口を開いた。シリウスは不作法にも机に肘をつき、手に顎を乗せてブリジットを見た。
「ミス・エバンズねぇ……。アンブローズ。彼女はさっき君のことをファーストネームで呼んでたって言うのに……。 えらく他人行儀なんじゃないのかい?」
 シリウスの言葉にブリジットは訝しげに眉根を寄せた。そして痛烈な言葉を口にする。
「他人行儀も何も、私たちは他人以外の何者でもないでしょう?」
「!」
「……それを面と向かって言うかな、普通。だから君、彼女から冷酷だと言われるんじゃないのか?」
 呆れたように肩を竦めてからシリウスはリリーに「そうだよな?」と同意を求めた。
「ファミリーネームを呼ぶことがどうして冷酷なの? 寧ろ親しくない間柄だとしたら礼儀なのではなくて?」
「……」
 ブリジットの言葉にリリーはガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。自分から離れておいて文句を言う権利など無いのは分かっているのだが、こうしてはっきりと言い切られると悲しくてしょうがなかった。思わず盛り上がってくる涙を、唇を強く噛み締める事でなんとか耐えた。
「可哀想に。アンブローズ、彼女泣いてるよ」
えっ!?
 それは余りに大きな驚愕の声だった。一瞬、ホールにいる全員の視線がブリジットに注がれたがブリジットは気づかずリリーを注視したままだった。そして珍しく戸惑いの色を含んだ声音で俯いているリリーに声をかけた。
「どうしてあなたが泣くの?」
「……」
 唇を噛み締めていて答えられないリリーの代わりにシリウスが答える。
「そりゃあ、君に『親しくない間柄』って言われてショックだったんだろう」
「お黙りなさい、ブラック家の。それはあなたの意見であって彼女の意見ではないわ」
 高飛車にもそう言い捨てたブリジットにシリウスは「それは失礼」と肩を竦めて見せた。ブリジットは改めてリリーに向き合った
「ミス・エバンズ。どうしてあなたが泣くの? 私にはどうしてあなたが泣く必要があるのか全く分からないわ」
「……」
 訝った声音にリリーは顔を上げてブリジットを見た。ブリジットはとても真摯な眼差しでリリーを見つめている。その様子から察するに意地悪で気づかぬ振りをしている訳ではなさそうだった。
「どうして、分からないのよっ」
「どうして、分かると言うの。私はあなたでは無いのよ? 仮に私があなたの心情を慮ってみたとしてもそれは私の主観から成るものであってあなた自身の本心ではないでしょう」
「……」
「……」
 ブリジットの言葉にリリーもシリウスも呆然として彼女を見返した。
「「君っていつもそんな堅苦しい考え方しているのかい?」」
 シリウスの声に第三者の声が重なった。
「「「「……………………」」」」
 見れば一人の少年がリリーの傍らに突っ立っていた。そしてクシャクシャの黒髪とハシバミ色の瞳を持つ少年はきっちりハモってしまったシリウスと微妙な表情で見つめ合っていた。
「……誰だい、君」
「……僕はジェームズ・ポッター。とりあえずよろしく」
 言ってジェームズはリリーの隣に腰掛け右手を差し出した。シリウスも頷き、「シリウス・ブラックだ。よろしく」と言って握手した。
「「!」」
 二人の目に力がこもった。未だ手は握り合ったままである。見れば二人ともプルプルと腕を振るわせながら握手していた。
「な、何をやってるの、二人とも」
 鬱血し始めた両者の手を見て身を引きながらリリーが尋ねた。ブリジットも眉根を寄せて不可解なモノを見る視線で二人を見ていた。
「「コイツが!」」
 またビタリとハモって二人は嫌そうな顔をした。
「「真似するなよ!」」
 3度目の正直……。
「「「「……………………」」」」
「……ミス・エバンズ、話を戻すわ」
 構っていられないと思ったのかブリジットの二人を見捨ててリリーに向き直った。
「「無視するなよ!」」
「「「「……………………」」」」
 ジェームズとシリウスは心底嫌そうにお互いを見つめ、ブリジットとリリーは脱力してそんな二人を見ていた。
「無視するなと言うのならその合わせ鏡の即興コントを止めてちょうだい」
「「そんなつもりは毛頭無い!」」
 ここまで合えば見事と言わざるを得ないだろう。リリーは感嘆の息をついて、
「あなた達とっても息が合ってるわよ」
 と評した。そして「まるで双子みたいね」とも付け加えた。
 それほど二人の言動は同じだった訳だが……当の二人はしばし互いの顔をじぃ〜〜〜〜っと見合った後、どちらからともなく手を放した。
「「確かに」」
「「「「……………………」」」」
 シリウスは大きくため息をついき、ジェームズはガリガリと髪をかき乱した。
「君に任すよ」
「ああ、任された」
 任せたシリウスは鬱血した手を揉みほぐしながら椅子の背もたれに背を預け、任されたジェームズはブリジットとリリーに向き直った。
「話を戻そう。ミス・アンブローズ。君はいつも堅苦しい考え方をしているのかい?」
 見事なまでの気持ちの切り替えである。
 だがその気持ちの切り替えについて行けないブリジットとリリーはただただ途方に暮れたのだった──。
つづく