『正邪』の剣
第十章 帰郷
「トゥハまでどれくらいあんの?」
「百四十ゴドス(約四千二百キロメートル)だけど、ウバラの足だったら二十日で着くよ」
「二十日か。結構あるんだな…」
  脇に目をやると景色が飛ぶように流れて行く。
  二人は試験の翌日、つまり今日ディルアラーンを出発──当然風月は人型を採り、要は色を変えている──し、《道》を使ってテレシュレルに到着した。そこで必要最小限の物を買った。王がくれた路銀は金貨一枚、ミドラ(百)・テト(十)・コルギ(一)銀貨、銅貨、青銅貨がそれぞれ十枚づつ。テト銀貨一枚で一年間裕福に暮らせるこの世界では法外過ぎる金額だった。そして二人がテレシュレルで購入した物の中に、先程話に出て来たウバラという移動用動物がいる。ウバラは全長五メートル、二本足で走る野生爬虫類動物であったが、その逃げ足の早さと持久力、そして何よりも魔物や猛獣を素早く察知する臆病さを買われて商品化されたのだ。勿論値段はピンからキリまであり、二人が買った二頭はテレシュレルの売り場では最高級品。テト銀貨七枚もする代物だった。──高い買い物である。
  ちなみにテレシュレルとは西方颯土の最大都市で世界に六つ在る《道》の一つが措かれていた。
  ま、そんな事はさておき、聞いてのとおり現在の二人の目的地はダーヴェリア海溝ではなく、要の生まれ故郷トゥハだった。十賢者の話によると、トゥハは十六年前に魔物の襲撃を受け潰滅したのだが、また新しく復興されたらしい。残念な事に要の両親も襲撃を受けた時に亡くなっていて、他の村民と共に近くの小高い丘に葬られているそうだ。一度も会った事の無い両親だが、墓参りくらいしなければ非人情&親不孝と言うものだろう。
  かくして風月は要の願いを聞き入れトゥハに向かっているのである。



  二人の旅は九日程は何事も無く、道程も予定通り半ばに差し掛かっていたのだが、十日目にとうとう魔物に遭遇してしまった。相手をするのは当然の事ながら要であった。風月は二頭と共に結界に籠り、成り行きを傍観していた。
  魔物は相手にもならない一黒の中位二匹と二黒の下位一匹。醜悪な容貌に鏡で見た光景が頭を過ぎ、怒りが静かに要を支配する。地と風の精霊が要の感情に同調し蠢動する。剣をすらりと抜き放つ要を、魔物達は下卑た笑いを浮かべ取り囲んだ。
「ドウシタ坊主、逃ゲナイノカ?」
「坊、主?」
  愚かな魔物は要の怒りにガソリンを注ぎ込んでしまったのだ。びゅんっ、と正面の一黒に向けて要は縦一文字に空を切る。
「ヒャーハハハ! 坊主、ビビッテ空振リカ?」
  ズサッ 
「ア? ズサッ?」
  馬鹿笑いの魔物は音がした方を見遣る。真っ二つになった仲間の姿に二匹は驚愕の叫び声を上げる。
「アアッ! チトー!」
  下っ端は三黒と違って仲間意識が強いようだ。屍は幾何も無く塵も残さず消えて行った。二匹は今までの余裕をかなぐり捨てて要に襲い掛かった。要は冷めた瞳を向けパチリと指を弾く。ドンッという爆音と共に二匹の足元から白色の火柱が現れた。
「ギィヤアアアアーッ!」×2
  片方の火柱から影が踊り出る。業火の洗礼を受け、ぐずぐずに溶け落ちる腕を振り上げ、最後の攻撃を仕掛けて来たのだ。だが要は落ち着き払って自ら間合いを詰めると斜めに切り上げた。残ったのは二つに別れた焼死体。それもすぐに消えて行く。
   ゾクリ
  身震いがする。武者震いではなく、恐怖によるものだ。
(ほんとに、ほんとに殺しちまった…)
  その顔色は真っ青だった。殆ど勢いだったが、それでも自分が手を下して命をうばったのだ。脳裏に肉を切る感触が蘇る。
   ゾクリ
  無意識に己を抱き締めると、風月が異常に気付き声をかける。恐怖の呪縛が中断する。
「カナメ? どうした何かあったのか?」
「い、いや何でもない大丈夫。先を急ごう」
  妙に静かな剣を鞘に収めるとウバラに飛び乗り、腹を蹴って一気に駆け出した。
  それからトゥハに到着するまで七、八度同じような事があり、その度に要は風月を心配させたが、要が理由を述べる事は無かった。風月は事ある毎に尋ねたが成功しないままでトゥハに到着してしまった。
  到着した二人は早速宿を取ると、宿屋の女将に襲撃以前のトゥハを知る存在の有無を尋ねた。彼女は村長を挙げ、住所を教えてくれた。二人はすぐさま村長の家を訪ね、旧トゥハの住民だと言うと、村長は快く迎えてくれた。聞くところによると、村長は襲撃の頃隣村に出掛けていたので危うく難を逃れたのだそうだ。
「君は今幾つなのかね? 見たところ襲撃以前のトゥハを知っている様には見えんのじゃ。それに申し訳無いがカナメという名のお子はおらんかった」
  七十歳の域に差し掛かっている村長は禿げ上がった頭を撫でながらそう言った。
「確かにトゥハの事は何も知りません。…実は私は襲撃の当日に生まれたんです」
「なんとっ! で、では君はヴァハルとリューラのお子…、いや、イディア様なのですか!?」
  要が躊躇しながらも頷くと、村長は椅子から滑り落ちて蹲いた。驚いて走り寄る要の手を拝むように握り締めると涙を流す。
「賢者様が、賢者様がおっしゃっていた通り、お還りになられたのですね!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。村長さんっ、お願いですから」
  だが村長は一向に泣き止まず、要を心底困らせた。要が風月に助け舟を求めると、頷いて応え、風月は村長を抱き起こし椅子に座らせた。
「村長殿、落ち着いて下さい。でないとカナメが話せません」
  その言葉に村長は慌てて涙を拭い、息を静め謝罪する。
「申し訳ございません。どうも年寄りは涙もろくてしょうがない。…どうぞお話し下さい」
  まだ泣き笑いの状態だが、要は怖ず怖ずと切り出す。
「ほんとに私的な事で申し訳無いのですけど、父と母の事を…教えて戴けませんか?」
  村長はにっこり笑って教えてくれた。
  要の父・ヴァハルは村一番の好青年で防具屋の腕の良い跡取り。母・リューラは鉱夫の一人娘で村一番の器量善し。村中の若者が彼女に夢中という、正に無敵のカップルだったらしい。二人は愛し合い、結婚し、幸せな新婚生活を築いた。そして幸福の結晶とも言える子を身ごもった。誰もが二人の、トゥハの明るい未来を信じて疑わなかった。が、現実は総ての存在が不幸のどん底に突き落とされたのだ。
   ──ソノ原因ハ自分ダ
  機械的な言葉が要の脳裏に響いた。
「イ、イディア様? どうなされました?」
「え?」
  要は泣いていた。自分でも気付かぬくらい静かに。その事実に驚き、俯いて片手で顔を隠すとそのままの姿勢で両親の永眠る場所を尋ねた。突然泣き出した要の心を察して、村長はすぐに教えてくれた。大通を通って村を出た左前方の丘にあるそうだ。二人は自分達の正体は伏せておいて欲しいと頼み、礼を言うと丘に向かった。途中、花屋で花を買い、丘に到着すると両親の墓を探した。墓標の数は約八十。一つ一つ名前を確かめて進むとやや奥まった所にやたらと花の多い水晶玉が嵌め込まれた大きめの墓石を見付けた。刻まれた名前を見ると二人の物であり、他にも色々彫ってあった。
『神子・イディアを産み奉りし 良き父 良き母 なる者 此処に 永眠る』
  突然雨が降りだした。要も泣いていた。風月が墓石の前に跪き花を捧げる。
「フゲツー、悪いけど先に帰ってくれる?」
「…分かった。風邪ひく前に帰えるんだぞ」
  墓石を見詰めたまま頷く。風月はゆっくりとした足取りで帰って行った。
「初め、まして、お父さ、んお母さっ」
  嗚咽がひどくうまく話せない。そんな要の心を占める感情は自分さえいなければという罪悪感。
  自分さえいなければ大勢の人達は死なずに済んだ。自分さえいなければこの人達は幸福な人生を送れた。自分さえいなければ、自分さえ…。
  冷たい夕暮れ時の雨が激しさを増し、雷鳴が轟いた。
(誰か私を…)
  救って欲しい? いや、罰して欲しいだ。自分だけでは分からないのだ、罪を贖う術を。強く握り締めた拳から血が滴り落ちた。
  不意に背後で足音がした。力なく振り返った瞬間、黒い爪が要を切り裂いた。反動で飛ばされ要はぶつかった墓石で背中を強打した。墓石に手を付き身を起こすと、ゲホリと血を吐いた。傷はかなり深い。鮮血が脈に合わせて流れ出る度に激しい雨に洗い流された。
「美味しそうな魂だわ。喰らえば格上げは間違いないわね。フンッ、たかが人間のくせに綺麗な顔ね、ムカつくわ。切り刻んでから食べてあげるわよ」
  二黒の女は微笑んで要の顔に手を伸ばす。だが要は動かない。死を意味する魔物が科人を裁く天使に思えるのだ。異様に伸びた爪が右の頬を裂く。墓石が微かに揺れ、ほのかに光る。
「叫びなさいよ。面白くないでしょ、ほらっ」
  でも叫ばない。額から流れ出た血が涙に見えた。殉教者の様な静かな面持ちの要に舌打ちし、女は止どめに心臓を刔り出そうとした時、墓石が鋭い光を放った。
〈俺の娘に何をするんだよっ〉
〈この子を傷付けたら許さないわ〉
  声と共に二つの靄、いや魂が現れた。男の方は魔物を退けるように強く輝き、女の方は要を守るように後ろか抱き締めた。純粋な『正』なる光に魔物は身をよじる。
「何よっ、その光を消してよ。苦しいじゃないの、早くっ」
  だが光は一層に強く激しく輝いた。魔物は我慢し切れないように唐突に姿を消した。
〈はっ、子を思う親の気持ちに魔物が敵うものか〉
  徐々に光が収まり明確な人型を採った。二十一、二の青年と十八、九の女。どちらにも人を魅了する華があった。
「お父さん、お母さん…?」
  あまり年の変わらない娘の問い掛けに、二人は照れ臭そうに頷くと表情を引き締めて傷を見る。
〈傷がひどい。早く止血しないと命に拘わる〉
〈気を確かにして頑張ってね…って。ちょ、ちょっと! 貴女!?〉
  耳鳴りがひどくてよく聞こえない。聞こえるのは耳障りな程に大きな自分の鼓動だけ。意識が薄まって来た。言わなければならない事はたくさんるのに。
「ごめん、なさい…」
  意識が闇に呑まれた。



「気が付いた?」
  声がした。目を開けると心配げな透き通った両親と、一目で分かる程怒っている風月の顔があった。
「何だってあんな無茶をしたんだ! お二人が呼んで下さらなきゃ死んでたんだぞ!?」
  怒鳴られた要は天井を見詰めたまま静かに呟く。
「──私に与えられた罰だと思ったんだ」
「何だよっ、罰って。そんなものカナメに必要無いだろ!?」
〈…親と言っても実感は無いだろうけど、話してくれないか? 一人で悩むよりもずっといい筈だから〉
  ヴァハルはそう言うと、濡れた髪を撫でた。霊体なのに確かな感触があるのは、相手が要だからだろうか?
  要は起き上がると水を一杯求め、風月が手渡してくれたコップを受け取り、喉を潤すとしゃべり始めた。
「私がいなかったらどうなってたのかなぁって考えてたんだ。村長さんが言ってた通り皆幸せに暮らして、天寿を全うしてたんだろうなぁって思ったんだ。私はたくさんの命と幸福を奪って生まれて来たのに、何にも知らないでのうのうと生きて来たんだって、思い知らされた」
〈だから死んでお詫びしようと思ったの?〉
  コクリと頷く。
   パァン! 
〈どうしてそんな後ろ向きな考え方をするのよっ、情けない! 大体誰が貴女を恨んでるって言ったのよ。悲しくなるじゃないっ〉
  叩かれた頬をおさえて俯く要に、リューラは更に怒鳴りつける。
〈顔を上げなさいっ。ちゃんと前を見るのっ。いいこと? 確かに私達は悲しかったし、悔しかったわ。でもそれは死んだからじゃない。つらい運命を背負わされた貴女の側にいる事も、手助けする事も出来ないのが悲しくて悔しいのよ!〉
  涙を流して激高する妻を落ち着かせると、ヴァハルは妻の話に言葉を添える。
〈あの時死んだ者達は誰もお前を恨んじゃいない。それどころかお前の運命を気の毒がっていた。だから俺達はここにいるんだ〉
  言葉の意味が分からず父親に顔を向けると彼は頷いて話を進める。
〈知っているだろうが、本来なら魂は二十日の洗礼の後、輪廻に取り込まれる。だが俺達はお前が心配だった。だから賢者様にお願いして、お前がこの地に還って来るまで止どまらせてもらう事にした。あれが俺達の寄り代だ〉
  彼が指さしたのは机上の水晶玉。墓石に埋め込まれていた物だ。
〈お前が触れる事で眠りから覚めるように仕掛けてあったそうだ。だから十九日後の昇天の前に、お前に不安があるなら取り除かなければならないんだ。言ってごらん、お前の不安を。俺達に〉
  そう言って娘を抱き締める。リューラも反対側から要を抱き締める。鼓動は聞こえないが心の暖かさが伝わって来る。二人にしがみつきながら要は喘ぐように言の葉を紡ぐ。
「怖いんだ。いつの間にか魔物を殺してる自分が。他の命を奪ってまで生きてる自分が怖いんだよ」
  リューラは抱き締めていた手をほどくと要に手を握り締める。
〈──カナメ、貴女虫を殺した事って…あるでしょ?〉
  リューラの真意は分かりかねるが、とりあえず答える。勿論、 YESだ。
〈虫の命も人の命も同じよ。死んで残るのは骸だけ。そして魂は輪廻に取り込まれるの。それは魔物も同じ。骸は残らないけどね。私の言ってる意味、分かる?〉
  頷く要に満足そうに微笑み話を続ける。
〈私達はね、直接手を下さなくても生きてるだけで色々な命を奪っているの。お肉を買って食べてもその動物の命を貰っているし、畑のために草を毟ればその草の命も奪っているのよ。でも私達は生きる事を止められないの。止めてはいけないの。だって女神様は生かす為に私達をお創りになったのだから。この世にある生命はね生まれた時から生きる事を許されているのよ〉
  だが、いくら許されているとは言っても罪悪感が消えるわけじゃない。そう言うとリューラは嬉しそうに微笑えむ。何がそんなに嬉しいのだろうか。
〈カナメ、貴女が他の命を奪って生きる事に罪悪感を感じるのは、きっと一生懸命生きてないからなのよ。でもそれは裏返せば、貴女が命の大切さを知っている事になるの。それはとても大切な事。それ知っているなら大丈夫。後は一生懸命生きるだけ。生きる為に戦うだけ。それが奪った他の命の分も生きる事になるの〉
  要は母親の言葉にしばし放心していたが、やがてその意味を理解する。二人を視界にとらえ発する声は震えていた。
「ほんとに、ほんとにそれでいいの? それで生きていけるの?」
  ヴァハルは娘の髪をかき撫でると苦笑する。
〈それで、なんて言ってるけどかなり難しいんだぞ? 一生懸命生きるってのは。まあ、参考までに聞いてくれ。俺が思うに生きる事は悩む事なんだ。と言っても、過ぎ去った過去の事で悩むんじゃなくて、未来について、だ。いっぱい悩んで、迷って無数にある道を選んで歩いて行く事なんだ。悩んで選んだ結果の善し悪しはどうでもいい。大事なのはそれによって得られる経験だ。俺の中では経験は思い出よりも生きた証だと思ってる。だけどお前はさっき死のうとしただろ? お前は思い悩む事、生きる事を放棄したんだ。カナメ、誤りは正さなきゃならない。誰かを傷付けたらなら償なわなきゃならない。だけど死は償いじゃなく、ただの逃げだ。逃げちゃいけない。生きる事を止めちゃいけないんだ。…俺達の言ってる意味分かる?〉
  要の様子にいまいち心配になって確認してみる。要は話が進めば進むほど、目を皿にして惚けていったからだ。ここ十日間の要の精神状態は真っ暗闇だったのだが、今は柔らかな光りに溢れていた。それほどまでに二人の話には威力があったのだ。
  この時初めてこの二人を自分の親だとしみじみ実感した要は、二人の手を取ると声を震わせて晴れやかな笑顔で答える。
「なんだろ、あんなに思い詰めてた筈なのに、段々と気が楽になって来た。父さん、母さんありがとう。もうこの事で落ち込まない。きっと大丈夫。きっと一生懸命生きて行けるよ」
  初めて見る我が子の笑顔に二人とも顔をほころばせ、要の額にキスした。
〈よかったわ、役に立てて。とりあえずこれで安心ね。じゃあ、もうお休みなさい。夜も更けたわ〉
「えぇ〜? もっと話がしたいよぉ」
  すっかり打ち解けた要の不満顔に、ヴァハルは父親の威厳を以て諌める。親子の会話に遠慮していた風月も要を戒める。
「明日にはここを発つんだから、今日はもう寝なきゃダメだ。でなきゃ体調崩すよ」
「だぁってさあ」
〈だってじゃない。俺達が昇天するまで後十九日あるから、その間に十六年間の空白を埋めて、親子の交流を深めよう。それでどーだ?〉
  不承不承に頷く要の頬に二人はキスし、水晶玉へと消えて行った。声が響く。
〈お休み、いい夢をご覧〉
〈お休みなさい、愛しい子〉
「三人ともお休みなさい、また明日ね」
「お休み」
  そして一六年振のご体面の夜は更けていった。



「イディア様、これをお受け取り下さいませ」
  翌日、出立の挨拶の為村長宅に立ち寄った要に、村長は奥から箱を取り出し、差し出した。開けて見るとトゥハ特産のヴァジロス鉱で造られた一対の手甲だった。人の好意に遠慮しない要は早速小手を付けてみる。使い手に合わせて伸縮するヴァジロスの手甲は、まるで要の為に設えたかのように馴染んだ。
「これは?」
〈それは…〉
  要と同時にヴァハルが呟を発した。
「今は亡きイディア様のお父様が生前イディア様の為に造られた品です。十六年間お預かりしておりましたが、今イディア様にお返しします」
  又も泣き笑いの村長に要は礼を述べた。
「是非またこちらにお越し下さい。その時こそ、村を上げてイディア様を歓迎致します」
「勿論です。村長さんも元気でいて下さい」
  別れの挨拶に握手をすると二人は村長宅を出て、トゥハを発った。
  こうして要の慌ただしい帰郷は幕を綴じたのは枯葉月十八日の事である。
つづく