『正邪』の剣
第十七章 『正邪』再戦
「呼ばれて、飛び出てジャジャジャジャーン………って、ここじゃウケねーな」
  神々しく輝くその姿とは正反対のおちゃらけた声音に緊張を解かれ、キシェル達は口々に歓声を挙げる。
「カナメ―ッ!」
「キシェル、怪我は無いか?」
  空を駆けて抱き着いて来たキシェルを抱き締め、要は幼子の安否を気遣った。
「こわかったよぉ!」
「あぁ、泣かないでキシェル。今はまだ危ないからフゲツ達と避難してて」
  泣きじゃくるキシェルにかまってやりたいが、いかんせん状況が状況だけに許される事ではない。要はラーズラーシャに向かって一言。
「ちょっと待っててくれよ」
  返事も聞かず風月達に向かって飛んで行った要はやはり只者ではないだろう。ラーズラーシャは勿論、外野にしても、平気で敵に背を向ける要に呆然としているのだから。
「ちょ、ちょっとカナメ! 敵に背中なんか見せて…」
  キシェルを受け取りながらカーティはおろおろと説教(?)する。
「だいじょーぶ。『邪』と言えど神なんだ。めちゃくちゃプライドの高い奴だったし、後ろからこそこそ仕掛けるなんて卑怯な真似、死んだってやんねーよ」
  お気楽な声、お気楽な笑顔。カーティは心配している自分が何だか馬鹿らしく思え、その裏側で要に対する信頼感や安心感がより確固たる物となっていくのが分った。
「あっそーだフゲツ。危ないから、なるべくこっから遠い所に避難してくれ。もしかしたらどこに居ても同じかもしれないけど…。あ、この事は他の守護神獣にも言ってあるから。んじゃ、二人ともキシェルを頼んだよ。キシェル、良い子で待って…」
「いや」
  キシェルはカーティの腕から抜け出て要の首にしがみついて却下した。
「いやって…。キシェル、良い子だから…」
「あたし、いいこじゃないからここにいる。カナメといっしょにいるの!」
  その後、どんなに宥め透かしてもキシェルは首を縦に振らず、離れまいとする一心故か、要の首が縊れる程しがみつく腕に力を込め、幼児特有のキンキン声で喚きたてた。結果、余りの苦しさとうるささに要は根負けしてしまい、居合わせる事を不承不承ながらも、許可させられてしまったのだった。だが、それだけが許可の理由では無かった。
(どこに居たって、この戦いの余波を受けるかも知れない…)
  そんな思いがあったからこそなのだ。
「じゃあ、キシェル出来るだけ遠くで見ててよ。後…これを左手首にはめておくこと。いい? わかった? …そっちはどうする? 残るのか、それとも王宮に帰るのか? ―勿論残るってか。あっそ」
  後の方は十賢者への問い掛けと、その応答に対する言葉だ。
「まるで孫悟空だなぁ…」
  そう言って、渋々要は髪を二十三本引き抜いた。満遍なくと言っても結構痛かったらしく、手にした髪を憮然とした表情で眺めて居る。そんな要に関係無く、淡い光を発する白銀の髪は各々細密な意匠の施された腕輪に変成した。
「少なくとも私の力は完全に遮断される筈だから、絶対に外さないように」
  三人は神妙に頷いて腕輪を受け取り、腕にはめる。腕輪は伸縮し、主の手首に吸い付くように収まった。
「あいつの力もある程度は防げるだろうけど、本当にある程度だから…。後は自分達で避けるなり何なりしてくれ。で、これをあいつら渡しておいてくれ。それでだ、さっきも言ったけど、二人ともキシェルを頼んだぞ」
「分かりました。イール…いやカナメ、気を付けて」
  二柱の前世を知る風月に言える言葉はこれしか無く、出来る事は要に頼まれた通りにキシェルを護る事しか無かった。
「頼り無いかもしんねーけど、安心して思う存分戦ってこいよ」
  要はしっかりと頷き、順番に三人を抱き締め、その頬にキスをした。
「カナメッ! ぜぇったいにかたなきゃだめだからね! かってこなかったら、きらいになっちゃうからねっ!」「そりゃ困る。何が何でも頑張らなきゃな」
  苦笑に近い優しい微笑みを浮かべ、要は三人に背を向けた。キシェルとカーティ声が徐々に遠くなる。振り返って見れば十賢者は他の守護神獣と共に、風月達の方へと向かって行った。ちゃんと腕輪を受け取っているようだ。ウォーレンを始め、十賢者の送る激励の合図に手を振って要は応え、踵を返した。そして毅然と顔を上げ、ラーズラーシャと対峙する。
「引くつもりは無いのか? 本当に、本当に戦う事しか残って無いのか?」
  望む答が返って来るなどとは要自身も思って居ない。だが、出来る事ならこの戦いは回避したいのだ。
  勿論、ラーズラーシャの答は否である。更に冷笑を浮かべて、侮蔑の言葉を吐き捨てる。
「過去に縋るつもりか? イールディオンともあろう者が堕ちたものだ」
「………分かった」
  走馬灯のように浮かんでは消えてゆく記憶。要は、いやイールディオンはそれらを完全に時の彼方に押しやった。
「あの時と同じだ。私はお前を倒し、歴史は繰り返えされる」
「世の中、そうそう上手くはいかないものだ」
「見たところ成長してないようではないか。今回も私の楽勝のようだ」
「楽勝と言う言葉の意味が分かっていないな。馬鹿さ加減が顔に現れてるぞ」
「お前に言われたくはない!」 
  皮肉の応酬に終止符を打ったのはイールディオンの方だった。



  戦いが始まって僅か二分。皆の口からこぼれる言葉はただただ、
「凄い…!」
の一言に尽きた。先の大戦経験者でもある魔物達でさえも、より強大さを増した二柱の戦いを固唾を飲んで眺めるよる外なかったのだ。それ程に二柱の戦いは苛烈を極めた。時々空間が破裂し、天の星やゼルデガルドがあちこちと消滅して行く。そして時々ならず飛んで来る強烈な力の破片から判断すると、イールディオンは戦いに没頭し過ぎてキシェル達の存在を記憶の彼方に押しやってようだ。
「……あいつ、俺達の事なんざ綺麗さっぱり忘れてやがるぜ」
  カーティが憎まれ口をたたいたが、その声は興奮と驚愕を帯びて震えていた。
「俺達さ…あいつ―じゃなくてあの方とよくタメ口なんてきいてよなぁ」
  呆然としたトトラトの呟きに、他の賢者達はうんうんと頷いた。
  そんな中、守護神獣達とキシェルは心配気に戦いの行く末を案じていた。
〈うぅぉぉおおおおぉぉお―!〉
〈あああぁぁぁあああああ!〉
  突如、姿無き者の絶叫が皆の耳を貫いた。
「な、なんやねんなこの怒った声は!? 精霊のんかいな!」
「いきなり何なんだよ! なんだってこんなに怒ってるんだよI」
  耳を塞いでも直接頭に響く大音響に負けないぐらいの大声でアルマリアとパルトバールが叫んだ。
「……イールディオン様とラーズラーシャ様の感情に引きずられているんですよ」
  一頭の守護神獣が呟いた。
「もしかして…」
  ウォーレンは眉間に皺を寄せながら鏡を創る。映ったのは地獄絵。あらゆる精霊や生命の暴走によるものだ。
「まずい…! このままでは世界が崩れ落ちてしまう!! お前達っ早、…」
『鎮まれっ!!』
  ウォーレンが賢者達に命を下そうとした時、恐ろしく威厳に満ちた、二柱と守護神獣以外には発する事の出来ない、雷霆のような不可思議な怒号が世界を支配した。
  世界は唐突に静まり返った。賢者達はのろのろと顔を上げ、怒号の主を見遣った。イールディオンは既に戦闘を再開していて、相変わらず魔法がぶつかり合った時に生じる閃光が、空間を白く染め上げていた。
「今、何か言ったのか?」
  脳裏に掛かるもやを振り払うかのように頭を振るカーティが隣に浮かぶ風月に尋ねた。
「ヴェルハー…神代語で『鎮まれ』と…」
「あれが、ヴェルハー、神代語…。初めて聞いたぜ」
  神代語とは読んで字の如し、神代で使われた神の為の言語で、言葉自体に魔力が宿っており、知っていれば―知っている筈は無いが―魔法使いでなくとも魔力を行使出来るのだ。勿論、魔力を持っているならその威力は相乗して強大化するのである。このイールディオンの命令に対抗出来るのは、ラーズラーシャしか居ず、一介の精霊や生命に抗う術など在る筈も無かった。
「! ―…わかりました。十賢者殿、今すぐ世界中の魔法使いを総動員して各地の救済に向かえ、とイールディオン様からの指示がありました。勿論私達もお手伝いします」
  守護神獣の依頼を了承した十賢者はすぐさま移動を行った。
  残ったのはキシェル、カーティ、風月の三人だけだった。



「やはり、魔法だけでは決着がつかないな」
  面白くなさそうにイールディオンは右手に気を込めた。眩い放電光が絡み付き、掌から透明の切っ先が顔を覗かせた。それは徐々に長さを増し、あっと言う間に巨大な剣が現れた。ラーズラーシャは剣を見てニヤリと挑戦的な笑みをこぼした。
「それを出すか…。面白い。ならばこちらも同じものを出さねばなるまいな」
「何?」
  ラーズラーシャの白い手が空を撫でた。一万五千年ぶりに行われた創造。創り出された物は、彼女と同じ剣。
  『正邪』の剣だ。
「あの時もこうすれば良かったのだな…」
  ラーズラーシャは水晶の如く透き通った刀身を通してイールディオンを見据える。
「分かっているだろうが、それは相手を突き刺さなければ意味は無いのだぞ?」
  ―お前にそれが出来るのか?
  イールディオンの目は口程に物を言う。
「………」
  言外の意味を感じ取ったラーズラーシャは静かにムッとしているようだった。僅かながら寄せられた眉根が如実に物語っている。
「まあ、この方が手っ取り早くていいかもしれんな」
  形見の手甲と仄に白光を発する刀身に接吻て祝福を与え、剣を斜に構えつつ、イールディオンは改めてラーズラーシャと対峙した。
「では第2R開始だっ」
  キーンッ
  打ち合った剣から火花と透明な金属音が飛び散った。
「くっ」
「!」
  双方の腕に鈍い痺れが走る。イールディオンはやや意外の念を浮かべてラーズラーシャを眺めた。彼女の記憶の中のラーズラーシャは一度たりとも剣を振るった事がなく、また振るえる事を言いもしなかったのだから。力は互角。剣筋も類似している。
「意外そうな顔をしているな」
  どこか厭味をちりばめた艶やかな笑顔を浮かべて構え直す。
「隠し技と言う訳か…」
  憮然とした表情で応える彼女は声にならない呟きを発する。
  ―まあ、私にも隠し技が有る訳だし…
(でも出来る事ならば生涯隠し技にしておきたかったが…。仕方ない頑張るしかないな)
  気を取り直して、剣を構え直し、二柱は再び切り結んだ。斬撃が百を越え、千を越え、万を越えたのは何時だったか…。既に夜は明け、昼を過ぎ、夕方になっている筈なのに太陽が昇って来なかった。どうやら先の空間破裂に巻き込まれたようだった。故に打ち合う度に起こる閃光は強さを際立たせ、三人の目はかなり疲労していた。当の閃光製造者達は完全外野無視である。
(さすがに疲れて来たな…。ラーズラーシャもかなり手にきてるようだが…)
  気持ちを落ち着かせるようにイールディオンは大きく息をついた。
(……動きが僅かだが鈍くなってきた。フリか? いや…、様子を見るか…)
(動きが慎重になった。わざとかどうか疑ぐっているのか…?)
  腹の探り合いが続く中で、イールディオンは動きを徐々に緩慢にしていった。それでもラーズラーシャは踏み込まない。かなり疑ぐり深い性格のようだ。
  イールディオンもラーズラーシャも剣圧による鎌鼬が原因でかなり傷付いていた。実際の傷は付くと同時に癒される。神力・体力も欠けると同時に増して行くのだが、そうはいかない精神力が限界に近付き、ついに勝負をかける事にした。



「カナメの動きが落ちてきてるぜ。大丈夫かよ」
「カナメがまけるはずないよっ! ねっ? そうだよねっ?」
  キシェルはキッとカーティを睨みつけ、風月に同意を求めた。が、風月はただ生返事を返し、戦いを注視するばかり…。ふと二人の動きが止まった…。怪訝そうな視線を送る二人に風月は緊張した面持ちで呟いた。その声は心なしか震えているようだった。
「次で終わりだ…。次の一撃で。イールディオン様もラーズラーシャ様も息を整えて、気を高めていらっしゃる…!」
「!」×2
  風月の言う通り、二柱の肩がゆっくり上下している。その間隔が徐々に長くなり、総ての動作が止まった…。
『はっっっ!』
『!』
  一瞬の事だった。透明の刀身は正確にお互いの胸に深く突き刺さった。
「いやあぁぁあ―! カナメ―ッ」
「カナメェェッ!!」
「王!」
「ラーズラーシャ様ぁっ!」
「………」
  ラーズラーシャの背から突き出た刀身が、遠目にも鮮やかな漆黒に染まった。
「これじゃ…、これじゃただあいつらの『正邪』が入れ代わっただけじゃねーかっ!」
「やだよ、カナメがカナメでなくなちゃうなんて、やだやだやだやだ!」 
  二人が泣きわめき、魔物達が呆然としていたが風月は静かな瞳をしてる。
「違うっ、二人とも落ち着いてイールディオン様のお背中を見るんだ」
「落ち着けだと!? お前、よく…」
「いいから、見るんだっ!」
  風月の強い調子に気勢を殺がれた二人は顔を上げ、イールディオンの背を見遣った。
「カナメの背中がどうだっていうんだよ」
  憮然としたカーティに風月は呆れた表情を向ける。
「お前、何も気が付かないのか?」
「って…。あ、あぁ〜! 剣が、剣が背中から出ていない!」
「その通り」
  風月は心からの微笑みで応えた。



『どういう事だ! これは! 何故、何故お前は変化しないんだ!?』
  ラーズラーシャの言葉通り、イールディオンの胸に収まった刀身はかけらも白くならなかった。
『私にもお前に秘密にしている事があるのだ』
『な、何なのだそれは…!』
  霞む目をしきりに瞬かせ、答を待つがイールディオンは微笑むばかり。
『イールディオンっ!』
『……後で教えよう。だから今は眠れ』
『! ……っ』
  強く彼女の腕をつかんでいた手が力を失い、もたれ掛かるようにラーズラーシャは浮力を失った。疲労の色の濃いその頬に真っ白な髪がかかる。その髪を払うと、イールディオンは片手で器用にラーズラーシャを支え、既に白を経て、透明の刀身に戻っている剣をその胸から抜き去り、三人の元へと向かった。
「カナメ? ほんとのほんとにカナメなの?」
  キシェルの小さな手が怖ず怖ずと伸ばされ、要の頬に触れた。ラーズラーシャを風月に手渡した要は、キシェルの髪をくしゃりと撫でて微笑む。
「キシェルに嫌われたらヤだから、一生懸命頑張ったんだよ?」
  色違いの瞳から大粒の涙が次から次へとこぼれ落ちる。
「ちょ、ちょっとカナメ、それ痛くないのか? それにどうして…」
  言われて初めて気が付いたように、要は『正邪』を引き抜いた。剣は物理的な長さを無視して要に収まったいるようだった。
「心配させて悪かったな」
  要は右手にキシェル、左手に二本の『正邪』を抱えて殊勝気に誤った。
「あ、謝るなよ。第一、心配なんか全っ然してなかったんだし」
「そうか? じゃあ、期待に添える結果だったろ」
「結果は良いけど、過程がなぁいまいちなんだ。だから…八十点ってとこかな」
「厳しいなぁ」
  残念そうにへの字口をする要にキシェルが注意を引き、疑問を口にする。
「ねえねえカナメ。どうしてカナメは『せいじゃ』がきかなかったの?」
  要は少し考えてから答える。
「……鞘だからだよ」
「え?」
  言葉の意味が解らず二人は聞き返す。
「私はこの剣を、『正邪』を納める為に創られた鞘なんだ。抜き身のままじゃ、危険極まりない代物だからね」
  そう言って『正邪』を眺める瞳はどこか物悲しそうだった。要は一方を身に納めると、もう一方を処理を思案する。
「さてと、もう一振はどうするかな…。やっぱ消滅させるのが一番だな」
「どうして消滅なんか。勿体ない」
  意外そうにカーティ問う。
「私は一振しか納められないんだ。このままじゃ危ないしな」
  要は逆手に持っていた剣を順手に直し、切っ先を天に向け、ヴェルハーを紡ぐ。
『汝、ラーズラーシャに創られし『正邪』よ。我、イールディオンの名において命じる。…消えてなくなっちまえ!』
  言葉と共に『正邪』は霧散した。
「帰ろう」
  三人を促し、三人の為の《陣》が足元の中空に現れる。
「待てっ! 王を、王をどうするつもりだ」
  遠くから魔物達の声が響いた。
「もうお前達の王じゃない」
  振り返りもせず要はキッパリと言い切った。
「なっ!!」
  激昂する魔物達は殺気を露にし、詰め寄る。
「落着けよ。仮にこいつをお前達に渡しても、お前達の元に留どまる事は無いだろう。お前達にも解ってる筈だ」
「………」
  言い返す言葉は無かった。彼はきっと自分達を捨てて、この女神の元に…。
「―…行こーぜ、俺達の夢は終わったんだ」
  ふっ切れたように大きく息をついて、ゲシスが仲間に告げる。が、皆は見果てぬ夢を断ち切れずにいた。
「どうしようもないのかな?」
「どうしようもないさ」
  誰にともなく問うたガシェルに、ゲシスは簡潔に答える。それが、その答が魔物達の心に区切りを付けさせた。が、その顔にすがすがしさは無く、生気も無い。要はそんな魔物達に生の道へと促す。
「お前達、生きろよ。こいつへの柵を捨てて新しく生きろ」
  いきなりの思ってもみない言葉に一同、目を眇て要を見た。
「酷な事を言うのね。私達にとってラーズラーシャ様は総てなのよ? 総てを無くして生きてなんていられないわ」
  やり切れない。そんな表情でデーリアは吐き捨てるように呟いた。
「私達はもう王のお側に侍る事は出来ないのだ。眠る事も、待つ事も、夢見る事も…。この命が尽きるまで、そんなただ苦痛だけの生を送れと言うのか?」
  ライルーンが要を見据える。
  その緊迫した雰囲の中、カーティが呑気な声を挟む。
「……そんなにさぁ、王の側に居たいんなら使い魔になりゃいーんじゃねーの?」
「えっ…? 使い…魔?」
「ああ。そうすりゃ離れなくてもいい訳だし…。我ながら良い考えだ。うん」
  カーティは一人で納得して頷いて居る。だが、その言葉は深く魔物達の心に根付いた。
「だけど、王の意向が…」
  戸惑いを見せる魔物達に要は言い募る。
「どうしてもこいつと離れたくないなら、こいつの意見なんか無視すればいい。それに強く迫れば、無下につっぱねたりしない。ま、お前達にも色々意見ってものがあるだろうから、しばらく悩めよ。決心ついたら私を呼べ。手助けしてやるよ」
  ニッと笑って要は親指を立てた。そして《陣》に乗り込もうとした時、思い出したように魔物達へと振り向いた。
「そう言や、礼がまだだった。ありがとう。お前達のお陰で何とかなった」
「?」×4
  怪訝そうに眉を寄せる魔物達に、要は晴れやかな笑みを向ける。
「私が神力を解封する時、体張ってくれただろ? その礼だよ」
「あ、あれは…」
「お前達は両親の敵だけど…チャラにしてやるよ。じゃあなっ!」
  魅力的な笑みを残して要達は消えた。
「……イールディオンってあんな奴だったっけ?」
  美少年が呆然とした様子で呟いた。
「性格変わったんじゃないの」
  美女が薄く微笑む。
「前よりは取っ付きやすそうだな。はっきり言って人間くさい神だぜ」
  短髪の美青年が軽快な口笛を吹く
「さて、貴公等はどうするのかな?」
  長髪の美青年が問う。
  答えは艶やかな笑顔だけだった。
つづく