Ghost Hunt

◇◆◇嵐を呼ぶオンナ◇◆◇
#3
『どう?皆さんとは仲良くやってるの?』
「・・・・・ま、それなりには」
『久々の日本でしょ。やっぱり懐かしくなったりしてるの?』
「良くも悪くも、生まれ故郷だし、ね」
『んもう!なんなの?やけに暗いわね、何かあったの!?』
「別に何も。あんまりドタバタしてるから、少し疲れただけ」
『・・・・・そう。あんまり無理しないのよ?調子悪くしちゃ元も子もないもの』
「ええ。まどかも、今調査中でしょ?怪我しないようにね」
『それはお互い様よ。・・・・それじゃあね』

半ば一方的に切られた電話。彼女は溜め息をつきながら、ポケットに携帯電話を収める。既に日は暮れていて、辺りには夜の静寂と闇が降りていた。
しんと静まりかえった長い廊下。
身体の芯から冷え切ってしまいそうな温度。
気味が悪いとはたしかに思うが、それでもここを動く気にはなれない。
点々と、申し訳程度に灯っている小さな明かり。
物音ひとつしないその場所で、彼女はガラス越しに見える夜空に目を細めていた。



「リンさん、これ返すね」
こっそりと呟くと、麻衣はリンの前にそれを差し出した。
モニターから視線をずらし自分の手元に置かれた物を見つめ、リンは僅かに驚いたような表情を見せた。
「この間、あの後ゴタゴタして結局リンさんに返すの忘れちゃったでしょ。すぐにでも返した方がいいと思って、調査まで持ってきちゃったの」
「・・・・・有難うございます」
カサリ、と乾いた音を立てて、リンはそれを手にとった。
数年前。まだ日本に来る前の自分と、彼女の姿を写している写真。自分の手元にある中で彼女の写っている写真はこの一枚だけ。
彼女はよく「撮られるのは好きじゃない」と言う為、周りも無理に撮ろうとはしなかったからだ。
知らず目を細めてそれに見入っていたが、麻衣の声にふと吾に返った。
「今更かもしれないけど・・・・・・ほんと、ナオミさんて綺麗だよね〜・・・・。なんてゆーか、『華』があるし。ちょっとした仕草とか表情とかに、同性でもすごく惹かれる気がする」
「――――そうですか?」
「うん。そう思わない?気取ってないし、明るくて、タフっぽいよね。すっごく細いのに、それ以上に逞しい感じがするの」
「タフ、ですか・・・・・」
普段の彼女は、たしかに『タフ』だ。それこそ、あの黒衣の上司ですら手を焼くほど。
他の人間なら裸足で逃げていくような毒舌・皮肉・罵詈雑言も、彼女はけろりとやり過ごしてしまうのだ。

飄々と、風に乗るように。

何にも捕らわれず。自分を抑えることもせず。

その自由な空気が疎ましく思えた時期もあった。
それまで自分のいた世界に、彼女はいとも簡単にすんなりと入り込んできたのだ。邪魔をされたくはなかった。
それまでに作り上げていた自分の領域―――世界観、価値観と言うようなものを、勝手に作り変えられたくはないと思った。

だから。

当たり前のように笑って打ち解けようとする彼女に。

――――私は、痛烈な言葉を吐きかけた。

・・・・・・あの時のことは、酷く鮮明に刻まれている。
「心が痛む」ということを身をもって知った。自分の投げつけた言葉の重大さを悔やんだ。

彼女が何故あんなにも笑うのか。

あんなにも人を受け入れるのか。

その意味を、理由を知った今。もう私は彼女に、二度とあんなセリフは吐けない。
それがせめてもの、彼女への償いだと思っている。

そして。

彼女が何故、突然あんなセリフを吐いたのか。

『馬鹿馬鹿しい』『吐き気がする』『つまらない仲良しごっこ』・・・・・。

そんなふうに、排他的な言葉を口にしたのか。

――――――その理由。


「リンさん?どうかしたの?」
「・・・・・・いえ。谷山さん」
「はい?」
「彼女を・・・・シェリーを、どう思いますか?」
「好きですよ」
あっさりと、麻衣は公言した。
きょとんとした顔で小首をかしげると、麻衣はまじまじとリンの顔を見る。
「なんですか?いきなりそんなこと。私、ナオミさんのこと嫌いじゃないです。むしろ大好き。ぼーさん安原さんも綾子もジョンも真砂子も、ナオミさんが一緒にいるの、もう当たり前みたいに思ってると思う。それって『受け入れられる存在』だからでしょ?『受け入れられない存在』っていうのは、『嫌い』ってことと似てると思う。だから、『皆に受け入れられる』ナオミさんは、みんなにとって『好き』な存在なんだよ、きっと」
「・・・・・そう、ですか・・・・・」
その言葉が妙に感慨深げで、リンは麻衣がいつの間に成長していたのかと小さな驚きを感じた。
だがそれは、麻衣ならではの言葉なのかもしれない。

父を亡くし、母を亡くし。

兄弟も親戚もいないこの少女は、ひとりで生活している。

そんな中で自然とその視野を広げ、多くの事を学んだのかもしれない。

家族のいない少女。時折訪れる協力者達を、少女は家族のように慕っている。
ほほえましいぐらいに、まるで本当の親子のようなやり取りもする。
それは『仲良しごっこ』などではなく、本物の家族の空間。
好きな相手に、家族同然の者達を『つまらない仲良しごっこ』だと言われたら。
この少女は、酷く傷つくだろうに。
「・・・・・谷山さん」
「え?」
「シェリーは思ったことを何でも口にするようで、案外肝心なことを言わないんです。一番重要なことや、表に出さなければならない感情をセーブして、呑み込んでしまうんです」
「・・・・はあ」
「素直に気持ちを伝えられず、それが溜まっていきなり暴言や厭味を言ったり。不必要に他人を傷つけることがあるんです。・・・・・ですが」
「・・・・・・・」
「それはサインです。素直に助けを求められない代わりに人を傷つけているだけです。ですからもし彼女が谷山さんに何か言っても、それを鵜呑みにしないで下さい」
「・・・・・・・・」
「受け止めてやってほしいとは言いません。ですが、そのことは分かっていて下さい」
「・・・・・リンさん」
「――――はい?」
「リンさんって・・・・ほんとうにナオミさんのこと理解してるんだね・・・・・」
「は?」
ぽかんとした表情のまま言った麻衣の言葉に、リンは素っ頓狂な声を出した。
そして暫くお互いに顔を向き合わせた後、ふたりは小さく声を漏らして笑い合ったのだった。



あとがき
【休憩】
・・・・・・?????(←疑問符の嵐)。
なんでまどかさん?なんで麻衣とリンさん??ええええ?????
一体何が起こったの???
人生ってわからないことだらけですね〜(偉そう)。

続きます〜終わりません〜あしからず〜。
空也サマ、もうネタ詰まりです。なんだかまったく違う毛色の話も書きたいので、
また何かリクしていただけないでしょうか?
こちらから催促して書かせていただく以上は精一杯筋道立てて頑張るです・・・。
愛を下さい・・・(涙)。
麻衣……やっぱええこや……。
でも、シェリーちゃん、やっぱり何か暗い過去でもあるんでしょうか?
ストレスは貯めちゃイカンですよ。はい。

それにしてもリンさん、なんか物凄くシェリーちゃんの良き理解者になってません?
なんかそれって……すんごい羨ましいです!!

蓮美さーん、リクエストOKなんすか?
うっふっふ〜、それじゃあですね、『ナルがジーンのお茶目に振る舞わされるお話』を希望します!
でも!  『嵐を呼ぶ女』のも楽しみに待っておりますので……。
体壊さない程度に頑張ってくださいませ。
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