Ghost Hunt

◇◆◇嵐を呼ぶオンナ◇◆◇
#5

傷付く事を知っています。

悲しいことを知っています。

寂しいことも知っています。

辛いことや、苦しいことはたくさん知っているけれど。



――――――愛されることを、必要とされることを。

わたしと言う存在を認められる安心や、喜びでさえ。



わたしはまだ 本当には知らないのかもしれません・・・・・。









「・・・・・一体何事だ・・・・・?」
「―――滝川さん」
すでに深夜とも言える時刻。数十分も前に他のイレギュラーズと共に寝室へ引っ込んだはずの滝川は、めっきり人口密度の下がったベースに戻った際になんとも言い難い光景を目の当たりにした。
ソファに横になって寝こけている女性・・・・シェリー。
ソファに向かい合う形で簡易椅子に腰かけ、珍しくモニターの前から移動しているリン。ナルは仮眠を取るため寝室に行ってしまったため、ベースには彼らの他は誰もいない。
「お嬢・・・・なんでこんなトコロで寝てるんだ?」
「いえ。・・・・・・寝付けなかったようです。寝室に行ってすぐに戻ってきて、そのまま」
「へえ。・・・ところでリンさんや」
「なんですか」
「お前さんも案外過保護だな」
おそらく自分で寝室から持ち出してきたのだろう、彼女は薄手の毛布を被っているが、その上からは更に黒一色のコートがかけられていた。
男物。それも大分大きい。
言うまでもなくリンの物である。
滝川の言葉に苦笑を返すと、リンは立ち上がりモニターの前に戻る。
そして今度は滝川がその簡易椅子に腰掛け、手を伸ばせば届くほどの距離しかない彼女の寝顔をまじまじと見つめ、ぽつりと呟いた。
「今更と言ったら今更なんだが・・・・・。ほんっとに見目麗しいお嬢さんだよな」
「谷山さんも同じようなことを言ってましたよ」
「麻衣が?」
「『明るくて逞しくて気取ってない』、とも言ってましたが」
「確かにな。そんな感じだ」
どこか笑いの含んだ声でそう言うと、滝川は少し何かを考えるふうに真面目な表情を見せる。黙ってその様子を見ていたリンに、滝川は唐突に疑問を投げかけた。
「リン、ズバリ聞かせていただくけどな」
「はい?」
「お前と、このお嬢さん。どんな関係?」
「―――は?」
質問の意図を測りかねる、と言うようなリンの反応に滝川は不服そうに言葉を付け加える。
「だから。最初のオフィスでもそうだったが、リンはこのお嬢さんには甘いぞ? お嬢さんがリンに抱きついたとき文句の一つも言わなかっただろ」
「・・・・・・」
「さっきだってそうだろ?お嬢さんがひとりで外行くって出てったら、お前までさっさと追っかけて出てったし。これを怪しまないで何を怪しめってんだ」
「・・・・・誰もわざわざ怪しめなどとは言ってませんが」
色恋沙汰にそういう正当な突っ込みはいらない!などとわけが分からない反論をする滝川に、リンは疲れたような面持ちでどっぷりと溜め息を付いた。
何故に人はこうやって他人の入り組んだ人間関係ばかりを、根掘り葉掘り知りたがるのだろう。
簡潔に言ってしまえば、彼女とはそんな面白味のある関係ではない。
そう言った類の意識を持ったことは無いし、おそらくそれは彼女も同じだろう。
「・・・償いですよ」
「何?」
「まだ出会ったばかりの頃に・・・・・。わたしはシェリーにとって畏怖の対象のような言葉を言ってしまって、酷く傷つけた事があったんです」
「・・・・・・」
「その事に気付いた時、自分の性格を恨みましたね。弁解も謝罪の言葉も言えずに、ただ無表情を装うしか出来なかったんですから」
「・・・・・・それで?今そうやって仲良しこよしってことは、ちゃんと謝ったのか」
「いいえ」
「いいえ、ってお前・・・・」
「何を言うより先に、彼女に許されてしまいましたから」
そのままナシ崩し的に交友を持つようになり、今に至るのだ。
他愛ない会話、儀礼的な挨拶。その延長上の、今の付き合いがある。
「あの時謝ることの出来なかった償いなんです。真っ向から頭を下げられなかった、私自身への報復です」
「甘んじて抱きつかれる事も?」
「いいえ。理解して、判断することがです」





足音が聞こえる。

軽やかな、子供の足音。

閉ざされた意識に届いたその足音に、麻衣は目を覚ました。
ゆっくりと上体を起こす。
カーテンの隙間から差し込んでいた月明かりは雲に遮られたのか、徐々にその明るさも陰っていく。
右側にはベッドが二つ。一方では綾子、もう一方では真砂子が、それぞれ穏やかな寝息を立てている。そしてふと左側を振り返ると、空のベッドが一つ。そこにいるはずの人がいない。
ベースに待機しているのだろうかと思ったが、寝具に不自然によっているシワがやけに目に付いて、麻衣はこっそりベッドから降りて部屋を抜け出した。
スニーカーを履いている麻衣の足音はあまり廊下に反響しない。
ベースへと向かい、物音一つしない廊下を小走りに駆け抜ける。
(やっぱ・・・気味悪いな・・・)
心の中でぶつぶつ言いながら、ふと何かに気付く。

足音。

スニーカーの自分の足音と、別の・・・・・・・。

背中に冷たいものを感じる。何かが、自分の後を追いかけて来ている。
自分の足音と重なるのは、ひたひたと聞こえる誰かの足音。

床に吸い付くような、裸足で歩いている時に似ている。

怖い。

振り返りたくない。

無意識に速度をあげる。
すると、謎の足音も速度をあげて自分の後を追ってくる。
心臓が口から飛び出すんじゃないかと思う。怖い。恐い。コワイ。
階段を駆け下りると、そこはもうベースに使っているホール。
縋りつくような思いで手を伸ばした。無我夢中でドアノブを引っ掴み力任せに扉を押し開く。

視界は光に包まれて、足音は聞こえなくなった。



血相を変えた麻衣が飛び込んでくると、ベースにいたリンと滝川は何事かと目を見開いた。
「―――麻衣!?」
「谷山さん?」
「・・・・・っ・・・・ぼーさ・・・リン、さん」
肩で荒い呼吸をしながら、麻衣は倒れ掛かるようにして勢いよくドアを閉ざす。
そのままずるずると座り込み、麻衣はドアに背中を預けたまま深呼吸を二度三度と繰り返した。
耳を澄ませる。・・・・・ドアの向こうに、もう何の足音も聞こえない。
それでようやく安心したように力を抜き、強張った身体の緊張を解いた。
「麻衣?何してんだ、お前」
「あ・・・・・、ナオミさんがベッドにいないから、気になって起きたんだけど。そしたら、誰かに追いかけられた・・・」
「追いかけられた?」
「・・・・・谷山さん・・・・・」
間をおいてかけられた声は、リンではなくシェリーのもの。いつの間に目を覚ましたのか、彼女は身体を起こしてへたり込んだままの麻衣を見た。
気のせいだろうか。彼女の視線は一直線に麻衣の髪へ向けられている。
秀麗な眉を顰め、その一点を注視していた。
「・・・・・・リンさん、霊の気配は読めましたよね」
「シェリー?」
「・・・・アレ・・・・・」
指も差さずただソレに視線を送っただけで、リンは彼女の言わんとする事に気が付いたらしい。リンもまた同じようにその一点を注視した。

フワフワとした栗色。背中の中心辺りまで伸ばされた髪の先。





・・・・その一部分だけ染め替えたように、赤黒い液体が毛先に染み付いていた。





あとがき
【休憩】
あ〜もうやってらんないわ〜。考えナシに続き物なんか書くからこう
いうことになるのだよ。行き詰まってますよっ!!
ですが調査って楽しいですよ、書いてて。「次は誰にどんな恐怖を
味あわせよっかな〜」とか思って書きます。ウッシッシッシ♪
・・・麻衣ちゃんごめんよ。愛ゆえに恐がらせてしまうのよー(==;)

リンさん甘っ!!グラニュー糖袋ごと口に突っ込まれた気分!!
シェリーさんもすみませんね、セリフが僅か3個っきゃない・・・・。

とーぶん終わりません。いっそのこと打ち切りにでも・・・・。
いかがです?空也サマ。
うわぁぁ、なんかエライ事になってます。怪現象です! 皆様!
なんて鮮やかな引きなんでしょう。蓮美さん! 続きが気になってしょうがないじゃないっすか! 
もう、ただでさえ睡眠不足(自己管理がなってないだけです)なのに、色々考えて余計に眠れなくなってしまう……。(T_T)

打ち切りなんて絶対にダメっす!! こんなに続きを心待ちにしているのに〜〜!
もう、絶対に、絶対に、絶対〜〜〜に続き書いてくださいね。
そうでないと泣きます。私。
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