「だいたい、まだみんな集まっていないだろうが。」
そう、まだ全員集まっていなかった。
この場にいるのは俺と、大志、そして由宇。
他のみんなはと言うと、瑞希と千紗ちゃんは料理を作っておりキッチンに。
詠美は買い出しに出ている。
後、南さん達数名は仕事とかで都合が合わなく遅れてくるそうだ。
「せめて、料理が出来るまで待てないのか?」
「ふ、甘いな同志一樹よ」
大志は眼鏡を右手の中指でクイッと押し上げる。
「我が輩はこの世界を統べる者。
ならば世界は我が輩を中心に回っている。
つまり我が輩が始めると言えば其処から全てが始まるのだ。」
大志は心底そう思っているのだろう。
何の迷いもなく、きっぱりと言い切った。
「はいはい。それについては何も話す気はないが、せめて料理が出来るまで待てよ。」
「それやったらもう出来たみたいやで。」
由宇がそう言う。
そしてその言葉に合わせたかのように瑞希がやってくる。
「和樹、料理できたから運んでよ。」
エプロンを畳みながらキッチンから瑞希が出てくる。
「ああ、分かった。」
俺はカウンターに並べられている料理を手にする。
宴会と言うことで唐揚げやらポテトやらつまみやスナック風な物が多い。
そしてそれら一つ一つの香りが鼻腔をくすぐる。
「瑞希、今日のは何時もにまして旨そうだな。」
そう言うと瑞希は軽くガッツポーズをし、
「そりゃ、今回のは腕によりをかけたんだから。
 それで美味しくなかったらなんだって言うのよ。
 千紗ちゃんも手伝ってくれたしね。」
瑞希の脇から小柄な女の子も現れる。
千紗ちゃんだ。
「お兄さん、千紗はいっぱい、いっぱいがんばったです。
 色々分からなかったこともあったけど、お姉さんに色々教えてもらってがんばったです。」
と言って、瑞希の真似なのか小さくガッツポーズをして、満面の笑みを見せる。
いい笑顔だ。
周りの人をも思わずほほえんでしまう笑顔。
それが千紗ちゃんにはある。
どんなに苦しいときも、絶えず笑顔を見せていた。
印刷所がつぶれそうになり、どこかに引っ越さなければならなくなったギリギリまで笑っていた。
だから俺は手助けしたくなり、『お兄さん』として出来る限りのことをした。
瑛美、由宇に頼んで印刷所を使ってもらい、俺自身チラシ等を作ったりした。
その地道な活動は実を結び、今も借金はある物の、これからもやっていける様にはなった。
最近では適度な値段に対して質のいい印刷をすると言うことで、
同人誌をする人間にとって御用達の印刷所という感じとなっている。
そして、千紗ちゃんのがんばる姿にファンもでき、ちょっとしたファンクラブもあるという噂だ。
「お兄さんどうしたんですか?」
俺が色々と懐かしんでいると千紗ちゃんは顔をのぞき込んでくる。
俺は千紗ちゃんの頭をなでる。
「それだけがんばったなら美味しいんだろうね。」
「はい。千紗もお姉さんもいっぱいいっぱいがんばった分、
 とってもとっても、美味しくなっているです。」
そして又、千紗ちゃんは満面の笑みを見せる。
この笑顔が守れたのだけでも色々した甲斐があったな。
自然と俺自身笑顔になる。
「ほら、さっさと料理を運びなさいよ。」
瑞希が怒ったような口調で言う。
でも表情は笑っている。
内心では『困ったもんだ』とでも思っているのだろう。
千紗ちゃんは瑞希のことをお姉さんと呼び、瑞希もそれを悪くないと思っている。
だからこそ俺と千紗ちゃんのやりとりが、兄妹程度の物と分かってくれている。
恐らく料理を作っている間は瑞希自体、似たような事していたのだろうし。
「今、運ぶよ。」
俺はそう言うと両手の手のひらに皿を乗せ、居間へと運ぶ。
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