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| 「みんな、盛り上がってる・・・って、何これ?」 編集長だった。 仕事が終わってそのまま駆けつけてきたらしく、 色々と手荷物を持っている。 俺はと言うと、部屋の端っこで 「隠者よろしく」と言わんばかりに毛布を頭からかぶり座り込んでいる。 大志はまだ飯を食っていた。 そして女性陣は俺達をハブにして盛り上がっている。 「・・・まぁいいわ。はい、又差し入れよ。」 編集長は小さな紙袋を俺に渡す。 何だろ? 酒にしては袋は小さいし。 ガサゴソと中からとりだしたそれは・・・。 「あっ・・・。」 コミックZの最新号だった。 それもまだ発売していない。 「編集長これは?」 編集長は「ふふ」と笑い、 「さっき刷り上がったばっかりの最新号よ。 一樹クンの短期連載最終話も載っているわ。」 その『最終話』と言う言葉を聞いて、女性陣はぴくっと反応する。 短期連載の最終話。 俺は3ヶ月にわたり短期連載をした。 この締め切りとかで、結構早く決まっていたこのマンションへの引っ越しが 今日まで延びたりした。 今回は冒頭ページをカラーと言うことで今まで以上に力を入れてきた。 この短期連載次第で今後も変わって来るという話も聞かされていたし。 俺はぱらぱらとページをめくる。 自分の描いた漫画がこうやってきちんとした物になると嬉しい物だ。 「編集ちょ〜う、1人でさっさと行くのはずるいですよ〜。」 声がした方を見るとそこには重たそうに段ボールを持った男の人がいた。 その人は俺の担当である長瀬さんだった。 「あ、長瀬さんも来てくれたんですね。」 俺は重たそうに持つ段ボールを受け取りに行く。 あまりにも重たそうで見るに耐えれなかったからだ。 「これなんですか?かなり重いんですけど。」 「あ、それは和樹クンの物よ。」 編集長は腕組みをしてそう答える。 一つ一つのポーズが絵になる人だ。 モデルのバイトもしていたことがあるというのも、 あながち嘘ではないのであろう。 「俺の・・・ですか?」 俺はそれを居間まで運び中身を広げてみる。 中には幾つもの封筒が入っていた。 これって・・・。 俺はその封筒の一つを手に取り開封する。 そして中の手紙を見る。 一通り目を通すとそれを元に戻し次の封筒を。 4,5通同じ事を繰り返し、俺はおそるおそる聞いた。 「これって全部俺宛のファンレターなんですか?」 編集長はにっこりと微笑む。 何故か『そうよ』と言っている気がした。 次に長瀬さんをみる。 彼はうんうんと頷いていた。 「まぁ、中にはただ感想を書いてきた物や、 批判的なのもあるでしょうけど大体がそうのはずよ。」 「こんなにいっぱいの人が俺に?」 「まだ来るわよ。今回の最終話を読んでから送る人もいるでしょうし。」 以前漫画家のコメントで、 『ファンレターは最高のエネルギー源になります』 と言っていた。 その意味が今初めて分かったような気がする。 確かにこれは次への活力がみなぎってくる。 「和樹クン、編集長は今回の反応次第では連載も考えているそうだよ。」 「え、ほ、ホントですか?」 「長瀬君、それはまだ言ったら駄目って、 まだ正式に決まった訳じゃないんだし。 今度の会議でそのことをどうするか決めるんじゃない。」 「あ、そ、そうでした・・・。」 長瀬さんはばつが悪そうに頭をかく。 「まったく、もう。まぁいいわ。和樹クン、確かにそう言う話は出ているわ。 そしてそれは、ほぼ決定と思ってくれてもいいわ。 ただし、連載させると言うことが決まっただけで、 あなたが描いた物がそのまま連載されると決まった訳じゃないの。」 「どういうことですか?」 「連載してもらうのは、今回描いてもらった短期連載のを長編化した物。 でも、ただ長編化するだけでなく、 全ての設定とかを一から長編用に仕上げてもらいます。 そして生半可な物じゃ、私はゴーを出す気はないわ。」 ゴクリ。 俺は息をのむ。 編集長の気迫に飲み込まれそうだ。 しかし。 「はい。俺も連載をするのなら生半可な物を描く気はありません!! 必ず編集長を唸らす物を、 いえ、読者全てを唸らす物を描いてみせます。」 その言葉に編集長はニコリとし、 「その言葉覚えたわ、覚悟しなさいよ。」 と言った。 そして長瀬さんが俺の肩を叩き、 「僕もがんばるからいい物を描こうね」 と言ってくれた。 連載か。 短期連載とは違った苦労や苦難が待っているだろう。 でもその先には何かがあるはず。 俺はその先の物を見たいと思った。 |
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