10
編集長が来てから、引越祝いは飲み会へと移行した。
この差し入れは美味しかった。
飲みやすく、香りがいい。
これが本当の吟醸酒よと編集長は言っていたがこれほどとは。
でも、まだ彩ちゃんが来ていないのに、酒盛りなんて始めていいのだろうか?
「そう言えば一樹、明後日のこみパには来れるんか?」
由宇が酒に口を付けながら突然そんなことを言ってきた。
「こみパか。ここ最近連載の方が忙しくて言っていなかったからなぁ。
今は一応スケジュール的には空いているとは思うけど・・・。
なぁ、瑞希どうだったけ?」
「え、明後日?」
玲子ちゃん達となにやら話していた瑞希に聞いてみる。
「何もなかったと思ったけど。
ちょっと待って、カレンダー見てみる。
えっと、短期連載も終わったし、
ゲーム誌の挿し絵があるけど、これはまだ先の締め切りだから・・・。
今のところは予定は何も入っていなかったはずよ。」
「だ、そうだ。ン、どうした由宇?」
由宇は何故か唖然としているようだった。
「・・・何で瑞希ちゃんがあんたのスケジュール管理しとるの?」
「なんでって・・・。」
俺は瑞希の方を見る。
瑞希は瑞希で俺の方を見る。
あっ・・・。
お互いに俯いてしまう。
よく考えたら結構恥ずかしいことをすんなりしていたのかも。
「くすすすす、愛ね、愛☆」
玲子ちゃんは面白い物を見つけたかのようにじろじろ見てくる。
「愛がなせる技やったんやな。」
由宇も同様にちゃかしてくる。
「そう、彼女は優秀な『千堂みずき』のマネージャーよ。」
「うわぁ!!」
由宇がいきなり背後から編集長に抱きしめられる。
「彼女が生活面とかでサポートしてくれているから、
和樹クンは漫画を描いていけるの。
ふふふふふ、今じゃ彼は瑞希ちゃんがいないと、
漫画家としてやっていけないわね。
そう言う意味でもベストパートナーよ、彼らは。」
「へ、編集長、分かったから離れてぇや。」
「だ〜め。」
さらに力を入れて抱きしめる編集長。
由宇は必死になってもがく。
「み、南さん、編集長をどうにかしてや。」
「あら、無理ですよ。先輩は一度こうなると潰れるまで離しませんから。
 私もこっちに来て再会した時からずっと、
 先輩とお酒を飲む度につかまっていましたから。」
「そうなんですよね。いつも編集部で飲みに行くと
 いっつも一番小柄な子がああいう目に会ってますよ。」
しみじみと長瀬さんも言う。
「うふふふふふふふふふふふふ」
「だぁ、お酒臭い、堪忍やぁぁぁぁぁぁぁ。」
由宇がもがけばもがくほど編集長の腕はきっちりとしまっていく。
「ん、やっぱりパンダは愛玩用ね。そうやっているのがお似合いよ。」
ここぞとばかりに詠美が逆襲をする。
「パンダ、パンダ」と何度も言い続ける。
由宇は反撃しようにも編集長につかまっていてそれが出来ない。
「大バカ詠美ぃ、あんた覚えときぃなぁ。」
「や〜い、ぱんだ、こぱんだ、れっさーぱんだ。」
「あんた、後でどうなるか覚えときぃ。」
「い・や。私はパンダのこといちいち覚えるほど暇じゃないの。
人間になってから話ししてってかんじ。」
「舐めくさりおって、あんた、絶対に泣かしたる。」
「うふふふふふふふふふ」
何やってるんだか、あの二人。
編集長も入れて三人かな?
俺は時計を見る。
針は9時を指していた。
そろそろ来るな、彩ちゃん。
バイトをしている画材屋が終わるのが8時半。
片付けとか移動時間を入れるとそろそろ着いてもいいんだけど・・・。
「ピンポ〜ン」
お、噂をするとって言う奴かな。
俺は玄関へと行く。
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