「いらっしゃい、彩ちゃん。」
思った通り、彩ちゃんが来た。
「おじゃまします。」
小さくお辞儀をするといつものカートを引きずって居間の方へ進む。
黒髪に、神秘的な眼差しをする少女。
かつて俺がこみパでブラザー2という個人サークルをやっていたときに
唯一ユニットを組んだのは彼女だった。
由宇、詠美と何度か誘われたこともあったが、
俺はあの二人のどちらとも組まず、全く無名な彼女と組んだのは理由があった。
彼女には才能がある。
物語を生み出す才能が。
でもその才能に技術が追いついていなかった。
俺はそれを見ていられなかった。
だから彼女とユニットを組み、そして導こうとした。
はっきり言って、その行為は愚かとも言える。
俺はまだその頃はプロでもなかったのだから。
自分の伝えたいことを伝える力もなく、ただ、過ぎていった日々。
そして色々あっての決別。
俺はプロになるための道を進むことになり、
彩は彩で、受験勉強をしないといけない時期になっていた。
俺達のユニットは解散した。
数ヶ月後。
俺達は再会した。
今年の春、俺の大学の新入生に彩がいたのだ。
久しぶりに一緒に話しているうちに
あの解散にお互いが納得していないことが分かった。
俺はプロとなっており、
彩も大学生となって時間にゆとりがある。
俺は彩に一つの提案を持ちかけた。
そして・・・。
「最後の1人が来たぞぉ。」
俺は居間に入るなりそう叫ぶ。
否応なしに注目される彩ちゃん。
「あれ、彩じゃない」
真っ先に反応したのは詠美だった。
「お久しぶりです。」
彩はぺこりとお辞儀する。
「最近、こみパに来ないし、ホント久しぶり。」
以前彩ちゃんは詠美と組んだことが一度だけあった。
その時彩ちゃんは彼女自信の持つ才能を感じられない、
俺にとって何の魅力もない本を作った。
ただ、売れるだけの本。
ただ、売るためだけの本。
その頃の詠美が作っていた本そのもの。
あのとき何故、彼女がそうしたのか分からないでもない。
でも俺はそれを許すことは出来なかった。
思えばそのことが発端だったのだろう。
あの決別の。
「そりゃ、大学生とプーじゃなかなか時間も合わないだろ。」
「何言ってるの、あんたとはよく会うじゃない。」
「詠美ちゃん、こいつを普通の大学生に当てはめちゃ駄目。
出席日数ギリギリしか大学行っていないんだから。」
瑞希が困った物だという顔をして言う。
本当のことだから何も言えない。
「まぁ、いいわ。今度、又うちに来て描かない?
あんたなら大歓迎よ。前みたいにさ。」
「今度ですか・・・?」
彩は俺の方を見る。
「漫画の方、当分無いから時間は大丈夫だよ。
彩ちゃんのしたいようにしたらいい。」
「はい。詠美さん、又お願いします。」
「おっけー。・・・でも、何で和樹にいちいち聞くの?」
何か納得行かないらしく、眉をひそめる。
「それはね、彼女が和樹クンのアシスタントだからよ。」
「うきゃぁ。」
編集長が今度は詠美を背後から抱きしめていた。
さっきまで由宇が餌食だったのに・・・。
俺はさっきまで編集長が居た方を見る。
そこには力尽きぐってっとした由宇が居た。
口をぱくぱくし、まるで陸揚げされた魚のようだ。
反応が鈍くなったから新しい獲物に変えたのか?
「彼女が背景や細かいところを描いてくれるから、
和樹クンは漫画を描いていけるの。
ふふふふふ、今じゃ彼は彩ちゃんがいないと、
漫画家としてやっていけないわね。」
さっきと似たような説明をしながら、詠美を抱きしめる編集長。
「クサイ、クサイ、お酒クサイ〜。編集長どいて。どいて〜、うにゅう。」
詠美は半泣きになりながら必死に暴れる。
しかし、由宇でも駄目だったのを、詠美が逃れれるはずはない。
「うふふふふふふふふふ。」
怪しげな笑みを浮かべる編集長。
「いや〜〜〜、お酒クサイ〜〜!!」
彩はその姿を見て呆気にとられている。
編集長が言っていたとおり、
彩は再会した次の日から、俺のアシスタントをしてくれている。
アシスタントと言っても雑用をしてもらうわけではなく、
お互いにレベルアップを出来るようつとめている。
俺は彩の才能から色々学び、
彩は俺がプロとなって得た知識を学ぶ。
いい意味でのギブアンドテイク。
それが今の、俺と彩との関係だった。
「彩ちゃん、あっちは放っておいて飯でも食ったらどう?瑞希の自慢の一品だぞ。」
「はい、いただきます。」
「じゃぁ行こう。俺も丁度、小腹が空いてきたんだ。」 |