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「あれ?」
俺がキッチンからつまみの補充をしてくると、
女性陣があらかた居なくなっていた。
その場に残っている女性と言えば、酔いつぶれて寝ている編集長と、
その介抱をしている南さんだけだった。
「南さん、瑞希達は何処に行ったんです?」
「さぁ、よく分からないんですけど、
玲子ちゃんに連れられて隣の部屋に行ったみたいですが?」
南さんは首を傾げる。
「南さんは誘われなかったんですか?」
「誘われましたけど、先輩をこのままにしておく訳にはいきませんし。」
南さんによると、編集長は酒が好きだけど酒に弱いらしい。
ある程度お酒を飲むと抱き癖が始まり、
それがおさまるとそのまま眠りに入って小一時間は起きないらしい。
それにしても、今日は編集長のイメージが全く変わったような気がする。
何時も沈着冷静で、びしっと決まっている編集長を見続けたせいかな。
今日はそれとのギャップが激しいというか。
そんなことを考えていると、
隣に長瀬さんがやってきて俺に酒の入ったコップを渡す。
「あ、どうもすいません。」
「編集長も色々溜めてるんだよ。
普段、ずっと自分を作って居なきゃ駄目だから。
こういうところでは気をゆるませて本当の自分を出して居るんだ。
酒が入ってのこととすれば、ある程度のことは許されるからね。」
長瀬さんの目つきが何時もと違っていた。
普段は言っちゃ悪いけど、
ぼぉっとして何を考えているかつかみ所がなかったりするのだけど、
今は違う。
優しく見守るような、そんな感じだった。
・・・。
もしかして。
俺は聞いてみる。
「長瀬さん、もしかして・・・。」
「ん、そうだよ。俺は編集長のことが好きだよ。強いところも弱いところもね。」
酒をぐびっと飲みほす。
「それは伝えないんですか?」
「言ったよ。とっくにね。
でも、編集長は僕を部下以外としては見ること出来ないって。」
「・・・。」
「だから僕はそこから始めるんだよ。最初は部下でいい。
でもいつかは編集長と肩を並べられるようになるってね。
その時にもう一度言うよ。『好きです、愛しています』ってね。」
「まぁそこまで行くのは生半可じゃないけどね」と、付け加え、
長瀬さんはにっこりと微笑む。
「がんばって下さい。応援しますよ。」
「おいおい、和樹クンにがんばってもらうのは当然だよ。
和樹クンが売れればその担当も出世できるんだからね。」
今度は冗談まじりな笑顔を見せ、俺の背中を叩く。
俺も笑いながら
「出来る限り以上にがんばって見せますよ。」
と、軽く言っておく。
でも、本心でもある。
俺の描く漫画に、色々な人の思いが詰め込まれている。
それは俺自身はもちろん、
瑞希や彩ちゃんのように手伝ってくれる人、
その漫画に携わってくれる人、
そして読んでくれる人。
その想いに応えるためにも、俺は面白い漫画を描き続けていこうと思う。
「俺の方はともかく、君の方もがんばれよ。
あんないい娘はそう居ないぞ、大事にしなきゃ。」
「それはいらない心配です。」
長瀬さんとお互いのコップに酒をつぎ合って、それを飲む。
酒はたしなむ程度にしか飲まないけど、こういう風に飲むのも悪くないな。
俺は飲みながらそう思った。
静かな刻が流れる。
男同士が飲むときに、多くの言葉はいらない。
そんな台詞を頭に思い浮かべ、思わず苦笑いしてしまう。
でも、その静かな刻もすぐ終わってしまう。
なぜなら、女性陣が隣の部屋から現れたから。
その姿を見て俺と長瀬さんは絶句する。
そして玲子ちゃん達が何を持ってきていたのか理解した。
こ、これを持ってきていたのか・・・。
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