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| 「自分が変わったことを認めたくない気持ちも分かるわ。 認めてしまえば、今までのあなたのしてきたことが 全て無駄になってしまうのだから。 でもね、あなたが変わったことを否定すると言うことは、 周りのみんなも否定することになるのよ?」 編集長は俺達の方に視線を移す。 昔と今での詠美の大きな違い。 それは俺達が居ると言うこと。 それまで自分以外を認めようとしなかった詠美は、常にひとりぼっちだった。 一緒に何かするとしても、その相手は自分よりも下の存在としてしか見ていない。 でも、俺達がこみパに参加するようになって、それは少しずつ変わった。 ・・・。 と言うか、俺達が単に詠美をドタバタに巻き込んだだけか。 由宇詠美こみパ騒動、タクシー事件、同人誌ゲット事件、印刷所立て直し。 他にも詠美の方から色々と、高校のテストとかの件で俺を頼りにしに来たこともある。 そしていつの間にか今回みたいに、一緒に騒いだりする仲になって。 この今の状況が詠美を変えたとしたのなら、俺は嬉しいと思う。 だって、詠美は俺達のために変わってくれたと言うことだから。 「誰かに自分の描いた漫画を見せてあげたい。 見せてあげたいから漫画を描く。 その想いは漫画を描くに当たって一番基本的なところよ。」 「そや、うちが漫画を描くのも、 うちの漫画を読んで喜んでくれる人の顔を見たいからや。 そして自分がパロディを描くのも、 そのキャラがどれだけ好きかちゅーことをアピールするためや。 それはうちの心を、読んでくれる人に見せるのと同じ事や。 うちの心を見せるんやったら、うちは中途半端なことはしたない。 あんたはどうなんや?」 由宇は本気で問いつめる。 いや、由宇は漫画に関しては何時も熱心に、何時も一生懸命取り込んでいじゃないか。 その本気に、詠美は・・・。 「・・・あたしは和樹達に漫画を見せたい。」 詠美は心の中が決まったのか、由宇に真っ正面から言い返す。 目に涙があふれ始めるが、その表情は何の迷いもなかった。 「千紗や、瑞希にあたしの漫画を読んで喜んで貰いたい。 あたしの漫画を由宇に認めて貰いたい。 漫画を描いていって彩ともっと仲良くしたい。 そして・・・、 そして、あたしは漫画で和樹に追いつきたい。 だから、だから・・・。」 詠美は目から涙が流れ始める。 心の内をさらけ出したことで、感情が暴走しているのかもしれない。 先に続く言葉を言おうと口をぱくぱくとさせる。 しかし、それは声にならず、詠美はその場で立ちつくす。 「・・・だから漫画を描きたいのね。」 そんな立ちつくす詠美を優しく、そっと抱き包んだのは、南さんだった。 南さんの優しい包容が、詠美の表情を安らかな物とする。 詠美には悪いが(南さんにも)、その姿は子供をあやす母親のようでもあった。 詠美が泣きおさまったのを見て、編集長は言う。 「私はあなたが掛け買いのない物を得たと思っているわ。 そして今のまま、あなたの漫画が心を持ち続けているのなら、 いずれ私はうちで漫画を描いて欲しいとお願いするわ。」 そして俺の方を向き、 和樹クン、もしそうなったらあなたも、うかうか出来ないわよ。」 編集長は悪戯なというか、苛めるようなというか、 そんな表情で最後に付け加える。 確かに。 俺は詠美を見る。 泣いたところを見られたのが恥ずかしかったのか、 詠美は顔を真っ赤にさせている。 俺はそんな詠美を可愛いなと思いながら、 さっきの編集長の言葉を心の中で反芻させる。 確かに。 今、詠美が持っているテクニックはハッキリ言うと俺よりも上。 それに加え、詠美が漫画に自分の心を表現するようになったら。 詠美が本心から伝えたいことを漫画に持たせることが出来るようになったら。 これは本気でうかうかしていられないな。 と言うか、お払い箱の可能性まで有るじゃないか。 でも。 俺は嬉しかった。 詠美が、俺をライバル視していてくれると言うことを。 本音で語った『和樹に追いつきたい』と言う台詞。 俺が漫画を描き始めるときに目標とした詠美がそう言ってくれたことを、 本当に嬉しいと思った。 |
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