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「ん・・・、くぅ。ん〜?」
・・・。
・・・。
・・・。
ぽりぽりぽりぽり。
・・・何やっていたんだっけ・・・。
どうも意識が朦朧としたまま眠ってしまった様だ。
辺りを見渡すと由宇や詠美も似たような感じで倒れている。
・・・。
年頃の女の子がこうもまぁ。
危機感ていうのはないのか?
・・・。
無いんだろうな、俺相手だと。
ん〜〜〜〜。
俺は大きく伸びをして背筋を伸ばす。
続け手首を降る。
こきっ、こきっ。
いい音だ。
さてと・・・。
・・・。
・・・。
待てよ。
漫画を描いていたのは覚えている。
そしてそれが完成したのも。
でも、あくまで完成したのは原稿。
そこから先は記憶がない。
・・・。
コピーはしたのか?
ホッチキス止めは?
本は出来たのか?
俺はハッとして時計を見る。
!!
まだちょっと時間があるけど、
用意のことを考えると、そろそろ動き始めないと駄目な時間だ。
俺は慌てて由宇達を起こす。
「おい、おい由宇!起きろ、起きろよ。」
俺は由宇の体を思いっきり揺さぶる。
「ん・・・。」
由宇はうっすらと目を開く。
一瞬何があったのか理解できていない無防備な表情をする。
そして俺を認識すると一変して鬼のような表情となる。
「な、なんや和樹!あんたには瑞希ちゃんという可愛い彼女がおってな・・・。」
「馬鹿言っていないで、これを見ろ!」
「え?」
由宇は眼鏡の位置を直しながら俺の見せた物、『時計』をじっと見る。
・・・。
・・・。
「な、なんや、もう、もうこんな時間やないか!!」
「ああ、そうだ。もうそろそろ用意して出かけないと、
 サークル入場に間に合わなくなる。」
「何悠長に言っとるんや。さっさと行くで。ほらみんな起こさんと。」
由宇は自分の荷物の中から、必要な物をナップサックに入れ込む。
「それなんだが、お前昨日原稿が出来てからのこと覚えているか?」
「えっ、原稿が出来てからって言ったら・・・。
 ・・・な、何も覚えとらへん!
 そや、原稿は?原稿はどうなったっんや?」
由宇も同じ様な状態か。
「わからん。俺も昨日原稿が出来てからの記憶がない。
 本はおろか、ホッチキス止めも、コピーをしに行った記憶もない。」
「ほ、他のみんなはどうなんや?」
「今から聞く。」
俺と由宇はみんなを起こしにかかった。
そして起きたみんなからは誰1人として本を制作した覚えはなかった。
誰もが原稿が完成した時点でそのまま眠ってしまったからだ。
「あかん、絶望的や。今からやと間にあわへん。」
ガックリとした表情の由宇。
ガックリしているのは由宇だけじゃない。
俺も、詠美も、彩ちゃんも、玲子ちゃんも、
この本に関わったみんながガックリとしている。
・・・。
それもそうだ。
あれだけ一生懸命作ったのだから。
・・・。
「・・・まだわかんないわよ。」
そう言ったのは詠美。
「無理だよ。今からコピーしに行って、ホッチキス止めしてたら間に合わなくなる。」
詠美は俺の言葉にカチンときたのかきっと睨む。
「あたし達があれだけ頑張って描いたのよ?
 出来ないかもって思った原稿が出来たのよ?
 だったらここで落ち込んでいないで、入場が遅れても本を作らなきゃ。
 そうじゃないと何のために漫画を描いたのか分からないじゃない!」
・・・。
俺は驚いた。
前の詠美だったらこんなこと言わなかっただろうから。
やっぱり変わってきているんだ。
俺は改めて実感する。
「そうや。これだけの人数がおるんや。
 半分は売り子しに行って、半分が本の制作をすれば
 出来た分から売りに出せるやないか。」
「じゃぁ、俺がコピーをしていくから先に会場へ行ってくれ。」
「あんた、ええのか?」
「気にするな。俺は元々サークルチケット持っていないんだ。
 それに瑞希達にも手伝って貰えばそんなに時間はかからないさ。」
俺は親指を立て任せろと言うジェスチャーをする。
「なら任せたで。」
由宇は俺の拳に自分の拳を軽くぶつける。
「おう!じゃぁコピーしに行って来る。原稿をくれ。」
・・・。
・・・。
・・・。
全員が全員視線を回す。
誰もが目を合わせる度にお互いに首を振る。
・・・まさか。
「げ、原稿がない・・・。」
そう、俺達の描いた原稿が全部部屋から無くなっていた。
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