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| 「それで、コピー誌だったはずのこの本がオフセットになったのか。」 俺は自分の頭をぽんと叩く。 「そやけど、そのことは一昨日帰ったときに決めたんやろ? じゃぁ何で昨日言わんかったん?」 確かに。 由宇の疑問通り、 親父さんに頼んだのは俺達が原稿を描き始めた一昨日の夜。 千紗ちゃんは昨日も料理とかの手伝いにうちへ来ている。 でもその時にこういう話しは一言もしていなかった。 そしてその疑問に、千紗ちゃんはとびきりの笑顔で応える。 「千紗、お兄さん達を驚かせたかったです。」 負けた。 何故か分からないけど負けた。 て言うか、千紗ちゃんには勝てないよ、ホント。 「あ、でも。千紗、お姉さんにはこのこと話したです。」 瑞希もグルか。 そうすると大志も恐らくはこの件に噛んでいるのだろう。 妙に手際がよかったのはあいつの差し金か。 俺達が疲れて眠り込んだ隙に原稿を持って千紗ちゃんの家に。 そこには、今までのお礼をしようと待ちかねていた親父さん。 そしてついさっきまで刷っていてくれたわけだ。 「親父さん、ありがとうございます。」 「・・・何も礼をされるようなことはしてねぇよ。」 「あ、そうだ、印刷料払います。」 「いらねぇよ・・・と言いたいがこっちも商売だからな。 でも、規定料金からキャンセル料引いた分でいい。」 その値段はコピー誌を作るのから見れば結構割安な値段となった。 元々コピー誌は手軽だけどコストがかかる。 何せコンビニで作れば2ページにつき10円。 42ページの本を作ろうと思ったら210円かかる計算だ。 そしてその中には印刷ミスとかが含まれていない。 しかし、オフセット本は、冊数作れば作っただけ、 一冊にかかるコストは減っていく。 その結果、同じ部数を作るにしても冊数がある程度有れば オフセットの方がきれいで安いと言うことになる。 さらにキャンセル料を引いている。 「ありがとうございます。」 「・・・だから礼を言われるようなことはしてねぇよ。」 ぎりぎりの時間まで印刷をしてくれていたんだ、 これを礼言わないで済むはずはない。 もしあのままだったら、こっちは本すら出来ていなかったのだから。 「由宇ちゃん、詠美ちゃん、シャワー空いたよ〜ん☆」 まだ髪が濡れたまま、玲子ちゃんが知らせに来る。 「そやな、でも時間があらへん。一緒に入るで、詠美。」 「な、何であんたと一緒にはいるのよ!」 「ええやないか、時間が無いことやし。 それとも何や?シャワーも入らずにこみパに行くつもりやったりするんか?」 「う・・・。」 流石の詠美もこれには黙ってしまう。 「分かったようやからシャワーに行くで。うちが背中流したる。」 「や、やっぱりやめる、おうちに帰る〜」 「何、言っとるんや。ほら行くで。」 由宇は嫌がる詠美をずるずると引っ張っていく。 合掌。 「あ〜、本がきちんとなってる〜☆」 玲子ちゃんがオフセット本として制作された本を手に持ち、 タオルで髪を拭きながらぺらぺらとページをめくる。 「やっぱりコピー本よりこっとの方がきれいだね〜」 「コピー本はコピー本で楽しいけどね。」 実際部数がかかってくると結構辛いが、 知り合いに渡すぐらいの冊数なら、 みんなでわいわい出来る分結構楽しかったりする。 「そだねぇ。お誕生日本とか作るの楽しいからね〜。 くすすすす。 前、和樹君のマンションでコピー本を作ったことを思い出しちゃったよ。 あのときは一緒に同じところに重なりながら寝たんだねぇ」 「誤解を招くようなことを言わないの。 ほら、髪、ドライヤーで乾かさないと間に合わないよ。」 「は〜い、借りるね〜。」 全くもう、あの子は・・・。 全く俺を異性としてみていないし、 見たとしても、それはからかいの対象としてだもんなぁ。 「はい、千紗ちゃん、これ片づけて置いて。」 「はいです。」 俺は千紗ちゃんに同人誌を返す。 千紗ちゃんが段ボールに本をしまっていると、親父さんがバンから降りた。 そして自販機の方へ歩いていく。 「・・・兄ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるか?」 「お父さんどうしたですか?」 「野暮用だ。千紗はそこで待ってなさい。」 俺は親父さんの後をついていった。 |
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