見栄で社長は勤まらない


かなり前に何度か大石は菱田社長に伴われ、新しい仕事を開拓するための営業に出かけたことがある。だがその結果、菱田社長が新しい仕事を受注するのは無理だと思わざるを得なかった。なんと菱田社長は営業先の相手の前で、いかにも偉そうな態度をとってしまうのだ。アサシンの社内で自社の社員に向かいあっている時と全く同じように、ふんぞり返ったまま腕組みをした格好で相手と話をしたりしてしまうのだ。さらには相手の話に対しても、それをじっくり聞こうとする態度はとらない。自分の言いたいことだけを、調子にのって一方的にまくしたててしまう。そしてもしも相手に話の腰を折られたりなどしようものなら、その後は機嫌の悪そうな顔つきで押し黙ってしまうのだ。そのような菱田社長の素振りや態度に対して、営業先の相手が好ましい印象を抱くはずなどないと言えよう。これでは菱田社長が新しい仕事を受注できずにいるのも、およそ無理のない話だと言わねばなるまい。
もしかすると菱田社長は自分が営業に向いていないということを、はっきりと自覚しているのだろうか。だからこそ自分は決して営業に出かけようとせず、社員の誰かに押しつけてしまおうと企んでいるのだろうか。 おそらく菱田社長という人物は、ただ単に自分を偉そうにみせかけたいだけなのかも知れない。そのためにこそ、そしてそれだけのために会社の社長などという立場についているのかも知れない。その一方で会社の社長としての資質は、少しも備えてなどいないのでなかろうか。社長としての役目や責任などは、全く果たすつもりがないのでなかろうか。
だからこそ会社が危機に陥りかけている今も、それを自分の落ち度だなどとは少しも考えていないのだろう。そして本来ならば自分が負うべき責任さえをも、社員の皆に肩代わりさせてしまおうと企んでいるのだろう。さらには自らに社長としての力量が欠けてしまっていることを隠したがっていればこそ、とかく社員の前では偉そうに振る舞ってしまうのでなかろうか。




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