「もしも私が営業活動をしたにもかかわらず、新しい仕事を受注して来られなかったとしましょうか。その場合でも、やはり会社は決して私の給料を減額できないんですよ。特定の社員に対する給料を減額できるのは、あくまでも懲戒処分の場合だけなんですから。そして先ほども申し上げました通り、懲戒処分というのは就業規則に規定がないと行なえません。さらに言えば、営業成績の不振を理由に懲戒処分を行なうことも許されませんし」 「そんなことを言ったって、それでは会社としても困るじゃないか。仕事をとってもこない社員に、ずっと同じ金額の給料を支払いつづけるだなんて」 「おやおや、これは納得がいきませんね。仕事をとってこないどころか、そもそも営業活動をしようとすらしない社長のいる会社で聞くべきセリフとは思えませんが。それを言うなら仕事をとってこない社長に対して、ずっと高い給料を支払いつづけているという点から先に改めるべきなんじゃないですか」 「どうして社長の話が、ここで出てくるんだ。新しい仕事を受注できるかどうかという話をしているはずなのに、社長は関係ないだろう」 「まいったなあ。もしかすると高梨さんは何か大きな勘違いを、しておられるのではないですか。さっきからお話をうかがっておりますと、そうとしか思えないのですけれど。まるで仕事を受注するのが社長ではなく、個々の社員の責任ででもあるかのようにね」 「営業活動を行なっても仕事を受注できない社員は、会社にとって単なる無駄な人材じゃないか。その社員は会社に対して何らの利益も、もたらすことができないわけだから」 「営業活動を行なうように命じられた社員には、確かに仕事を受注できるよう努力する義務がありますよ。しかし実際に仕事を受注しなければならない、という義務や責任はありません。実際に仕事を受注できるかどうかは決して社員の責任でなく、ひとえに経営者の責任なんですからね。もしも経営者の努力が足らず会社に力がなかったら、どれだけ個々の社員が苦労したところ仕事を受注できないでしょう。それは決して社員の責任だというわけでなく、あくまでも経営者の責任です」 |