「確かに北山君の言う通り、法律は守らなければいけないと思うよ。けれども正直なところ、うちのような会社にとっては生き残っていけないというのも事実だからな。いちいち法律なんかを全て、きちんと守っていたりなんかしたのではね」 「おやおや、こいつは困りましたね。高梨さんのような立場にある方が、そんなことを言ってしまっていいんですか。それでは社長だけじゃなく、高梨さんまで罪に問われてしまいかねませんよ」 そう北山が釘をさした、その次の瞬間のことだったろうか。 がちゃり、とでもいうような音が大石の耳に飛びこんできた。 あの音ならば取材の際中、何度も耳にしたことがある。 録音機がテープの片面を使いきり、自動的に反対側の面へと移る時の音だ。 こいつはまずいことになったぞ、と大石は思わずにいられなかった。 おそるおそる大石は、後ろへ振り返って高梨たちの様子をうかがおうと試みる。 そんな大石の目に映ったのは思った通り、テーブルの上の録音機の方へ手を伸ばしつつある高梨の姿だった。 その顔つきは怒りのためか、かなり赤く染まっている。 しかし高梨より先に、すばやく録音機を取り上げたのは北山の方だった。 「おっと、待ってください。このテープに手を触れられることは、お断りさせていただきます。こいつは万が一の場合、大事な証拠になってもらわなければいけませんのでね」 「何て奴だ、君は。今の話を全部、録音してやがったんだな。この会社の中で、そんな勝手なことを許してなんかおけるものか。そのカセットを、さっさとこちらへ渡すんだ」 「ご命令とあれば、録音機はお渡しいたしましょう。これは確かに会社の備品ですから、渡せと言われて拒むわけにもいきませんしね。しかし中のテープは、お渡しできませんよ。これは会社の経費で買ったものでなく、私が自分の金で買ってきた私物ですから。何でしたら、それを証明するための領収書もとってありますし」 そう言いながら北山は、録音機の中からテープを取り出した。そしてテープは自分の手に残したまま、録音機だけをテーブルの上へ置く。 「会社の備品だとか私物だとか、何をごちゃごちゃ言っているんだ。そのテープも、ちゃんと寄越せっていうのに」 「だから、そいつはお断りします。もしもこのテープに手を触れたりなさったら最後、こちらも黙ってはいませんよ。私物を無理に取り上げられたら、そいつは立派な窃盗罪に他なりませんからね。すぐにでも警察へ訴えさせていただきますので、どうかそのつもりでいらしてください」 |