管理職でも残業代を受け取れる


「厳密に言えば、それも労働法規に違反しているんですよ。名目だけの管理者に、残業代や休日分の賃金を支払わないというのはね」
「だけど他の会社でも管理職の人に残業代が支払われないというのは、よく耳にする話じゃないか。山さんの言う通りなのだとすると、それらの会社は全て法律に違反していることになるのかい」
「確かに監督だとか管理の地位にある人の場合は、労働時間や休日に関する労基法の規定が適用されません。これは労基法の第四十一条で、そう定められているんですけど。おそらくは、この第四十一条を根拠にしてのことなのでしょう。多くの会社が管理職の人に対して、残業代や休日分の賃金を支払っていないのはね。しかし、ここには一つ大きな問題があるんですよ。それは監督や管理の地位にある者というのが、果たしてどういう立場の人を指すのかという問題です。管理職として認められるための条件に関しては、次のような通達が出されているんですよ。まず管理職の人に対しては、適切な管理職手当が支給されていなければなりません。それから労働条件の決定など労務管理の点において、経営者と一体の立場にあることが必要です。さらには出勤や退社などについて、厳格な制限を受けないこと。これらの条件が全て満たされた時に、はじめて監督や管理の立場にある人だと認められるわけですね」
「しかし大石さんの場合、その条件は満たされていないじゃないですか。他の社員の皆と同じように、出勤時刻が決められているんですから」
「それに労務管理の面で、経営者と一体の立場にあるとも言えそうにないぜ。労働条件の決定に関して、意見を求められたり相談を受けたことなど一度もないからな」
「人事考課や経営方針の決定に関与させないまま、残業代や休日分の賃金を支払わずに済ませることは許されません。すなわち大石さんに対する会社の措置は、やはり違法だということになります。さらに言えば、深夜労働に対する割増し賃金は全ての人に支払わなければなりません。たとえその人が名目だけでなく、実際に管理職としての権限を与えられていたとしてもね。ただし、その場合の時給は普段の二割五分増しでも構わないんです。さっきも言いましたように、管理職でない人の場合は五割増し以上にする必要があるんですけど」




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