「いっそのこと組合を作ってしまうっていうのは、どうでしょうか。どうやら労働組合っていうのは、とても簡単に作ることができるんだそうですよ」 「おっしゃる通り、労働組合を作るのは簡単です。二人以上が集まって、会社に届けを出すだけでいいんですから」 「労働組合を作ったら、何か役に立つことがあるのかい」 「労働条件や雇用の問題に関して、会社側に団体交渉を申し入れることができるようになります。組合が団体交渉を申し入れたら、会社側は誠実に対応しなければなりません。さらに組合としての規約を整備すれば、労働組合法で定められている適格組合としての資格が認められますからね。そうなれば会社が不当労働行為をした場合、組合として救済を申し立てることもできるんですよ」 「その不当労働行為というのは、いったいどういうものなのかな」 「組合を作ったり参加したというのを理由に、処遇の面で不利益な扱いをすることなどです。それから正当な理由がなく団体交渉に応じなかったり、誠実に交渉しないことなどもですね」 「だけど労働組合って、管理職の人は加われないんだろう。だとすると僕の場合は、どうなるんだろうか」 「あ、それは心配しなくて構いません。何も管理職の人は労働組合に参加できないと、法律か何かで決められているわけでは全くありませんから。それは個々の労働組合が、それぞれ自由な判断で決めて構わないことなんですよ。経営者と一体の立場にある人まで労働組合に入るというのは、さすがに無理があると思いますけど。でも大石さんの場合は、あくまでも名目だけの管理職でしかないわけでしょう。だから組合を作る時、そういう人も参加できるように定めておけばいいだけの話です」 「それじゃあアサシンでも、さっそく労働組合を作るとするかい」 「組合を作った場合には、会社に届けを出すんでしょう。その時に菱田社長は、いったいどんな顔をするのかが見ものですねえ。そんなのは絶対に許さないだとか、また怒って騒ぎだすんじゃないのかな」 「社員が組合を作った場合、それを許すだとか許さないだとか口出しをする資格が社長にはありませんからね。たとえ菱田社長が無茶を言っても、きっぱりとはねつけてやればいいんです。その時に菱田社長が、どういう対応をするのかということも楽しみじゃないですか。おそらく何も言い返すことができずに、ただおろおろしてみせるだけというのが関の山なのでしょうけど」 |