「いきなり一方的に解雇するだなんて、ひどいですよねえ。もう明日から出勤してくるなって言うのは、それも法律に反しているんじゃありませんでしたっけ。確か社員を解雇する時には少なくとも、ひと月前に予告しなければならないはずだと思いましたが」 「ええ、そうですよ。ひと月というか、厳密に言えば三十日前ですけれど。ただし労働基準法の第二十条では二つの選択肢のうち、どちらか一つを選べることになっているんです。まず一つ目は三十日前に解雇を予告しておき、その三十日後に解雇するという方法ですね。そして二つ目は急に解雇しても構わないかわりに、その日から三十日後までの分の賃金を支払うという方法です」 「その後の方の場合、三十日分の賃金は実際に働かなくても受け取れるわけか。だとしたら三十日後まで働かされるより、そちらを選んだ方が社員の側にとっては有利みたいだな。それに対して会社の側としては、三十日後まで働かせた方が得なんじゃないのかい」 「それは確かに、そうですね。だから実際には三十日後まで働かせるという企業の例が、けっこう多いのではないでしょうか」 「それで山さんの場合は、どうなるんだい。明日から会社に来るなと言われた以上、三十日後までの分の賃金は受け取る権利があるわけだろう」 「その点については昼前に、経理の方から話がありました。来月の分の給料は今までと同じ額を、その通りに支払うとのことです。うちの会社は十五日締めの二十五日払いですから、来月の十五日の分までは支払われるというわけですね」 「だけどそれじゃ、三十日分にはならないぜ。もう今月の十五日は、すでに過ぎてしまっているわけだもの」 「うちの会社が法律を正確に守るだなんて、それは考える方が無理だというものでしょう。そもそも私を解雇するということ自体が、解雇権濫用法理に反しているわけですから」 |