「菱田社長が値段の高いスーツを着たり外車を乗り回している姿を、犬塚商会の社員の方々も目にしておられるわけでしょう。自分たちが汗水たらしながら苦労して稼いだ金を、菱田社長が自分の贅沢のために費やしていると彼らの目には映るわけです。そんな菱田社長に対して彼らが快く思わないのは、むしろ当然の心境じゃないでしょうか」 「もしもアサシンが犬塚商会から妥当な金額の制作費しか受け取っていなかったなら、そういう声も今ほど多くはなかったでしょう。しかしアサシンが制作費として受け取っている金額は高すぎる、という事実には犬塚商会の中にも気がつき始めている人が増えてきているようです」 「犬塚商会が支払っている制作費って、そんなに相場よりも高いのかい」 「菱田社長が余計な口出しをしてこなければ、今の半分くらいの日数で制作ができるはずですよね。それだけでも現在の人件費は、本来ならば必要な金額の二倍に上っていると言えるわけです。もしも菱田社長が余計なことをしなければ、制作のための人件費は今の半分に減らせるでしょう。実は別の会社で雑誌の編集を長く担当してきた人に、今の制作費の金額を話してみたことがありまして。それだけの規模の雑誌だったら、その十分の一の金額でも制作できるはずだと言われちまいましたよ」 「それじゃあ今の制作費は、相場の十倍に近いというわけか。そんな法外な制作費を、よくまあ犬塚商会が何も文句を言わずに支払っているものだねえ」 「いつも乗り回している外車だって、社用車だという名目で会社が負担していますものね。しかも社長の家族まで別の外車に乗っていて、そちらも社用車だという名目になっているそうですよ。社長の家族が会社の仕事に関与したことなんて、これまでに一度も見かけたことがありませんけど」 「菱田社長が家族と住んでいる家も、社宅だとかいって会社が費用を出しているんだろう。確か社宅を社長が自分で使う場合には、それなりの手続きが必要なはずだったと思ったけどな。でも法律上の手続きなど全く守ろうともせず、勝手に私物化してしまっているというわけさ」 |