「菱田社長って、しょっちゅう海外へ旅行に出かけるじゃないか。あれは出張という名目で、費用を全て会社の経費で負担しているんだぜ。うちのように小さな会社が仕事で海外へ出かけなければならない理由など、どこにもないっていうのにな。しかも海外へ出張する時に菱田社長は、自分の家族を全て連れていくだろう。あの家族の旅費の分までも、会社の経費で負担しているんだよ」 「ラスベガスで行なわれた催しにも菱田社長が、取材と称して会社の経費で出張しましたっけ。取材で行ったのだったら自分で記事を書くべきでしょうし、あるいは少なくとも現地で資料を集めてくるくらいのことはするべきでしょう。ところが菱田社長は自分で記事を書かないどころか、資料を渡そうともしませんでした。だからラスベガスの原稿は私が、他の雑誌に載っていた記事を見ながら想像で書いたんですよ。すなわち菱田社長が経費を使ってラスベガスまで行ったのは、全く雑誌のための役には立たなかったというわけです。にもかかわらずラスベガスへの旅費と滞在費とを、取材費という名目で計上しているんですからね。いかにも現地へ行って取材した人間が記事を書いたかのように雑誌の上で見せかけている点とあわせて、これは犬塚商会と読者に対する裏切り行為だと言うべきではないでしょうか」 「菱田社長は雑誌の制作費を、自分が好き勝手に使える金だとしか考えていないもの。いつだったかも第一特集のための予算から毎月、五十万円づつを無条件で自分に使わせろと言ってきたことがあったしさ。菱田社長は第一特集の取材や制作に、全く関与していなかったというのにだぜ。あの金も第一特集のためなどではなく、ただ単に自分が贅沢するために使うのが目当てだったのだろうね。おそらく菱田社長は犬塚商会のことをも、自分が自由に喰い物としてしまえる都合のいい金づるだとしか見なしていないんじゃないのかな」 |