「僕だけじゃなく誰が倒れたところで、そんなこと菱田社長は気にも留めないと思いますよ。むしろ倒れた社員のクビを切るため、いい口実ができたと考えるのが関の山でしょう。僕たち社員のことを菱田社長は、使い捨てのできる道具か何かくらいにしか見なしていませんから」 「それは確かに、そうかも知れませんね。自分が気にいらなくなった社員には、たとえクビにしないまでも口をきこうとすらしなくなるようですから」 「菱田社長は、自分にへつらってみせる社員しか会社においておきたくないようです。そうでない社員に対しては、たとえどれほど実力があろうと使い捨てにしかしようとしません。だから今の社員を全て、いっぺんに解雇するようなことだってしないとは限りませんよ。もしも新年号からの制作を受注できた場合は、また別の新しい社員を雇えばいいというくらいに思っていることでしょう」 「だけどそれって、どう考えてみても無茶ですよね。確かに今は世間が不景気だから、募集をかければ人は集まってくるかもしれませんよ。でも今の社員の皆ほど力のある人たちを、そう簡単にそろえられるはずはないでしょう」 「社員は新人ばかりでも自分が指導すれば大丈夫だと、そう菱田社長は思っているのでしょうね。菱田社長には雑誌のことが何もわかっていないから、そのせいで制作という作業を甘く考えているんです。あの人が口を出した企画や原稿は、たいてい顧客の評判が悪いじゃないですか。しかし今までは僕たちが気を回して、そのことを菱田社長の耳へいれないようにしてきたわけですよ。ですから菱田社長は自分の能力を、自分自身で客観的に評価できなくなってしまっている部分があるのでしょう」 「菱田社長の指示にそって手直しをした結果を顧客に見てもらうと、ほぼ間違いなく評判が悪いんですよ。それで結局、また元のとおりに戻さなければならないんです」 |