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遼来来 >
「ここが礼拝堂だねっ!?」 真っ先に飛び込んできたのは、赤いショートカットの女性だった。 「ちょっと小蒔。どんなワナがあるかもしれないのよ。そんな無用心に……」 「まったく、とても警官の行動とは思えねぇな」 後ろから、思慮深そうな女性の声と、皮肉な響きをもった男の声が追ってきた。 「大丈夫だって。『表の顔で通すつもりだろう』って、あのフィルってヒトも言ってたし」 「……中にワナがねぇだろうとは、言わなかったように思うがな」 「うっ。――あっ、人が居るよっ」 その、小蒔と呼ばれた赤いショートカットの女性の言葉に、あわてて入ってきたのは、もち
ろん美里葵と――壬生たちともども、足止めを食らったはずの、来須狩夜であった。 来須たちは、小蒔の乗ってきたパトカーに連れてきて貰ったのだ。 「なんとまあ、またお会いしましたねってな顔が居るな」 来須が、礼拝席の彼方に居るフリッツを認めて、顔をゆがめる。 そして、銃を取り出し、つかつかと通路を進む。 「ちょ、ちょっとまって、来須さん。みんなが来るまで、待った方が――」 「その間に、また逃げられちゃ厄介だ。とりあえず……」
一方、フリッツの方も、一瞬、どうしたものかと迷った様子があったが、ゆっくりと来須の
方へ、歩を進め始めた。 と、そこに――。 「ようこそみなさん」 フルボリュームのマイク放送が、礼拝堂に響き渡った。 「うえっ!?」 「きゃっ」 「!」 小蒔と葵は言うに及ばず、全員――フリッツさえが、思わず耳を塞いで固まった。 もちろん、「神父」のしわざだった。 「こんなところでいがみ合っても、どちらにも何の得もありませんよ?こちらで、お話ししま
せんか――?」 ボリュームを戻して、神父は、葵たちを呼びこんだ。 顔を見合わせる葵と小蒔。胡散臭そうに睨みつける来須。
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コペ >
(どう思う?) 小蒔が小声で二人に耳打ちする。 (……雰囲気からすると、そんなに悪そうな人には見えないよね?) (そうね……) 「無邪気に笑いながら人を殺せる奴がいるんだ。当てになるかよ」 来須だけは、まったく声量を抑えずに、というより、わざと聞こえるように言った。神父は、
それが聞こえていないとばかりに、笑顔を崩さない。 (……どうする、葵) (如月くんたちが、スズちゃんを捜している間、こちらに注意をひきつけましょう) 「……」 娘二人に見つめられ、来須が、チッ、と舌打ちし、銃を収めた。
同刻――― 「すごい所ッスね、如月サン」 「……」 葵たちとは別ルートで進入した二人。 「でも、なんつーか、厳かすぎて趣味じゃないなァ。もっと、こう、開放的な……」 「少し、隠密行動という意味を考えてくれ…」 少し渋面な顔の如月は通路の一番奥にある扉の前に立つ。中に人の気配を感じ、音もなく、
わずかに扉を開けた。
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遼来来 >
扉の隙間が、数センチばかりになった、その瞬間。 「ようこそみなさん」 その室内から、とんでもない大音響が漏れてきたため、如月は思わず手を引いた。 待ち伏せをかけられたのかと、雨紋は槍を構え、如月も忍者刀の柄に手をかける。 ――が、続くアクションはこれといってなく、室内からは、なにやらマイクでの話し声が聞
こえる。 「どうやら、中で会話をしている者が居るようだな」 「他のチームの誰かっスかね?」 「かもしれん。それにしても、最初のマイクが異常だ。入って……みるか」 如月は、油断なく構えながら、再び扉に手をかけた……。
一方そのころ。 「ナンマンダブ、ナンマンダブ……」 教会内の通路を歩きながらも、手を合わせて念仏を唱え続ける三木。 「鬱陶しいわね、その念仏」 その後ろを歩くシェラが、たまりかねて文句を言う。 「んなこと言ったかて、人がたくさん死んだんやで」 「言ったでしょ。あの吸血鬼やグールどもは、ああなった時点でもう、ヒトとしては死んでる
のよ。殺してあげるのは、いっそ親切なくらいよ」 「わてらが殺したんでなくとも、ぎょうさん死人が出たことに変わりはないやんか。ああ、ナ
ンマンダブ……」 「そうよ。ヤツらはたくさんの死人を出す。だから私たちは……」 先頭を歩いていた壬生が、さっと手を横に広げて合図をしたので、シェラは口をつぐんだ。 少し、喋り過ぎたと思っているらしく、口元を歪めている。 壬生は、後ろの二人を止めておいて、通路の奥に見つけた扉に歩み寄っていく。 と、その扉に手をかける寸前。 「ようこそみなさん」 扉の向こうからフルボリュームのマイク音が聞こえたため、その手が止まった。 「なんや、今の……」 小声でつぶやく三木を尻目に、壬生は思いきって扉を開けた。
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