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 連載リレー小説「ヒロとスズ」そのさんじゅうよん
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遼来来 >
 
「ここが礼拝堂だねっ!?」
 真っ先に飛び込んできたのは、赤いショートカットの女性だった。
「ちょっと小蒔。どんなワナがあるかもしれないのよ。そんな無用心に……」
「まったく、とても警官の行動とは思えねぇな」 
 後ろから、思慮深そうな女性の声と、皮肉な響きをもった男の声が追ってきた。
「大丈夫だって。『表の顔で通すつもりだろう』って、あのフィルってヒトも言ってたし」
「……中にワナがねぇだろうとは、言わなかったように思うがな」
「うっ。――あっ、人が居るよっ」
 その、小蒔と呼ばれた赤いショートカットの女性の言葉に、あわてて入ってきたのは、もち
ろん美里葵と――壬生たちともども、足止めを食らったはずの、来須狩夜であった。
 来須たちは、小蒔の乗ってきたパトカーに連れてきて貰ったのだ。
「なんとまあ、またお会いしましたねってな顔が居るな」
 来須が、礼拝席の彼方に居るフリッツを認めて、顔をゆがめる。
 そして、銃を取り出し、つかつかと通路を進む。
「ちょ、ちょっとまって、来須さん。みんなが来るまで、待った方が――」
「その間に、また逃げられちゃ厄介だ。とりあえず……」

 一方、フリッツの方も、一瞬、どうしたものかと迷った様子があったが、ゆっくりと来須の
方へ、歩を進め始めた。
 と、そこに――。
「ようこそみなさん」
 フルボリュームのマイク放送が、礼拝堂に響き渡った。
「うえっ!?」
「きゃっ」
「!」
 小蒔と葵は言うに及ばず、全員――フリッツさえが、思わず耳を塞いで固まった。
 もちろん、「神父」のしわざだった。
「こんなところでいがみ合っても、どちらにも何の得もありませんよ?こちらで、お話ししま
せんか――?」
 ボリュームを戻して、神父は、葵たちを呼びこんだ。
 顔を見合わせる葵と小蒔。胡散臭そうに睨みつける来須。
 
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コペ >
 
(どう思う?)
 小蒔が小声で二人に耳打ちする。
(……雰囲気からすると、そんなに悪そうな人には見えないよね?)
(そうね……)
「無邪気に笑いながら人を殺せる奴がいるんだ。当てになるかよ」
 来須だけは、まったく声量を抑えずに、というより、わざと聞こえるように言った。神父は、
それが聞こえていないとばかりに、笑顔を崩さない。
(……どうする、葵)
(如月くんたちが、スズちゃんを捜している間、こちらに注意をひきつけましょう)
「……」
 娘二人に見つめられ、来須が、チッ、と舌打ちし、銃を収めた。


 同刻―――
「すごい所ッスね、如月サン」
「……」
 葵たちとは別ルートで進入した二人。
「でも、なんつーか、厳かすぎて趣味じゃないなァ。もっと、こう、開放的な……」
「少し、隠密行動という意味を考えてくれ…」
 少し渋面な顔の如月は通路の一番奥にある扉の前に立つ。中に人の気配を感じ、音もなく、
わずかに扉を開けた。
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遼来来 >
 
 扉の隙間が、数センチばかりになった、その瞬間。
「ようこそみなさん」
 その室内から、とんでもない大音響が漏れてきたため、如月は思わず手を引いた。
 待ち伏せをかけられたのかと、雨紋は槍を構え、如月も忍者刀の柄に手をかける。
 ――が、続くアクションはこれといってなく、室内からは、なにやらマイクでの話し声が聞
こえる。
「どうやら、中で会話をしている者が居るようだな」
「他のチームの誰かっスかね?」
「かもしれん。それにしても、最初のマイクが異常だ。入って……みるか」
 如月は、油断なく構えながら、再び扉に手をかけた……。

 一方そのころ。
「ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
 教会内の通路を歩きながらも、手を合わせて念仏を唱え続ける三木。
「鬱陶しいわね、その念仏」
 その後ろを歩くシェラが、たまりかねて文句を言う。
「んなこと言ったかて、人がたくさん死んだんやで」
「言ったでしょ。あの吸血鬼やグールどもは、ああなった時点でもう、ヒトとしては死んでる
のよ。殺してあげるのは、いっそ親切なくらいよ」
「わてらが殺したんでなくとも、ぎょうさん死人が出たことに変わりはないやんか。ああ、ナ
ンマンダブ……」
「そうよ。ヤツらはたくさんの死人を出す。だから私たちは……」
 先頭を歩いていた壬生が、さっと手を横に広げて合図をしたので、シェラは口をつぐんだ。
 少し、喋り過ぎたと思っているらしく、口元を歪めている。
 壬生は、後ろの二人を止めておいて、通路の奥に見つけた扉に歩み寄っていく。
 と、その扉に手をかける寸前。
「ようこそみなさん」
 扉の向こうからフルボリュームのマイク音が聞こえたため、その手が止まった。
「なんや、今の……」
 小声でつぶやく三木を尻目に、壬生は思いきって扉を開けた。


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