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真・Water Gate Cafe

 「異伝・東京魔人学園戦人記」〜第三話「妖刀」其弐
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 ――三階廊下。

 先行した女性陣に俺達が追い付いた時、桜井が振り向いて、一つの提案をしてきた。
「どうせなら、ミサちゃんも誘おうよ」
「そうねえ、今ならまだ霊研にいると思うわ」
 遠野も賛同したが、それを聞いた京一が露骨に嫌そうな顔をする。
「なにッ!? お前ら、余計な事いうなッ。なッ、醍醐」
「う……うーむ……」
 話を振られた醍醐は眉根を寄せて考え込む。
 それを聞いた遠野、二人を見た後で、俺の方を向く。
「あら、風間君の歓迎会なのよ。アンタたちの好き嫌いで人選して欲しくないわねッ。ねッ、風
間君。ミサちゃんも呼んでいいでしょ?」
「裏密をか……」
 ――あの御仁とは、転校初日に顔を合わせたが――ありとあらゆる意味で、忘れ難い印象を俺
に与えた。
 まず、あの部屋に満ちていた空気からして尋常な物で無かった。悪意や敵意、不快感と言った
ありきたりの物では無く、生理的嫌悪感――というよりも、むしろ、人間の持つ本能的な恐怖感
をさえ呼び覚まさせる様な『何か』があった様に思えてならない。
 そして部屋の主の表情は漆黒のマントと分厚い眼鏡によって隠されており、まるで掴み所が無
かった。何と言うか、「怪しい、胡散臭い、何を考えているか解らない」と見事に三拍子揃って
いる。
 だが、一見怪しそうに見えても、本人から負の印象は受けなかった分、あの佐久間よりは遥か
にマシではあったが――。
「……」
「どうしたの? 考えこんじゃって。京一たちの事なんか、ほっといていいわよ」
「……ま、『枯れ木も山の〜』って奴か、好きにしろ」
「そうそう、ミサちゃんだって『一応』友達なんだし」
「アン子……。一応ってのは、ちょっと失礼かも」
 桜井の突っ込みに遠野が幾分ひきつった笑いを浮かべる。
「あッ、あははははッ。やーねェ、桜井ちゃん。気のせいよ、気のせい」
「お前も人のこといえねェな……。とにかく、あいつがいると妙な寒気がするんだよなァ……」
「うむ……」
 京一が遠野に突っ込みを入れた後、醍醐と共にうそ寒そうな表情になる。
「まったく、男のクセに意気地がないわねッ」
「もう、いいよ。京一と醍醐クンが臆病だってことはよくわかったからさッ」
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「いや、おれは別にそういう訳では……」
「じゃ、みんなでミサちゃんを呼びにいこ?」
 遠野と桜井にか細い声で抗議する醍醐だが、こう言われては反論のしようも無く、頷かざるを
得ない。
「くそーッ。この裏切り者どもッ!!」
「京一くんも、そういわないで。みんなで行きましょう」
 最後まで難色を示していた京一も美里に説得され、最後には首を縦に振った。
「なんか、今日のオレってツイてねえぜ……。」
 と、未練がましく愚痴ってはいたが。

 ――そして、俺達は件の霊研の前まで来た。
「ミーサーちゃーん。いるんでしょー?」
 遠野が言いながら部室のドアに手を掛けたが、開かない。
「あれ? 桜井ちゃん、今日は活動してるはずだよね?」
 問われた桜井が首を縦に振る、と何かに気づいたのか、遠野を呼んだ。
「ちょっと、アン子。これ見てよ」
 そこに一枚の張り紙が有った。

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  本日は〜、急用ができたので〜お休み〜。
  ご用の方は〜、また明日〜お願いね〜。
  オカルト研究会代表・裏密ミサ
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 ご丁寧な事に、名前の後ろに判子まで押してある。
 俺もそれを確認したが、その背後で『ふうッ……』とか、『やれやれ……』といった、安堵の
ため息が聞こえたのは、決して気のせいではないだろう。
「留守かあ……。それなら、仕方ないよね」
「ミサちゃんもいた方が盛り上がると思ったんだけどなあ。まッ、ミサちゃんと親睦を深めるの
は、また今度って事で。とりあえず、職員室にいきましょ」
 遠野と桜井は残念がったが、遠野がそう結論づけ、次の場所へ俺達は移動を始めた
  
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 ――職員室。

「えーッと、マリアセンセーは、ッと……」
 桜井が室内を見回すが、当の本人はおろか、誰一人として職員室に居ない。
 振り向き、どうする? と視線で問う桜井。
「やっぱ。先生は誘うなっていう、神のお告げだな、こりゃ」
「何、勝手なこといってんだよッ」
 京一の声を聞いた桜井が軽く睨む。
「うーん。ちょっとここで待ってみましょうよ」
 遠野がそう言うのとほぼ同時に足音がし、戸が開くと、愛想の無い声が響いた。
「なんだ、お前ら」
「あッ、犬神センセー」
 その桜井の声に、京一は小さく、だが露骨に舌打ちした。
「ちッ、よりによって、いちばん会いたくないヤツに」
「ヤツじゃなくて、先生――だろ? 逢莱寺」
「……相変わらず地獄耳だな。名前の通り犬並みだぜ」
 京一がそう毒づいた時、先生の顔に失笑を堪える様な色が浮かんだ。
「はははッ、犬とは良くいったな。お前にしては上出来だ。まッ、俺は鼻も利くって事も忘れる
なよ、蓬莱寺。だからお前が、何か企んでても、すぐ判るってわけだ」
「なッ、なんのコトだよッ?」
「とぼけるのが上手な。それじゃあ、この間のは見間違いだったか」
「この間って……何だよ?」
「お前ら、この間の夕方、旧校舎に入って行っただろう。なァ、風間……」
 質問と共に、眼鏡の奥で光る冷ややかさと猛々しさが同居する鋭い視線が向けられた時、俺の
神経網に、最大級の危険度と警戒を促す警告灯が点滅したが、それを表面に出す事は無く、シラ
を切った。
「何の事です? 自分にはまるで憶えが在りませんが」
「ほう? すると、やはり俺の見間違いだったか」
 否定するのを予期していたのか、その口調や表情も何等変わらない。
「そうだぜ、センセ。眼鏡忘れてたんじゃねえの?」
「……まあいい。お前らも知っていると思うが、旧校舎は立ち入り禁止だ。余計な怪我をしたく
なければ、二度と近づくな」
「余計な怪我って、先生、まさか――あそこに何がいるか――」
「何がいるか? 何がいるんだ、遠野」
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「いえ……あの」
「俺はただ、あそこは老朽化していて、床板が割れたりすると怪我をする。と――言いたかった
だけなんだがな――」
「えッ? や、やだ。そーなんですか。もゥ、先生ったらお茶目なんだからッ」
 皮肉っぽい目付きと言葉から、ようやく自分が踏んだドジに気付き、何とか誤魔化そうと、ひ
きつった笑いを浮かべる遠野を、京一が肘でつついて囁く。
(バカアン子ッ)
(なッ、なによッ。ウルサイわねッ)
「ところで――お前ら、これからどこかに行くのか?」
「はい。私たち、これからお花見に行くんです」
「花見?」
「えェ、中央公園まで。きっと、今頃は満開ですよ」
「花見か……」
「先生は、花見には行かれないんですか?」
「あァ。もうだいぶ行ってないな。俺は……、桜って奴が、好きになれなくてね」
「へへへッ、昔、桜の下で女にフラレたとか」
 その京一の戯言(ざれごと)を一顧だにせず、独語めいた口調で話し出した。
「桜って奴は、人に似ている。美しく咲く桜も、一瞬の命を生きる人も」
「……」
「だが、どんなに美しかろうが、やがては散ってしまうのだ。俺には……、俺には、散りゆく為
に、無駄に咲き急いでいるように思えてならない」
 一旦、口を閉ざした時、それまで黙って聞いていた美里が、入れ替わりに口を開く。
「でも、先生。だからこそ、桜は美しいのだと思います。はかない命だからこそ……。人だって
そうだと思います。死があるからこそ、人は強く、激しく、そして優しく、一生懸命生きてゆけ
るのだと、私は……思います」
 だが、その美里の言葉に対して、先生は頭(かぶり)を振り、はっきりと否定した。
「それは、死という物を知らない人間の詭弁だよ。君は――。」
「……?」
 そこで先生を見つめる美里の視線に気づいた時、コンマ単位だがその表情が揺れ動き、同時に
狼狽とも後悔ともつかぬ色が、ほんの一瞬だが閃いた。
「……いや、すまない。話が過ぎたな」
 これ以上この話題を続けるのを避けようとしたのか、その取り繕う様な言葉の後、おもむろに
煙草を取り出し、火を付けると、宙に紫煙を吐き出した。
「で、花見に行くのに、職員室に何の用があるんだ?」
「ボクたち、マリア先生を誘おうと思って」
 桜井が元気に答える。
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「そうか。だが、彼女は今はいないぞ――」
「そうみたいですね」
「マリア先生も、いろいろいそがしい人だからな」
「今は、なんの用事で――」
「あァ、教頭と会議中だ。旧校舎の囲いの強化がどうのといってたな。彼女も旧校舎には随分と
御執心だからな……」
僅かに肩をすくめる様な調子が声に含まれている。
「まッ、花見もいいが、気を付けて行けよ。中央公園に桜以外のものが、散らんように……。な
ァ、風間」
「……一体、何が言いたいんです。先生」
「……わからんのなら、それもいいさ。とにかく、気を付ける事だな」
「なんだよ、他に散るものって。……ゴミか?」
 先生はそれに対して何も答えず、煙草を持った方の手を軽く上げると、きびすを帰した。京一
が呼び掛けても取り合おうとせず、足早に職員室を出ていく。
「行っちゃった……。何が言いたかったんだろ」
「さあなッ。相変わらず、嫌なカンジだぜッ」
 桜井の声に京一がぶっきらぼうに答えた時。
「アラッ、みんな。まだ残っていたの?」
 ようやく会議が終わったのか、マリア先生が声と共に現れた。
「どうかしたの? みんな揃って」
「えぇっと、ボクたちこれから風間クンの歓迎会で、お花見に行くんです」 
「フフッ、それはいいコトね」
「そうおもうでしょ、センセー」
「それで、よかったら、先生も御一緒にと思って」
「ねッ、センセー。一緒に行こうよ」
 美里と桜井、二人の声に、頬に手を当てて、思案する様な顔をした後、すぐに頷いたが、最後
に一言付け足す事も忘れなかった。
「ただし、お酒はダメよ」
「……だよな」
 落胆した様な声の主は言うまでも無い。
「でも、ワタシにも声を掛けてくれるなんて、本当に嬉しいワ。今日は、楽しく過ごしましょう
ネ」
「それじゃ、みんな、六時に中央公園でいいよね」
「そうだな……。まあ、そんなもんか」
「それじゃあ、ワタシはもう少し仕事が残っているから、それに間に合うように終わらせておく
ワ」
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「じゃあ先生、六時に中央公園で――」
 醍醐の言葉に先生も頷いた。
「えェ、六時にね。じゃあ、後で……」
「じゃあね、センセー」
 その桜井の言葉の後、俺達は職員室を出ていった。

 ――真神学園校門前。

「さァて、ボクたちもいったん解散しようかッ」
 その言葉の後、遠野が近づく人影に気づいた。
「ねぇ、あそこにいるのって、ミサちゃんじゃない?」
「なにッ? 裏密ッ――!?」
 耳聡く聞きつけた京一が顔をしかめる。
「ミーサーちゃーん。今、帰るとこー?」
「馬鹿ッ、アン子!! 呼ぶんじゃねぇッ!!」
 京一がそう言うより早く、俺達の姿を見た裏密は、滑るような足取りで歩み寄り、開口一番、
何やら怪しげな事を言い出した。
「我等が根付くこの地こそ、セフィロトの下層、物質界(アッシャー)なり。この地こそ、要素
(エレメンツ)の錯覚的な相互的な作用が生じるところ、精神的な領域が特性記号を通してのみ
認知される〜」
「やめろーッ、それは悪魔の呪文かッ!?」
 延々と続く意味不明の言葉の羅列に耐えられなくなったのか、京一が悲鳴を上げた。そして、
それを聞いた裏密が、『にたあーーー』としか言いようの無い笑みを浮かべる。
「やだな〜、京一く〜ん。ただの、カバラによる宇宙観念だってば〜」
「……何がなんだかさっぱり、わからん」
 京一は腕組みしつつ、そう呟いた。
「うふふ〜。所でみんな、お揃いでど〜こ行くの〜?」
「風間クンの歓迎会を兼ねて、お花見にいくんだけど、ミサちゃんも、一緒に行かない?」
「お花見〜、桜〜、紅き王冠〜。場所はどこ〜?」
 そう言いながら、裏密は、何処からともなくカードを取り出した。
「え……? 中央公園だけど……」
 当惑したような遠野の返事の後、切り終えたカードから一枚を引き、それを見るなりこう言っ
た。
「西の方角ね〜。7に剣の象徴あり〜。う〜ん。やめた方がいいかもね〜」
「……どういうことなの? ミサちゃん」
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「紅き王冠に害なす剣……。鮮血を求める兇剣の暗示だね〜。あっちは、方角が悪いね〜」
「そんなァ……。せっかくのお花見なのに」
「まあ、信じる信じないはみんなの勝手だけどね〜。風間く〜んは、ど〜お?」
「興味無いね」
「あたしの予言が信じられないのね〜」
 そう言った後、満面の笑みを浮かべつつ、言葉を続ける。
「うふふふふ〜。風間く〜んが剣の犠牲者にならないように、心から呪って…………「祈って」
るわ〜」
 ――予言なんぞより、裏密のセリフと、同時に漏らした笑みの方がよっぽど不気味に感じたの
は、気のせいだろうか?
「相変わらず、それっぽいわね。ミサちゃんの占いは……」
「まッ、この時期、中央公園にいるのなんて、酔っぱらいぐらいだろ。裏密の占いを、いちいち
信じてたんじゃ、キリがねェ。それに王冠だの剣だのって、オレにはさっぱりだしな」
 遠野と京一の声を聞いても、裏密はただ笑うだけだ。
「それじゃ、ミサちゃんは行けないのね?」
「悪いけど〜、そういうことで〜」
「残念だわ……」
「ちょっと、待って。そういえば……」
 美里は心底残念そうな表情になったが、その横にいた遠野が何やら不審げな声を出した。
「剣っていってたけど、もしかして、この前国立博物館でやってた日本大刀剣展から盗まれた刀
と関係があるの?」
 遠野が発した質問にも、裏密は京一の時と同じく、笑っただけで何も答えない。
「アン子。盗まれた刀がどうかしたの?」
「今から話したげるから。どお? 風間くんも聞きたい?」
「……手短にな」
 遠野の話はこうだった。
 ……数日前、国立博物館で開催中の日本大刀剣展の展示物の一つが盗難にあったが、奇妙な事
に複数の警備装置は正常に稼働しており、その上、その盗まれた刀を入れてあったケースはしっ
かり施錠されて、外部から触れた形跡は全く無し。にもかかわらず、中に入っていた刀は忽然と
姿を消してしまったという。当然ながら犯人は未だに不明。そして、その刀は、どこぞのほこら
から偶然見つかった代物であると言う事。
「……で、ここからは、あくまでも伝承と推測の域を出ないんだけどね」
 そう前置きした後、更に話を続ける。
 ……かつて、一口(ひとふり)の刀があった。
 斬れ味において、その刀に並ぶ物無く、まさに、名刀の銘を冠するに相応しい逸品だったもの
の、その名声を上回る不吉な噂が常に付きまとっていた。
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 ――いわく、「人の血を求め、使い手の精を吸う」と言う。
 事実、その噂を裏付けるかのように、刀は無数の惨劇をもたらしたが、戦国時代の頃、とりわ
け悪名を高める様な事が起こった。それは、徳川の血族が数代に渡ってその刀を持つ者の手にか
かったと言う事であり、その逸話が巷に知れ渡った事により、噂は一気に真実味を増した。
 名声は地に堕ち、代わりに『妖刀』の二つ名が与えられた。
 そしてその存在を忌んだ徳川の手によって多くが破棄され、闇へと葬り去られたものの、破壊
を免れた内の一口が、徳川一族との話し合いの末、残される事になったが、それは保存と言うよ
り、むしろ、たたりを防ぐ為に幾重にも霊的防禦措置が施された地へ『封印』されたと言った方
が適切かもしれない。
 長らく所在不明となっていたが、今回ほこらから発見され、展示中に盗まれた刀は、その妖刀
らしい……と、言う所で遠野の話は終わった。
「妖刀ねェ……」
 話を聞き終えた京一が呟いた時、遠野が京一の方を見た。
「その妖刀、なんて呼ばれてたか知ってる?」
「まさか、お前――」
「そう。その妖刀は、こう呼ばれていたわ。『村正』――ってね」
「その妖刀……村正が中央公園に?」
「――かどうかは、わからないわ」
 遠野と美里の会話を聞いた桜井が安堵した様な顔になる。
「なんだァ。脅かさないでよ」
「――だったら、面白いなァっておもっただけ」
 そう言って笑う遠野だが、美里の表情は曇りがちだ。
「でも……。ミサちゃんの話も気になるわ。風間くん……。風間くんは、気にならない?」
「ならんね。大体、んなモン気に病んだ所で仕方無い」
「……私、気にしすぎかしら」
「そーね。ミサちゃんの占いは確かに良く当たるけど、花見で賑わう中央公園に、ってのはちょ
っと考えづらいわね。まッ、一応気を付けましょ」
「信じるも信じないもみんなの勝手〜。あたしは行くトコロがあるから、これで〜。じゃあ、気
を付けてね〜」
 立ち去る裏密を見ながら醍醐が半ば独り言の様に呟く。
「なんだか寒気がするな」
「やーね、醍醐君。そんなの気のせいよッ」
「そうそう。マリアセンセも誘った事だし、今日は絶対決行!! あ、そうだッ! 遅れて来た
人は罰ゲームね」
「それって、歌うの? 踊るの?」
「もちろん、両方ッ!!」
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「マジかよ、小蒔……」
 遠野と桜井の声を聞いて、京一が頭を抱える。
「まあ、おまえが一番可能性が高いからな」
「なんでだよォ」
「つまり、人混みの中で女の子(余計なモノ)を捜してないで、早く来い、ッて事よ」
 遠野のイヤミ混じりの一言に京一がむくれる。
「ふんッ、勝手に言ってろッ。じゃあ、後でな」
「おう」
「うんッ、バイバイ」
「遅れないよーに、後でね」
「みんな、後で……さようなら」
 三々五々帰途につく皆を見た後、俺は美里を呼び止め、話しかけた。
「その……一緒に行かないか?」
 それを聞いた美里が当惑した様な表情になったのを見て、言葉を続ける。
「いや、迷惑な様なら、別にいいが……」
「私は構わないけど……、どうしたの、いきなり?」
「……実は道がよく解らん」
「えっ……。風間くんって、もしかして…………」
「……まあ、そう言う事だ」
「わかったわ。じゃあ、五時半に校門前で……」
「面倒かけて悪いが、宜しく頼む」
「遅れないでね」
「ああ、解っている」
 そして、美里と別れた後、家に帰り着いた俺は自室に入ると、性質の悪い酔っ払いやヤンキー
避けに使う為に、机の上に置いてあった紙袋から複数のピンポン玉大の球体を取り出し、ポケッ
トに入れる。
(取扱説明書は読んだが、役に立つのかね、これ……。ま、持ってても損はないか)
 戸締まりを済ませ、家を出ると、途中、立ち寄った店で適当に惣菜とかを調達する。
(手ぶらって訳にもいかんしな……)
 それを終わらせた時には、すでに五時を回っており、俺はやや急ぎ足で、待ち合わせ場所で
ある校門へと向かったのだった。


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