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ヘラクレスの栄光3 〜神々の沈黙〜
 * 前書き兼注意書き *
 
 ストーリーを、忠実に文章化してみたいと思います。
 ですので、ちょっとでも「このゲーム、やってみたい」とかお思いのすてきな)
方は、読むのを避けたほうがよいかもしれませぬ。
 あと「忠実に」とはいえ、もとがゲームなのと、私の筆力のなさにより、カンペキ
なノベライズは、たぶんムリ……。
 でも! この素晴らしいストーリーを、一人でも多くの方に知って欲しいので――
ムリヤリですが、始めます……!
 
 ――遼来来――
 
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 神々の沈黙  序章〜目覚め〜  
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ……気がつくと、見知らぬベッドの上だった。
(ここは、どこだ?)
 ゆっくりと身を起こし、周りを見まわしてみる。
 部屋は木造。明かりはランプだけ。ベッドはひとつだけ。
 質素だけれど、掃除は行き届いていて、つつましやかな上品さが漂う。
(なぜ、こんな所に?)
 額に手を当て、しばし思い出してみる。
(……)
(…………)
(……………………?)
 なにも、思い出せない。
 なにも――覚えて、いない!
 自分の、名前さえも!!
 (待て……パニックになるな……)
 一瞬にして、全身脂汗だらけになりながら、私は必死に自分を抑えた。
(なにか、手がかりはないか? 例えば今、私は、どんな格好を……?)
 自分の姿を、改めて見る。
 味もそっけもない、普通の鎧下。旅の傭兵が、よく使う服だ。
 ただ、落雷にでもあったかのように、縦に激しく裂け目が走っている。
 ――かのように、ではなくて、そうなのかも知れない。
 そのショックで記憶を失ったとすれば、辻褄は合う。が、問題の解決にはならない。
 ベッドの横には、どうやら自分のものらしい、皮の兜と鎧、盾が、きちんと揃えて
あった。
 それを見るに、やはり自分は旅の傭兵かなにかで、落雷に打たれて、この近くで倒
れた――と、いったところのようだ。
 にしては、剣がないのはちと妙だが、私が悪人だった場合、暴れ出したら困るので、
離してあるのだろう。
 と、いうことは――。
(誰かが、私を助け、介抱してくれた……ということか)
 ならば、そのひとがどこかにいるはずだ。
 私は、ゆっくりとベッドから下りた。体はちときしむが、ケガはないようだ。
 鎧下とはいっても、早い話が下着なので、人に会うのに、このままでは居られない。
 とりあえず、鎧を着込む。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 そして、寝室のたったひとつの扉を開け、隣の部屋へと、顔を出してみた――。
 とたんに、スープを煮る良い香りが、私の全身を包んだ。
「あ! 目が覚めたのね!?」
 同時に、前掛け姿のひとりの女性が、作りかけのスープを放り出して、小走りに寄っ
てきた。
「気分は? 歩いても平気?」
 心配そうな瞳で、私の全身をくまなく見回す。
 どうやら、この女性が、私を助けてくれたひとのようだ。
 赤いつややかな髪をギリシアふうに結い上げ、全体に小柄で細身な身体を、少し古
風で重たげだが、やはりギリシアふうの装束で包んでいる。
 大きな、かたちのよい、翡翠色に輝く瞳が印象的だが、そんなに華やかというほど
ではない。
 言うならば、「地方の、純真な娘さん」といった風情だ。
「ねえ、あなた、どこから来たの? 名前は?」
 聞きたい事が多すぎて、かえって黙りこくっている私を見て、彼女の方から声を掛
けてくれた。
 だが、その質問にはますます黙るしかない私は、ただ首を振った。
「どうしたの? まさか、何も覚えてないとかじゃないわよね?」
 彼女は、冗談で言ったつもりだったらしく、うなづいた私に、口に手を当てて驚い
た。
「ホントに? じゃあ、やっぱり、あの雷に打たれたのかしら」
 じゃあ、やっぱり、私の推理は当たっていたようだ。
 と、いうことは、私は旅の傭兵かなにかで――。
 と、いうことは、彼女に、私の情報を貰うのはムリということ……。
 その事実を突き付けられたショックからか、それとも、やはりまだ体調が戻っては
いないのか、私は軽いめまいを感じ、片ヒザをついた。
「あっ、大丈夫? もう少し、横になっていたほうが……」
「……大丈夫だ」
 どうやら、言葉まで失ったわけではないらしい。
 立ちあがりながら、私は少し、ほっとした。
 どうやら同じことを案じていたらしく、彼女もほっと息をついた。
 ピ―――ッ!
 突然、耳を引き裂くような、カン高い笛の音のような音がした。
 私も彼女もビクッとしたが――なんのことはない、作りかけのスープが沸騰して、
ナベのフタを押し上げ、そのスキマからもれる、蒸気の音だった。
「あら、大変!」
 あわててナベに駆け寄る彼女の姿に、私の口元も少しだけほころんだ。
 そして、あらためてその部屋を見回してみると――外へ出る扉が、目についた。
(そういえば、ここはどこなんだろう……)
 私は、何気なく、その取っ手に手をかけた。
「ひとりで外へ出て、大丈夫?」
 彼女が再び駆け寄り、心配そうに声をかけてくれた。
 少し覗いてみるだけのつもりだったのだが――外の空気も吸いたかったし、私は、
ちょっと外へ出てみることにした。
 彼女も、ついて来てくれた。やさしいひとだ……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 そこは――小さな村だった。
 木造、わらぶきの小さな家――というよりも小屋がいくつかと、家畜の柵が見える
だけ。四方には、森と山しか見えない。人里離れた隠れ里――とでもいった感じだ。
 旅の戦士が、興味を持つ所とはとても思えない。「私」はどうして、こんなところ
に――?
「ねえ……あなた、まだ、何も思い出せない?」
 彼女が、おそるおそる聞いてきた。私は、黙って頷いた。
「そう……。でも、名前がないと不便ね――そうだ! ねえ、あなた、なんて呼ばれ
たい?」
(――オ――)
 一瞬、何かが、頭の中をよぎった。
 が、それは霞のように消え、掴むことはできなかった……。
 私は、頭を軽く一振りすると、空を見上げて、ぽつりと答えた。
「……ケーン」
「ケーン(雁)? なんだか、かわいい名前ね」
「飛んでいたんでね」
 私は、空を指差した。
 編隊を組んだ雁の群れが、どこか遠くへと、渡っていく。
 彼女もそれを見上げて、一瞬、ひどく悲しい目をした。が――すぐに向き直って、
笑った。
「……とにかく、ケーンさんね。私はキュレネー。よろしくね!」
「……ああ、よろしく」
「ねえケーン。あなたをひとりにするの、とっても不安だから、しばらく私、ついて
いくね」
 キュレネーと名乗った彼女は、やさしいが、少しばかりおせっかいなのかもしれな
い……。
 ともあれ私は、キュレネーに、村を案内してもらうことにした。
 村の出入り口には、小さなヘルメスの像と、女性の門番が立っていた。
 ヘルメスは旅人の神で、大抵の町にはあるので珍しくはないが、外敵から集落を守
る一番手である門番が、女性というのは珍しい。
 ちょっと「外」を覗いてみようと、門に近寄ってみたが、その門番の女性に止めら
れた。
「外は危険よ! 何も覚えていないあなたは、生まれたての赤ちゃんと同じですもの」
 まあ、そのとおりではあるのだが――どうも、この村のひとたちは、「優しいけれ
ど、おせっかい焼き」なのが、キーワードのようだ……。
 キュレネーの向かいの家では、やはり女性の家主に、激しく質問責めにされた。
「ケーンっていうの? 名前、思い出せたのね? 他のことは? どこからきたの?
どこへ行くの!?」
 私が目を白黒させていると、キュレネーが助け舟を出してくれた。
「そんなにいっぺんに、思い出せないわよね。ひとつずつゆっくりと、覚えたり、思
い出したり……。わたしたちも、お手伝いするわ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 村の外れには、ヤギや馬、ブタが飼われていた。
 そして、ここの牧番も女性だ。そう言えば、男の姿を見かけない。
 男衆は、狩りにでも出ているのだろうか……?
「これはね、ブタさんよ。思い出した?」
 牧番の女性が、まるで赤子にさとすように話しかけてくる。
 どうやら、私を子供のように感じているのが、みんなの優しさと、おせっかいの理
由らしい。母性本能というやつだ。今の、まっさらなアタマの自分では、仕方ないか
……。
「でも、さっきから、様子がヘンなの……」
「?」
 と、言い終わるのを待たず、ブタたちは、突然暴れ始めた。
 メチャクチャに走り回り、柵にぶつかり、ついには柵を破って、村に飛び出したの
だ。
「キャッ!」
「たいへん! 戻さなくちゃ。ケーンも手伝ってね!」
 キュレネーに言われ、逃げるブタを必死で追いかけまわす私。
 いきなり見知らぬ村に目覚め、自分が何者ともわからぬまま、見知らぬ女性とブタ
を追う――。
 展開がキテレツすぎて、哀しいというより、いっそ可笑しい。
 だが、笑っているヒマさえ、私にはなかった。
 ゴゴゴゴ――!
 突如、恐ろしい地鳴りが村を包み込んだ。
 次の瞬間、激しい地震が村全体を揺さぶり――、あちこちに、地割れを生じさせた
のだ!
 私とキュレネーの足元にも、大穴が……!
「キャーーーッ!」
 真ッ逆さまに転落する、二人。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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