紅(あか)い鶴
越後屋善兵衛  
   



「ん、荷物が歩いて来る...。あ、ピンクのリボン...、若葉か?いっぱい抱え込んで。おーい、若葉。」
「あ、越後屋さん。」
「買い出しは終わったのかい?」
「はい、必要な食料も全て買い終わりました。」
「かなりの量だな。半分持ってあげるよ。一緒に帰ろう。」
「有り難うございます。助かりました。カレンさんとウェンディさんに頼まれた物を買ったら、こんなに多くなってしまいまして。」
「よっと...。多いな。次の町まで確か10日以上か...当然だな。でも、カレンが『ちゃんと節約しているんだぞ。感謝してよ、ね。』って言ってたくらいだから、まだ少ない方だろ。」
「.........」
「そうそう、この前、若葉が料理した時は、材料をあらかた使っちゃったんでウェンディが泣きそうになったっけ。今度は俺も手伝うから、気を付けて作ろうな。」
「.........」
「どうしたの、若葉。.........って、居ないじゃないか!ど、どこに!.........居た!若葉!ちょっと、若葉ってば!」
「あら、越後屋さん、何処へ行かれてたんですか?」
(何処かへ行ってたのは若葉の方だって。)
「そっちは宿とは反対方向だよ。」
「私、越後屋さんの後ろを付いて行ったつもりなんですけど、いつの間にか見えなくなってしまって。」
「う〜ん、このままじゃ同じ事の繰り返しだな...。よし、手をつないで帰ろう。さあ。」
「えっ?えっ?」
ギュッ
(若葉の手って小さくて柔らかいな...。ポッ)
(越後屋さんの手って大きくて暖かい...。ポッ)
「さ、さ、さあ、か、帰ろうか。」
「は、は、はい、そうですね。か、帰りましょう。」
「と...、ところで、この荷物に有る大きい紙って、何に使うものなの?かなりカラフルな紙だけど、これを料理に使うの?。」
「これはお店できれいな紙を売っていたんで、折り紙用にと思って、私が買ったんです。」
「折り紙?こんな大きな紙で?40センチ四方は有るみたいだけど。」
「うふっ、小さな物ならこんなに大きな紙でなくてもいいのですけれど、少し手が込んでいますから、どうしても大きい紙が必要になるんです。」
「ふ〜ん、そんなものかなぁ。そーだ、折ってるところを見たいんだけどいいかな?」
「ええ、結構ですよ。夕食後、私の部屋に来てくだされば、お見せします。」


鶴の折り方 「多少折り目が曲がってしまいましたが、これで出来上がりです。」
「へぇ...。親の鶴が子どもの鶴に餌をあげてる。のりも使わず、1枚の紙に切り込みを入れて折っただけなのに...。しかも紙を余らせてないなんて...。」
「こうやって、一枚の紙を、切り離さず、貼り付けず、切り込んで折るだけで鶴を折るという折り方が昔から伝わっていると、お華の先生がおっしゃってました。」
「若葉はその先生から教わったんだね。」
「はい、先生は鶴を折るのが趣味で、色々研究なさっているんだそうです。先生の御友人には足の指だけで鶴を折る人がいるって、おっしゃってました。」
「一度見たいような、見たくないような...。でも、これで大きな紙が必要な理由が分かったよ。小さい紙で2羽の鶴を折るなら、1羽分がさらに小さくなって折りづらいもんね。」
「先生はもっと大きな紙で100羽の折鶴に挑戦しているって聞きました。」
「100羽!想像できないなぁ...。今思い付いたんだけど、この鶴が同じ大きさならキスをしてるように見えるだろうね。」
「えっ...、そう...ですね。」
(あれ、真っ赤になっちゃった。)
「ねぇ、若葉、簡単なのでいいから他の折り方を見せてよ。」
「はい、いいですよ。それでは、ここを折って...切り込んで...鶴を2羽折って...。」
「おっ、これは...。」
「出来ました。わかりますか?」
「鶴が横に並んで...羽根を互いに合わせてる。恋人同士ってことか。」
「そうです。これ以外にも少々教わりましたから、お見せしましょうか?」
「じゃあ、さっきの2つが1つになったような...並んだ恋人同士がキスしてる、って折り方はあるかな?」
「それは教わっていませんけれど...、両方とも簡単な折り方ですから、考えれば1つに出来ると思います。」
「難しいなら無理しなくていいよ。」
「いえ、せっかくですから折らせてください!」
「若葉がそう言うならいいけど...。」
(これを折って越後屋さんに渡すことができれば...。)
「ん、何か言った、若葉?」
「い、いえ、何でもありません!」
「そう?じゃあ、今日はもう遅いから部屋に戻るよ。おやすみ、若葉。」
「おやすみなさい、越後屋さん。」

「頭の部分を何処にすればいいのでしょうか...?」

「これをこう折って...。あれ?なぜでしょう?」

「きゃあ!千切れちゃった...。」

「ああっ。明日、イルムザーンに着いちゃうのに...。明日...。」


「若葉...俺、元の世界に戻っても...おまえのこと忘れないよ。絶対忘れない!」
「私だって、越後屋さんのこと忘れません。一生忘れませんっ!」
「若葉...。」
「これ...、以前約束していた鶴です。」
「完成したんだ...。うん、ちゃんと並んだ鶴がキスしてる。有難う、若葉。」
「.........」
「どうしたの、若葉?」
「本当は、こんな白い鶴じゃなくて...違うものを作りたかったんですけど...。どうしても、上手くできなかったんです...。ですから、これを...。」
「そんなこと、気にしないよ。若葉が一所懸命折ってくれた鶴だもの...。俺はどんなものでも嬉しいよ。」
「有り難うございます、越後屋さん。そう言ってもらって楽になりました。」
「.........。」
「...じゃあ、私...そろそろ行きます...。」
「うん...。」
「明日、笑って見送りますからっ。」
「うん...。」
「おやすみなさい...。」
「おやすみ、若葉...。」


トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル、ガチャ
「はい、越後屋です。」
「.........」
「何だ、てめぇか?何の用だ。」
「.........」
「今度の土日?ダメ、ダメ。用事があってな。」
「.........」
「違うって。一人旅はもう御免だよ。だが、てめぇと一緒の野郎2人旅はもっと嫌。」
「.........」
「う...。おまえ、女の事になるとうるさいね。」
「.........」
「へへん、呪ってもらって結構。こっちにゃ、幸せを呼ぶ紅白の恋人鶴があるもんね。」


eternal lovers 完成形 −End−
後書き

 どうも、越後屋善兵衛です。
 いやぁ、小説を書くなんて初めてなのに、それをインターネットで発表するなんて、顔から火が出るほど恥ずかしいです。

 ともかく、解説いきます。これは台詞だけで場面を表現する、という事を前提に書いたので、場面の変化の説明をいかに表現するか、で悩みました。幸い、ストーリー自体はゲームの流れに沿っていますから、場面説明はかなり省略できて助かりました。
 カレンとウェンディをもっと出したかったんですが、やはり力不足の為、出すのは断念しました。うぅ、ごめんよぉ...。

 折鶴についてですが、これは10年以上前に私が推理小説家の佐野洋氏に傾倒していて、小説中に折鶴の事が出ていたのがきっかけで、「千羽鶴折形」という本を買いました。
 この本は江戸時代に書かれた折鶴の本の解説書ですが、このSS中に有る折り方を始めとして49種の折鶴が紹介されています。ちなみに、正式名称は
 ・親の鶴が子どもの鶴に餌をあげてる.........「拾餌(えひろい)」
 ・鶴が横に並んでる.........「妹背山(いもせやま)」
 ・100羽の鶴(正確には97羽).........「百鶴(ひゃっかく)」
です。
 最後に出てくる紅白の恋人鶴は、私のオリジナルで拾餌と妹背山を合わせた形です。といっても、おそらく今までに誰かが挑戦して作っていると思いますが、私が作った以上、ここで命名します。
 ・キスをしている紅白の恋人鶴.........「Eternal Lovers」
 ちなみに紅白の鶴と両方とも白の鶴とは、折り方の難度に差が有りませんが、それを見つけるまでに時間がかかっただけの話です。

 さて、今後ですが少しずつSSを書いていこうと思いますので、指摘、批評が有りましたら、どんどん言ってやってください。よろしくお願いします。


参考文献:
「おりがみ2 千羽鶴折形」笠原邦彦 著 すばる書房 刊 (絶版)
折り紙について詳しく知りたい方は、「折り紙探偵団」まで。
eternal lovers 展開図


 実線は切り込みで、点線は残すところです。
 ○は表の色の、●は裏の色の頭部になります。
 まず、上2つの正方形を上下に折り重ねてから紅、白の2つの鶴を折ります。
 最後のくっ付いている首の部分が折りづらいと思いますが、慎重に折らないと口の部分が千切れます。
 両方とも白の鶴は白い紙を使って下半分の2つの正方形だけで折ります。


ご意見はこちらまで。
1997/01/24 作成 越後屋善兵衛 zetigoya@dream.com