当SSはNitroPlusさんより発売されているゲームソフト『斬魔大戦デモンベイン』の登場人物やその他の設定などを使用しています。
 『斬魔大戦デモンベイン』をご存じでない方には意味不明の部分が多々あるかと思いますので、そういう方が読むのはご遠慮ください。
 また、ゲーム内容についてのネタバレが含まれることもありますので、これから始める方や完全に終了していない方も読まないほうがいいでしょう。
 また、当SSはフィクションであり、登場する人物、団体、地名などはすべて架空のものです。


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 どんなに街の明かりが夜を照らしても、どんなに科学が迷信の闇を暴いても、人が神様を捨てる事なんて出来やしない。
 何故かって、科学の光ってのは人の心の空洞まで曝してしまうからだ。
 空っぽでスカスカな自分を何とか埋め合わそうと、人は宗教をその空洞に詰め込もうとする。
 何とも調子のいい話だ。
 人は神様の潔癖を疎んじて、それから逃れようとしてこの傲慢の塊のような街を築いたけれど、それでもやっぱり駄目だったから、また神様にすがる。
 尽きせぬ神の愛に漬け込んで、だ。
 俺こと大十字九郎とて人のことが言えた義理じゃない。
 いや、むしろその典型だ。
 不敬で不遜で自堕落で……それでも困った時はここぞとばかりに神様にすがる。
 祈りの言葉も聖書の一節も覚えちゃいないってのに、ホント調子がいい。
 だけどそんな不様を曝したって、俺にはもう神様ぐらいしか頼るものは無いんだ。
 其れはもう切実に。
 いるんだかいないんだかまったく分かってない────いや、別方面に確実に居るのは知っているんだが、そっちには頼みたくない。っつーかそっちは敵だし────ライカさん言うところの神様に、本気で助けを求める程に逼迫している。

────っていうか、助けろかみさま。

 早く今すぐさっさと迅速に疾風のように迅雷のごとく俺を助けやがれ。
「はは……」
 しかし、本当に神様なんて居ないのか、それとも俺のようなちっぽけな事に気を割いている暇などないのか、俺に助けの手を差し伸べられる事は無かったっぽい。
「は……はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
 俺に降りかかったあまりにもあんまりな出来事に、まるで壊れたレコードの様にその場で神でも探すかのように空を見上げながら乾いた笑いをあげる。
 ああ、いい気分だ。
 いい気分過ぎる。
 バッドを通り越して彗星のような勢いでバッドハイに踏み込んで、そのまま突き抜けてハイに反転したようないい気分だ。
「おい…九郎?」
 俺の笑い声にアルがギョッとしたように声をかけてくるが、俺は敢えて無視して笑いつづける。
「ははははははははははははははははははははははははあははー」
「九郎! おい! 正気を保て! 現実を見ろ! 汝はその程度の事でSANチェックに失敗するような柔な精神など持ちあわせてない筈だろう! それともファンブルしたのか? おい九郎!?」
 アルが正気付かせようと言うのか、俺の肩をがっくんがっくんと勢い良く揺さぶる。
 ああ、大丈夫さアル。俺は正気だ。
 ただ、ある意味、あの凄まじかった戦いよりも不条理で理不尽な出来事だから、涙が出ないで変わりに笑いが溢れているだけだから。
 だから、もうちょっとだけ放っといてくれ。
 ちょっと意識を手放して、戻ってきたら、きっといつもの俺に戻ってるはずだから。
 だから、そんな泣きそうな顔して必死になることは何も無いんだぜ?
 これはきっと悪夢だから。目が醒めればもとに戻るさ。
 そう、俺はきっと、ガキンチョどもと遊びつかれて、教会の長椅子で昼寝なんかぶちかましているんだ。
 そうと思わないとやってられない。
 うむ、これは夢だ。夢なんだ。夢以外であるはずが無い。
 っつうか、激しく夢である事希望。
「はははははははははははははははははははははははははははははあは──────」
「九郎ー!!!!」
 なーんてことを思いながら、泣いて俺を引き止めようとするアルの切羽詰った叫びをBGMに、暗く深い淵に向かって勢い良く意識の紐無しバンジージャンプを敢行させた────

DEUS MACHINA DEMONBANE Outside Story
あ〜ゆ〜れでぃ?
by 七刀まほろ

 その日はめちゃくちゃ気持ちよく日本晴れだった。
 ちなみにアーカムなのに日本晴れとは如何にと思えど、俺はこんな気持ちよく晴れた空の表現を他に知らない。
 だから日本晴れ。
 あの戦いを、邪神の作ったクラインの壷、箱庭を壊して終わらせ、この世界に戻ってアルと再開してから既に数ヶ月。
 相も変わらずこの街は騒々しい。
 ちょっとやそっと俺にとって大事件が起こったところで、やっぱりここは大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代。
 俺はアルの助けもあって易々と大学に復帰。司書のバイトを続けつつ大学に通い、時たまアーミティッジの爺さんや姫さん経由の怪奇事件解決依頼を探偵としてこなし、ライカさんに飯をたかったりガキンチョどもと遊んだり、場合によってはドクターウェストと衝突しながらアルと一緒に楽しくも騒がしい毎日を送っていた。
「おい、九郎」
「んぁ、なんだ? アル?」
 窓辺で晴れた空をぼんやり見ながら、ふと昔に浸ってハードボイルドっぽく決めていたつもりの俺にアルが声をかけてくる。
 答えた声が情けなくて、柔らかな陽気に半分うつらうつらしていたのが丸分かり。
 おかげで雰囲気ぶち壊しの俺。悲しい。
「何を考えていたかは知らんが、もとから汝にハードボイルドは似合わん。そんなことより、冷蔵庫の中身がなくなりそうだから買出しに行こうと思うのだがどうだ」
「わー、思いっきりわかってんじゃねぇかこのやろー。しかもそんなことってあっさり切って捨てやがって」
「そんなことだからそんなことと言ったまでだ。ほれほれ、行くのか行かないのかはっきりせい!」
「はいはい、わかりました。行くよ、行きますよ」
 感傷をざっくり切り捨てるアルにぶちぶちと言いつつもハンガーに掛っていた上着を着込む。
 もうこんなやり取りは当たり前になっているが、昔を思い出していた俺はこんなやり取りすら何となく嬉しい。
 ……戻ってきてから暫く、不意に襲ってきた空虚さは、もう、ない。
「九郎、ほら、早くしろ!」
「はいはい、分かってるって。偶の何にも無い休みだもんな、一緒に住んでるとはいえ、デートはきっちり行っときますか」
 入り口でややイライラと俺を待っていたアルにかるーく返す。
 と、ぼんっと音がしそうな勢いでアルの顔が真っ赤になる。
「べべべべべつに妾はでででーとにさそったわけではないっ!」
 ありゃ……いつものやり取りのつもりで言ったんだが……こりゃ、出任せが当たっちまったかな?
 疲れてないときは殆ど毎晩こう……アレなのに、こういうのにはホント免疫ないんだよな、こいつ。
 うむ、愛い奴じゃ。
 入り口で真っ赤になってもじもじしているアルにゆっくり近づく。
「わ、妾はその、そうではなくてだな食料が……」
「いーからいーから」
 往生際悪く冷蔵庫がとか棚の中がとか呟くアルを、ぎゅっと抱きしめる。
 腕の中にすっぽりと収まる柔らかい感触。ほんのりと鼻腔をくすぐるシャンプーやリンス、そしてアルの匂い。
 アルも大人しく俺の体に手を回してぎゅっと抱きついてくる。
 何時までもこうしていたい……が、流石にそうも行かない。
 アルの言い訳じゃないが、今家の物資が少ないのは確かだし、何より、このままで居たら二人でそろって真っ昼間っからベッドに向けて戦略的転進を行ってしまいそうだ。
 木っ恥ずかしい話だが、実際、ここ数ヶ月の間に、その所為で二〜三日ほど飢餓に喘いでしまった事が何度か有った。
 同じ事を思ったのか、俺とアルは同時に、しかし名残惜しそうに体を離す。
 落ち着いたのか俺を見上げて頬を染めながらにっこり笑うアルに向かって、微妙に桃色がかった空気を飛ばすようにやや芝居がかった調子で手を差し出す。
「では、ショッピングなどにでも洒落込みましょうか、お嬢さん?」
「うむ!」
 返事だけはいつものように横柄ながら、アルは俺の差し出した手にそっと自分の手を重ねる。
「よし、じゃあ行くか」
 アルの小さくて柔らかい手を握り、二人で並んで外に出る。
 この日はめちゃくちゃいい天気で、俺はアルの暖かさを感じながら、ぼんやりと今日はいい日になりそうな、そんな予感に胸を躍らせていた。
 そう、本当にいい日になると思ったんだ。
 だから。

 悲劇は最高の喜劇である。
 禍福はあざなえる縄の如し。

 そんな言葉を忘れちゃいけないと思ったのは、全く、事が起こってしまった後だったのだ────

「ふう……こう歩き詰めると仕事とはまた違った意味で疲れるなぁ」
「うむ。だがその疲れもまた醍醐味。大体汝はちと修行が足りないぞ」
 昼近くまでウィンドショッピングをして、露店やらを冷やかして歩いた。
 特に何を買ったって訳でもない。
 もっとも、昔の俺みたいに赤貧に喘いでいてただ眺めるしか出来ないって訳でもない。
 今の俺にはちゃーんとした収入源がある。
 司書のバイトはもとより、姫さんからの依頼の収入だって取ってある。
 デモンベインで戦っていた時みたいに、生活必要最低限以外給料全部器物破損の弁償に当てられているなんてあまりにもお粗末な事になっている訳でもなく、電気、ガス、水道、家賃は戻ってきてから一度も未払いになったことはない。
 おまけにライカさんに二人分の食費まで払い込んでいる始末だ。
 こつこつやってれば生活には困らないんだって見本みたいにしっかりと金銭管理をしているから、偶に名の知れた店のケーキを買ってきて二人でお茶会と洒落込むとか、極偶に有名料理店でディナーなんて贅沢もできるくらいには貯金がある。
 いやいや、まったく前の俺とは雲泥の差だ。
 そんなこんなで欲しい物があれば多少の衝動買いは許されるのだが、今日の俺たちはどっちかと言うと買い物ではなく、腕を組んで街を練り歩き、見かけた品物を見ながらあーでもないこーでもないと品評して、時に意見の衝突で喧嘩腰になるけどすぐ後には笑いあう、そんな雰囲気を楽しんでいた。
「む…もうこんな時間か。そう言えばそろそろ腹が減った頃だな」
 ビルの間から見える、我が母校ミスカトニックの時計塔を眺めてみれば、なるほど確かに、丁度お昼の頃合だ。
「ああ、そうだな…何時ものカフェで軽いものでも摘まむか」
 軽いもの、と言っても単に行きつけのカフェで食べれるのが軽食だからそう言ったまでで、実際は昼飯として問題ないくらいのものが出る。
「うむ。妾はピザでも頼むとしよう」
「俺はパスタかなー。いや、グラタンも捨てづらいところだな」
 二人でしたり顔をしながら腕を組んで歩く。
 何とはなしにこの後どうするか、なんて考えてみる。食材はそんな大量に要る訳じゃないし、帰る間際でいいだろう。
 多分一日歩き詰だろうから帰った頃には疲れているし、荷物を置いたらライカさんのところにたかりに行くか?
 それとも、せっかくのデートなんだから今夜は外食にしてみるか……いやしかし、買い物袋を下げてレストランにっていうのは流石に締まらない。
 かといってロマンティックに夜景を見ながら、なんてやってたら量販店が閉まってしまうし……むむむ。
 アルと会話をしつつ、頭の隅でそんな思考に没頭する。

────後から思うと、多分、恐らく紛れも無くここが運命の分かれ道だったのだと思う。

 せめてもうちょっと前を注意してれば、とか、もしくはもうちょっと長い間色々見て歩いてれば、とか思ったところで後の祭り。
 不幸と幸福の分かれ道を、迷わず不幸に進む自分に乾杯。いや、完敗。

 何はともあれ、カフェに続く道を曲がる。
 と。
「ふう、喰った食った。ミゴ屋のキノコ蟹雑炊も絶品なのであるな」
 等と言いながら爪楊枝を咥えてシーハーシーハーやって歩いていた男と肩がぶつかる。
「おっと………すみません」
「むむ、済まぬのである」
 軽く謝って相手の顔を見る。
 相手も謝罪しつつこちらを見て。
「…………はっ!?」
「…………あっ…?!」
 緑と白に綺麗に分けて染めた髪、黒というか灰色のライダースーツに身を包み、更にその上に白衣を羽織る非常識さ。
 唇に通したピアスが陽光を受けてきらりと輝く。
 俺よりも先にその姿からそいつが誰なのかを導き出したアルが叫ぶ。
「なっ! 貴様はドクターウェストっ?!」
「なにぃ?! 我輩なのであるかっ?!」
 アルの叫びに驚愕して、なぜかいやぁんのぽーずをとる(ピー)。
「…なんで、てめぇが驚く」
「いや、なんとなくなのである」
 俺の突っ込みにしたり顔で胸を張り、HAHAHAHAとアメリカ笑いをぶちかます変体科学者ことドクターウェスト。
 あまりの事態にあきれ返ってため息をつく俺。
 と、やつは俺とアルの顔を見て、やおらぽん、と手を打つと俺の事をびしっと指差すと声高らかに宣言する。
「おぉ?! 貴様はっ! 我が終生のルァイヴァル、大十字九郎っ!! そしてアル・アジフ!!」
「………………いや、おせぇよ」
 アルと二人で盛大に溜息を吐く。
 いやいやまさか、こんな所でこいつと鉢合わせるとはついぞ思ったことも…………いや、何となく既視感がバリバリにあるんですが。
 はるかな昔にこんな事が有ったようなないような。
 ちなみに、ブラックロッジが存在しなくても、こいつの行動は殆ど変わったところがない。相変わらずの(放送禁止に付き検閲)ぶりだ。
 何処にあるんだか秘密基地でしこしこしこしこ破壊ロボを作っては、意味があろうと無かろうと暴れまわり、その度に俺とアルが場を治めに行っている。
 治安警察では微妙に対処しきれないのか、俺たちが事態を収束させるたびに金一封がもらえているからある意味うちの家計を支えている一端ともいえるが、こいつに支えてもらうような家計と考えると激しく鬱。
 ていうか、こいつ自身は一体どうやってあの破壊ロボを毎回作っているんだろう?
 資材は? 資金は?
 考えるだに不思議でならない。どっかにパトロンでも居るんだろうか?
 まあ、利害が一致すればコイツも人格はともかくいい奴だってのはあの戦いで良く分かっている。実際にとてつもない天才だということも。
 まさに何とかと天才は紙一重を地で行く奴だ。
 しかし、今の俺とこいつは敵同士といえなくもない。
 例えお互いのパートナーの心無い突っ込みに泣いて朝から夕日に向かってダッシュ、その後偶然街中で出会って二人で愚痴を言い合いつつ酒を酌み交わす事が結構頻繁に有るという事実をさておいてもだ。
 つーか、向こう曰く終生のライバル。
 こんな奴と命尽き果てる間際までライバル確定ですか、俺人生。
「ふははははははは! 大十字九郎! ここであったが三日と四時間目である! 我輩は昼飯は喰ったから五時間目の歴史はサボって安眠するのである! 貴様らはこれから休み時間であるか?」
 大笑いするドクターウェスト。
 つーか、相変わらずわけ分からん。
「相変わらず訳のわからんやつだな貴様は!」
 せっかくのいい雰囲気に水を差されてアルが噛み付くように怒鳴る。
 良く考えるとただ登場しただけでいきなり雰囲気がぶち壊れるほどの存在感ってのは、ある意味物凄いもんだ。
 さすが○○○○。
「ふふん、アル・アジフよ。如何に貴様が稀代の魔道書といえど、こおおぉぉぉのっ! 大・天・才たるドオオォォォクタアァァァ・ウェエェェストォ! の崇高で高邁で至高なる思考回路には付いて来れないようであるな! ギャアハハハハハハハハハハ!!!」
「くっ……確かにこればかりはいくら我でも流石についていけん。というか、付いて行きたくない」
「いやまったくだ」
 呆れたようにアルが呻く。
 それについては激しく同意だ。
 うんうんと頷きながらふと思った。
 ここにこいつが居るという事は次に来るのは恐らく……!
 アルも同じ事に思い至ったらしく、俺達は顔を見詰め目線で頷き合った。
「まあしかしだな。いかな我輩とい「ダーーーーーーーーーーーリーーーーーン!!」
 それと同時に偉そうになにやら薀蓄たれようとしていたウェストの台詞を切り裂く黄色い悲鳴。
 予測していた俺とアルはまるで弾かれたように左右に別れて回避。
 一瞬送れてその間に走る鉄色の衝撃波。
「ふべらひょーっ!」
 巻き込まれるドクターウェスト。飛び散る血潮。
 微妙に赤く染まった衝撃波はかくっと向きを変え俺のほうに襲い来る。
「マイ・ダーリン! 会いたかったロボ!」
「ぬおぉおぉおぉ!」
 軌跡を読んで飛び上がる。
 間一髪地面を這うように襲い掛かってきたトンファーが空中で縮めた足の先すれすれをぶぅんと音がするほどの勢いで通り過ぎていく。
 それを確認する暇もなく体を後方に捻ってバク転。
 捻った頭が先ほどまで存在していた空間をまたも一瞬遅れで下から打ち上げるように薙いでいくトンファー。
「くっ! おまえも相変わらずだなエルザ!」
「そんなに誉めても何もでないロボ」
 いや、誉め言葉でもなんでもないし。
 人外な速度でぶんぶか繰り出されるトンファーを何とか捌く。
 ドクターウェストが作り出した人造人間っつーかぶっちゃけアンドロイドのエルザ。
 あの戦いでも俺の事をダーリンと呼んで纏わりついていたが、こっちに戻ってきてからなんでまたそう呼ばれているのかおれにはさっぱり皆目見当もつかない。
「それでまたなんで今日は唐突に奇襲攻撃なんかしてきたんだ?! いや、結構頻繁に喰らっているがぜひ聞いてみたい!!」
「特に意味は無いロボ。なんとなくロボよ。愛情表現ロボ。つまり恋の駆け引き? 恐らく勝負?」
 かわいらしく小首を傾げつつトンファーを口元に寄せて恥じらうポンコツロボッ娘。
「だぁっ! わけわからんことで殴ってくんじゃねぇえぇぇぇ!」
「そして勝負に勝てば商品としてダーリンが手に入るロボ。残念だけどダーリンとアルアジフの絆の深さは身に染みてるからエルザは二号さんでいいロボ。エルザ三人でもがんばるロボ?」
「うわー、何勝手に決め手やがるこのポンコツ、つーかなにがんばるきだテメェ」
 微妙に俺の事を思ってるのか思ってないのかよく分からないがとにかく自己中心的な言葉にがっくり脱力する俺。
 そりゃあもう物理的に。
 つまりはいたってノーガード。
 って、しまった!
「フフフ、とうとう観念したロボね、ダーリン! 今こそエルザの愛を受け止めへぶらぃ?!」
 ゴガン。
 鈍い打撃音。
 それは思いっきり力いっぱい振り上げられたトンファーが逆光に黒くかがやく、かがやく、そのどう考えても喰らったら即死必至の一撃が俺の頭頂部にジャストミート。
 …を、した音ではなく、トンファーを思いっきり振り上げた姿勢でがっくりと崩れ落ちるエルザ。その向こうから現れる何やらどす黒いオーラをびんびんに纏ったアル。
 なんか目がきゅぴーんって光ってるし。
「これは返すぞ既知外科学者」
「お、おぅ? 返されたのである」
 アルはそう言ってめんたまぐるぐるにして倒れているエルザのそりゃあ見事な後頭部のたんこぶを作り上げた凶器である一部へこんだギターケースを、いつの間にやら復活した血だらけのドクターウェストに手渡す。
 どうやら俺がエルザの相手をして居る隙に取りに行ってたらしい。
 道理で割り込んでこないと思ったよ。
 って、あの細腕で思いっきりアレをぶん回したのか……。
「な、何はともあれ助かったよアル」
 苦笑をしながらアルに近寄ろうとする。
 てへへとはにかみながら頭を書く仕草も完備。
「うむ、当然だ。だが九郎」
「ん?」
 近寄っていく俺をいやに色っぽい流し目で俺を見上げるアル。
「そこのポンコツの言っていた事。いつの間にそんな協定が結ばれていたのか妾は知りたいのだがな。いつの間に決まったのだ、エプロン二股など?」
 目線が合った瞬間、ぞくりとした感覚が背筋を駆け上がる。
 もちろん恐怖にだ。
 エルザの言葉はその場の出任せである事は俺がよく知っている。
 しかし、なんとは無しにアル内部では既にそういう話が通っている事に大決定済み、約束された事柄の一パーセントもシナリオから逸脱してない規定時効っぽいですよ?
 つか、そもそもハダカエプロン二股ってなんですか、我がいとしの古本娘さん。
「ははは、そんなことあるわけないじゃないか。俺が愛しているのはエプロンつけたアル一人さ」

────なんて、言葉を飲み込む。

 本当ならそう爽やかに誤魔化せればいいのだろうがそうは問屋は下ろさないのだろう。
 何せ目が笑っちゃいねぇ。
 アレはナニヲ言ってもコロス目だ。
 コイツいい雰囲気を散々ひっかきまわされて自分を見失ってやがる。
 でもとりあえず言ってみよう。
 もしかしたらぽっと頬を染めてさらっと水に流してくれるかもしれない。
 言ってみた。
「うつけが。そんな言葉で騙されると思ったか」
「わー、やっぱりさらっと流しやがりましたよこの古本娘」
「さあどうした? 汝のことだからきっと恐らく素晴らしい言い訳をして妾を納得させてくれるのだろうなと期待しているのだが?」
 ずい、と一歩を踏み出すアル。
 思わず一歩あとずさる俺。
 それって何かい。何も言わなかったらコロスって事デスカ?
 言っても死。言わなくても死。
 俺は思わず救いを求めてドクターウェストに目線を走らせる。
「ん? どうした大十字九郎。もしや我輩に助けを求めているのであるか?」
 俺の視線を感じて問い掛けてきたウェストに目線でこくこくと頷きかえす。
 それはもう藁にも縋る思い。
「何故我輩が今の貴様を助ける筋が合挽き肉なのだ。我輩、メンチカツよりもハンバーグが好きなのである。何せ貴様は我が愛しのエルザを誑し込んでいるヤサグレヤングマンであるぞ? エルザの純粋な思いをさかりも真っ盛りでさらにビンビン、ふりまく笑顔なんて所詮商売道具さってな具合で踏み躙りあまつさえ蹂躙しかも百発百中。出来てぽい捨てボロクズのようにエルザを捨てたハイエナの次の獲物は、はっ! もしかして我輩!? 我輩の引き締まった鍛えられた体まで眼中に収めるとはさすが世紀の種馬! 親子丼とは何たる至高のグルメ万歳! ああ! 娘を陵辱され打ちひしがれるパパまでをもその濁りきった欲望を笑顔で隠して近づき耽美に包み込んだかと思うと絶えない性欲を突如露にして触手がっ! 触手がっ!」
「また触手かよ」
 オーケー、分かった。
 渡る世間は鬼ばかりって事だな。つーか、藁は所詮藁か。
 俺はウェストから目線を外す。
 未だ絶対的に危機は去っていない。
「で、覚悟はいいのだな。九郎?」
 なにせ目の前にポキポキと指を鳴らすアルが居る。
「できれば覚悟したくないなぁ、っつーかせめて人の話をきけよっ!」
「聞く耳もたん」
 わーい、さらっと聞き流しやがった。やっぱり言い訳聞いてくれるってのは嘘だったんだな?
 前半のラブラブな雰囲気はなんだったんだ?
 もしかしてここで吹っ飛ばされて、ざんねん! おれのぼうけんはここでおわってしまった! 等とテロップ流されるのが運命だったのか?!
 よよよと泣き崩れる俺の耳に鋭い静止の声が届く。
「おっと、やや待待つがよろしいアルアジフ!」
「なんだ、変態科学者」
 おお、あんな事を言っておいても止めてくれるとは、持つべきものはライバルだっ!
 期待を込めて顔を上げる。
 きっと今の俺の笑顔はコマ中に点描が舞っているだろうと確信できる会心の笑みが自然に浮かぶ。
「なに、我輩としてもエルザを傷つけられた恨みが呪いでしかもちょっと脳天にガツンと笑顔が訪れて、まだ張り付いたままボンジュール。こんな大きなタンコブが結構可愛いと思ったり思わなかったり。おかげで我輩の内緒のグラスハートがさらに蹂躙されるところのカタストロフがエキセントリックに素敵で不敵。そんなこんなで我輩もそ奴に丑三つ時に藁人形でがつーんがつーんと返礼を施したいところなのだがどうか」
「どうかじゃねぇ! チクショウ! 敵はやっぱり敵か!?」
「んもー、ダーリン、流石に痛かったロボー。激しすぎロボよ」
「つーか俺がやった事になってるし?!」
 いつの間にか濡れ衣が大きくなっていて涙。おまけに期待が裏返しで血涙。
「なるほど。確かに一理あるな。よし、まず存分に殺るがいい!」
 うんうんと大仰に頷くアル。
「お前も納得するな! っていうかやるの字が違う?! 本気殺?!」
「汝も観念しろ。罪人は裁かれるのが勤めだ!」
 アルが言うが早いか俺の体がまるで何かに絡め取られたかのように金縛りに陥る。
 太陽の光にきらりと輝く細い糸が見え隠れする。
「お、おれが何をしたぁ〜! っていうかわざわざアトラック=ナチャまで?!」
 じたばたともがくが俺にはどうする事もできない。
 魔道書があればまだ何とかなるが、あろう事か俺を拘束しているその原因が俺の魔道書なのだから。
 身動きが取れなくなった俺を満足そうに眺めると、アルは天高く手を指し上げ、同時にぱちーんと景気のいい音が響く。
 指パッチンだ。
「さあ、やってしまうがよいっ!」
「合点承知の助なのであーる! さあ、我が宿敵大十字九郎! 喰らうがよいのである。これが! こんな事もあろうかと開発しておいた我が『夜も寝ないで昼に寝て、気がついたら昼寝の間に出来上がってしまった我輩にもよく分からないがどうも発動しちゃいけない気もする何となく必殺っぽい新型墳進弾つまりロケットミサイルブラックRX〜太陽の子エディション〜』なのであーる!!」
 アルの合図でやたらめったら長い前口上と共にへこんだままのギターケース型ロケットランチャーを構えるウェスト。
 ズゴゴゴゴゴゴゴ。
 ぱかりと開いた射出口から、ICBMの発射シーンのように勿体つけてゆっくりとせり出してくるミサイル!
 なんとは無しに酷く強力っぽい!
「さあ、行くのである!『夜も寝ないで(中略)エディション〜』!」
 ウェストの叫びに呼応するかのように、ウェスト作の新型ミサイルは勢い良く飛び。

 へろろ〜〜ん。

 ……出さなかった。
「…………………」
「………………………」
「……………………………」
「…………………………………」
「………………………………………おい」

 へろろ〜〜ん。

 空を這うような速度で進む新型ミサイル。
 微妙によたよたと姿勢制御をしながら一生懸命飛んでくるのが微妙にいじらしい。
「なんじゃこれは」
「『夜も(中略)ション〜』であるが?」
「さっぱり威力がなさそうではないか?!」
「いや、アル。考え様によっては巡航速度以下で飛ぶミサイルって言うのはすげぇぞ。良く浮いてられるもんだ」
「ふはははははは! そうであろう大十字九郎! 空力の克服などこの我輩の天才的な頭脳にかかれば赤子の手を捻るよりもたやすいのであーる! 本気で捻ると折れるから力をいれてはいかんのであるが。弱いものいじめは我輩の好むところではないのであるからして強くなれ、大十字九郎!」
「さすが博士ロボー。ダーリン、大きくなるロボ」
 そんなことが話せる速度でミサイルはよたよたと飛んでくる。
 これってほんとにミサイルなのか?
 ふと思い立って聞いてみる。
「で、これの破壊力はどのくらいなんだ?」
「うむ。我輩の計算では大体普通のミサイルの五倍くらいの破壊力なのであるな。なにせ破壊ロボで打ち出すミサイルと同じくらいの破壊力があるのだからして、例えば今大十字九郎にぶち当たれば我輩も含め我輩の遠く後ろに止めてある我輩の愛車までが跡も残さず木っ端ミジンコ! 赤潮発生で海産物が食べられず漁師大弱り。ということはもしや我輩も命の危険が危ないデンジャラアァァァァス?!」
「へー、そりゃすげぇ……ってまてぇっ?!」
「なんじゃと?!」
 えらくのほほんと言われたもんだから、理解するまでちょっと時間がかかった。
 それは死ぬ。思いっきり死ぬ。マジで死ぬ。
 さーっと血の気が引いていくのが分かる。
 見ると、流石のアルも顔を青くして慌てている。
 俺は慌ててアルに怒鳴る。
「くそっ! アル! 逃げろ! 早く!」
「九郎! 汝を置いて妾だけが逃げれると思っておるのか!」
「思ってない、思っちゃいないさ……だけどな、俺はお前を失いたくはないんだ」
「妾とて気持ちは同じじゃ! 汝が居なかったあの永い時…妾がどれだけ辛く心細かったか! 今度は絶対に汝を手放したりなどせん…」
「アル……」
「九郎……」
 ぎゅっとアルがすがり付いてくる。
 抱き返せない状態の自分がめちゃくちゃ悔しい。
 このまま二人身を散らす予感に、アルがそっと目を閉じ背伸びをする。
 俺も応えて目を閉じ、なんとか首を動かしてアルの唇に────
「ダーリン、いい雰囲気のところ邪魔して悪いロボだけど、さっさとアルアジフに術を解いてもらって逃げるかマギウススタイルを取ればいいだけじゃないロボか?」
「あ」
 エルザの突っ込みに、もう少しで触れそうだった二人の唇から今気がついたというような間抜けな声がハモって漏れる。
 一瞬時間が止まってから、アルが慌てて術を解き、ついでマギウススタイルになろうとして────
 が、時既に遅く、いつの間にか上から迫っていたミサイルがこつんと俺の頭に直撃し────

「九郎ーーーーーーーー!!!!」
「アルーーーーーーーー!!!!」

 ぼぶ〜ん。

 えらいまぬけな爆発音が辺りに響き渡る。
 もうもうと上がる黄色っぽい煙で周りが見えなくなる。
 目の前のアルすら見えない。
「げほっ! えほえほっ!」
「ごほっ! な、なんじゃこれはっ?!」
 煙を吸って息が苦しくて咳き込む。
 俺は煙を払おうと大きく手を振った。
 ばっさばっさ。
 ん? なんだ?
 振った手にえらい違和感を感じる。
 言うなれば、ぶかぶかの服を着て袖が余ってる感じ。
「ふーむむむ。これは不発であったのであるな。嗚呼っ! この世紀の大・天・才ドクタアアァァァウェエエェェェスト!!が失敗してしまうとは! なんと言う不運! なんと言う不幸! 天才が失敗するところを凡夫の前で披露してしまうとは! これより我輩は失敗した大天才として歴史に刻まれ永久に永劫にその汚名を語り草にされてしまうのか! それに比べれば命が助かった事実など嵐の前の蝋燭の炎! ああ! 我輩は神の恩寵を受けたものではなかったのか! いや、これは恐らく我輩への試練であろう! 大天才であるところの我輩への試練! しかし引き下がるわけには行かないのである。なぜならば我輩こそが真の大天才なのであるからして!」
「うるせぇ」
 反射的に腰のホルスターに挿していたイタクァを抜いて……抜いて…むむ?
 腰の辺りをまさぐる手が、すかすかと空を切る。
 そこにあるはずのイタクァが無かった。
 ホルスターごと。
 もちろんクトゥグアも無い。
 もっとも有ったとしても袖余り感触の中で抜けるかは疑問だが。
「あれ?」
 何処に行ったと探そうにも、まだ煙がもうもうと立ち込めていて探すに探せない。
「どうした? 大丈夫か九郎?」
「ああ、俺は大丈夫だ。アルの方こそ……って、なんだぁ?」
「うにゃ? な、なんじゃ??」
 心配するアルの声に対して大丈夫なことを伝える聞いたことの無い少女の声に俺とアルが驚く。
 おかしい。これは俺の言葉のはずだ。
「あー、あー、アメンボ赤いなあいうえおー」
 俺が言おうとしたとおりに鈴の転がるような澄んだ、春のそよ風のような柔らかい声が響く。
 なんだ? なんで俺の言う事を先取り?
 というか、もしかして俺が出している声なのか?
 混乱している間にもうもうと立ち込めた煙が薄くなってくる。
 目の前に心配そうな顔で俺を見るアルが────って、俺はしっかり立ってるのに、なんで何時もは胸の辺りに有るアルの顔が目の前に?
 兎も角、顔が判別できるくらいになったところでアルが驚く。
「な、汝は何者じゃっ?!」
「何者って…俺は俺だぞ。寝ぼけてるのかアル? っていうか、お前こそいつの間にそんなに大きくなった? しかも大きくなってもロリなままだし。不自然にも程があるぞ」
「なっ…!?」
 俺が発して居るらしい少女の言葉を聞いて、アルはさらに驚く。
 そろそろ煙も晴れて来て、周りも見えるようになってくる。
「ダーリーン、大丈夫ロボ?」
「大丈夫なのであるか? 大十字九郎アーンドアルアジフ」
 煙が晴れたのを見てドクターウェストとエルザも近寄って来て────
「────え?」
「────んな?!」
 俺たちを認めた途端に驚愕して絶句する。
 なんだ? 何があったんだ?
 アルもウェストもエルザもこりゃびっくりな表情のままに固まっている。
 と、足元に絡みつく布のような感触に気がついた。
 見ると、そこにはずり下がって落っこちた俺のズボンとトランクス。
 くしゃりと落ちた布の塊を纏わり付かせて、すらりと細い足が伸びている。
 ベルト型のホルスターも一緒に落ちていて、そこにはちゃんとクトゥグアとイタクァが挿されてある。
 ぶかぶかになっているシャツのおかげで、ヤバイところはきっちりしっかり隠れていて流石にモロ出しの木っ恥ずかしい事にはなってないらしい。
 考え様によってはより恥ずかしい格好だが、これならまだ猥褻物陳列罪には引っかからないだろう。多分。恐らく。万が一。
 つーかそんな情けない捕まり方はいくらなんでもご免被る。
「よいしょっ…と」
 とりあえずホルスターごとトランクスとズボンを持ち上げて……と、屈んだ拍子にさらりと黒い細いものが数束、肩を滑って垂れ下がってくる。
 髪の毛だ。黒檀のように黒くて艶がある。しなやかそうな細く長い髪の毛。
 結構邪魔だな。こう長いのも。
 手でかきあげて肩の後ろに戻す。よし。
 改めて落ちた服を上げ、ベルトをぎゅっと締めなおす。穴を新たに開けないと完全には締められんなぁ…。
「で、何を固まっているんだお前ら?」
 ぐるーりと周りを見回す。
 相変わらずぽかーんとしたままの面々。
 そして、近くのガラス窓に写った俺の姿。
 いや、分かっている。分かってはいるんだ。
 これは確かに固まってしかるべき事態だってーのはいやと言うほどわかってる。
 だけどなー、気づかない振りくらいさせてくれてもいいってもんじゃないかい?
 ……いや、無理なのも分かってるが。

────ああ、そうだな。そろそろ現実を見つめないといけないんだろうな。

「────九郎…なのか?」
 半ば呆然としたまま、問い掛けてくるアルにこくんと頷き返す。
「────ああ、そうだ。こんなナリになってしまったが、俺は正真正銘、魔道探偵大十字九朗だ」
 最後微妙に涙声。
 そりゃあ、泣きたくもなる。
 っていうか、もう泣きそう。
 なにせ、ガラスに映った俺の姿は、何処をどう見ても女の子。
 しかも、アルにも匹敵するほどの美少女だ。
 磨き上げた黒檀のような流れる黒髪、白磁に朱を一滴垂らしたような肌。
 そんな美少女が、体形が合わなくてだぶだぶの俺の服を着ている。
 しかもやや気の強そうなぱっちりとした菫色の目が、今はなさけなげに目尻に涙を浮かべて上目遣いのおまけつき。
 はっきり言って萌え。
 これが自分じゃなかったのならば、だが。

────ああ、神様、一体俺はなにをしてこんな罰を受ける羽目に?
罰で無いなら助けて下さい。お願い神様。

「はは……」
 乾いた笑いが無意識に口から漏れる。
 あー、やっぱり、流石に受け止めきれなかったみたいだな。現実。
 なんて嫌に冷静に考えている間にも笑いは自動的に口から溢れ返る。
「は……はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
「おい…九郎?」
 俺の笑い声にアルがギョッとしたように声をかけてくるが、俺は敢えて無視して笑いつづける。
「ははははははははははははははははははははははははあははー」
「九郎ー!!!!」
 晴れ渡った空の下、俺が現実逃避に意識を手放すまで俺の笑い声は街に響き渡った。


────その後暫くして、俺は魔道探偵改め、魔道美少女探偵としてアーカムに名を轟かす事になるのだがそれはまた別な話。

後書き
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