目標はキナバル山
ボルネオ行きが決まった,さて何を目的にしようか。前回に行ったときのことを回想し,なによりもまず思い出されるのは,KundasangのPerkasaホテルから見たキナバル山の威容であった。私は本来登山が趣味の人たちとは異なり,蝶がいるから山に行くのであって,頂上を征服しようという意欲すらない。たとえば,白馬山,谷川岳周辺などは何十回行ったかわからないが,いずれも頂上へは行ったことはない。唯一繰り返し頂上に登ったのは石垣島の於茂登岳で,これはアサヒナキマダラセセリの周年経過に興味を持ったから年に4回も登ったのであって,蝶がいなければ決して登らないだろう。しかし,しかしである。そんな私でも,キナバル山だけは登ってみたいのである。こんな気持ちは,あの山を眺めた人の少なくとも半分は理解してもらえるのではないかと思う。おまけに,幸か不幸か蝶は採集禁止,網を持ってゆくことはできないので,完全に割り切って蝶はただ眺めることに徹することができる。おそらくは,誘えば四国の中島さん(私と姓は同じであるが,血縁は確認されていない。御年70歳の,歳の離れた友人である)も来るだろう。だとすれば,柿沼の運転するレンタカーでKundasangに行き,私が登山している間,彼らは周辺の山で採集してもらって,その後一緒にBunsitにでも行けばよい。この決定の前後にちょうど大学の同期の忘年会があり,
「俺は来春キナバル山に登るのだ,旅費も有馬記念で十分出たしな」
などと騒いでいると,Oさん(学科も卒業年度も全然違うが,なぜか毎年この会に出席される)が,
「おい,お前本気か。だったら俺も行く」
かくて,合計4人のボルネオ行きがバタバタと決定した。
キナバル登山には,サバ・パークスの許可が必要である。コタキナバルに着いてからこの許可を得るとすると,それで丸一日無駄になる。いつもはAMEXのトラベルサービスに切符や宿の手配を頼んでいるのだが,今回はボルネオ専門の旅行会社に依頼して,前もってキナバル登山の手続きを代行してもらったほうがよさそうだ。「地球の歩き方」の後ろに載っていた旅行会社を3つほどえらび,旅行の計画の概要を書いたFAXを送った。一つの会社からは,キナバル山のツアーの案内が送られてきた。別行動-再合流というような変則的な計画なので,これではだめだ。少しすると,高校の生物部時代の後輩の伴君から,
「先輩,お久しぶりです」
何でこいつから急に電話がかかってくるのか,一瞬不審に思ったが,何のことはない,「大陸横断バス」という旅行会社のマレーシアの担当をしているのだという。こちらの計画通りの旅行の手配が多分できるだろうという。もう選択の余地はない。もう一つの会社からも少しして手配できる旨,連絡があったが,こちらには計画が急きょ中止になったなどと苦しい言い訳をして丁重に断り,後は彼に任せることにした。
出発予定の20日前になっても,まだ飛行機の予約が入らず,もしや行けないのではないかとやきもきしていると,返信用封筒を同封した丁重な手紙が届いた。四国の中島さんの蝶の友人の島川さんからである。もしもまだ間に合うならば,自分もメンバーに加えてくれないかという。旅行会社の方に早速連絡したところ,3日ほどたって5人分のチケットが取れたという連絡が入った。じつに運のいい人である。チケットも取れ,後は出発を待つだけという時に,Oさんから奇妙な電子メールが届いた。
中島 丈治様
前略
世話役、御苦労様です。
ところで昨日、写真家のY氏と会い、ボルネオ島やキナバル山などについての情報を得ました。その中で、今回の旅行で是非とも実現して欲しいことができましたので、お知らせします。
もともと小生の今回の目的の一つでもあったことですが、ポーリンにラフレシアの開花を観に行きましょう。
下山後はクンダサン泊ですので、ポーリンは比較的近くです。時期は丁度だそうです。ラフレシアの情報センターもあって簡単に観察できそうです。さらに、ポーリンは国立公園で採集禁止ですが、すぐ近くによいポイントもあります。
なお、当地には”バタフライガーデン?”を造るために、OT氏が滞在していて昆虫の情報も入手できるとのことです。小生は会ったことはありませんが、Y氏の紹介状を持って行きます。
そのほかには、
・信頼のおけるレンタカー屋を教えてくれるそうです。
・前回も行った「ブンシット公園」がやはり好採集地。
以上です。宜しくご勘案ください。
草々
2月4日
何が奇妙かというと,「下山後はクンダサン泊…」の一節。下山後キナバル公園入り口で待ちあわせ,合流して一緒にBunsitへ行くので,下山後はケニングアウ泊である。旅行会社作った予定表を送ったのに,ちゃんと見ていないのか,今更予定変更をしようというのか,困った人だなあ…,と旅程表を見ると,
「アッ」
予定表をよく見ていないのは私の方であった。クンダサン,ケニングアウともにプルカサというホテルなので,つい見落としてしまったようだ。直行便が取れることを前提に,まず一緒にクンダサンにその日のうちに行く予定が,フィリピン経由で到着時間が遅くなったのでコタキナバルで翌朝レンタカーと送迎車に別れる計画に変ったが,コタキナバルで一泊してから二人ずつ全く別方向に別れ,その後クンダサンで合流するなんて,間違えないかぎり立てにくい計画である。キナバル山から下山した後は,軽くBunsitあたりで遊び半分採集して帰ろうと思っていただけで,それほどBunsitへ行きたかったわけではない。メールの内容はなかなか魅力的で,ヒョウタンから駒,このままの計画で実行することにした。