この曲に関して、まず言いたいのは、サブタイトル(〜子午線の夢〜)がついているところである。サブタイトルだけでも、内容の深さを感じさせることができそうだが、
歌詞も非常にスケールの大きさを感じさせることができるのがこの作品のすばらしいところであろう。まさに、人生をどんどん歩みつづけようところに、さらに勇気を与えよう
とする応援歌的なところがある。楽曲にしても、サビの部分にスケールの大きさを感じさせる歌詞を持ってくるところがすばらしいと思う。私の作品の「大和〜平成維新伝〜」
に通ずる感性があると思っている。
小林幸子さんといえば、人気アニメ「ポケットモンスター」の主題歌を歌ったことでも知られているが、この曲は、初め聞いたとき、「ポケモン」の主題歌だと思ったくらい
である。実際は、映画「伊能忠敬」の主題歌なのだが、「ポケモン」の主題歌にしてもいいくらい、子供達にもお勧めできる曲だと思う。
12. 志摩半島 鳥羽一郎さん
この曲は、私の提唱する、「ふるさと演歌」を地で行った作品である。歌詞の中にも、「海女」や「浜木綿」、「真珠」など、(伊勢)志摩に関連する内容がふんだんに取り入れ
られており、観光地でもあるご当地をイメージさせることができる作品に仕上がった。「志摩半島」といえば、鳥羽さんの生まれ故郷でもあり、さらに鳥羽さんの母は、つい最近まで、
現役の海女さんだったという話も聞いており、この曲は、鳥羽さんにとって、非常に思い入れが深い曲になるのではないだろうか。
鳥羽さんの歌い方は、今の男性歌手の中でも、一番といっていいくらい「こぶし」の聞いた節が印象深いのだが、鳥羽さんがこの曲の中で「海女」を歌うと、女性っぽくなく
聞こえるようになる。しかし、それは非常に特徴深くていいことだと思う。というのは、海女さんは、非常に美しいイメージを持っている人もいるのかもしれないが、実は非常に
長時間海に潜らなければいけないだけに、体力のいる職業である。だからこそ、鳥羽さんが歌う「こぶしの利いた勇ましい」というのが本来の「海女」さんのイメージだと私は
思っている。
なお、本曲のカップリングは「大王の疾風(かぜ)」。これも志摩半島にある大王崎を描いた作品で、「ご当地ソング」である。
13. 隅田川 城之内早苗さん
この作品は、一言でまとめれば、「昔懐かしい家族の姿をほのぼのと描いた癒しの演歌」である。東京の下町の昔懐かしい情景がひしひしと伝わってくるようで、
聞いていて非常に感激させられるところがある。以前は、こんな女性になれたらいいなぁ、と思う理想の母親像を描いていると思うが、最近は女性の力も強くなって
いるので、この情景がすべてだと言いきれないところはあるかもしれないが、それでも、今も「こんな母親になれればいいな〜」と思う女性も多いと思うところだ。
ところで、この作品は、当初は「うずまき音頭」のカップリングとして発表されていたが、ファンの間から好評を博したため、2000年にA面にカットされた。
実は、カップリング(=B面)については、私はいろいろ考え方を持っており、私のHP内の「演歌復権の道」でも後述するが、やはり、超一流になればなるほど、
カップリングやアルバム収録曲が軽視されるきらいがあるのは残念なことである。カップリングも、作詞・作曲家が丹精こめて作った曲であるし、生かし方によって
は、本当に立派な作品として世に出ることは間違いないはずである。
14.旅人 加門亮さん
この作品は、スケールの大きさが特徴である。ご当地というほどの言葉は歌詞には出てこないが、北海道をイメージした曲であるというのは、歌詞を見ても明らか
である。歌詞の一語一語が非常にスケールの大きさを醸し出しており、そしてそれに3ビートのメロディがさらにスケールを際立たせる効果を出しているといえる。
私の提唱する、「ふるさと演歌」に近い雰囲気があり、北国、や、酒(一部に出てくる)というのは置いておいて、余りあるだけの歌詞だと思う。歌のイメージは
女性的なやさしさが見えながらも、女性的な感じ方というのは少なく、男性的な雄大さも感じることのできる、非常に聞き応えのある名曲といえるだろう。
個人的には、このクラスの男性歌手のリリースする歌が大ヒットすれば、演歌業界も活性化するはずで、その意味でも、この曲にかける期待は非常に大きいと
思うので、楽しみにしているところである。
15.ぼんぼり小路 山本智子さん
NHK歌謡コンサート・若手歌手コーナーの6月前半の曲として紹介されたのがこの曲である。
夢に破れた男性を、友達か、恋人か、という女性が慰める、という内容の詩のイメージで、どちらかといえば、20〜30代くらいの2人、という情景だろう。女性側が
優しく語りかける感覚が、若い山本さんの歌声と合っている感を抱く。1980年代のアイドルブームを思い起こさせるようなイメージがあるが、山本さん自身も、この
世界に入るきっかけとして、松田聖子さんにあこがれて、というのがあったようだ。時代は変わっても、その時期を知っているファンにとっては、懐かしさも出るところ
だろうが、この曲は、その「アイドルブーム」時代の感覚も思い起こさせてくれそうだ。
私がこの曲を挙げる理由として、曲のキーも、「癒し」の詩に合っている、という部分がある。曲のイメージが柔らかくなるようなキーを使っている点で、詩との組み
合わせが絶妙に響く、というところで、これが、半音でもキーがずれると、感覚が大きく変わってくるところだろう。
16. 望郷の詩 五木ひろしさん
今回の曲は、全島避難が続く三宅島民への応援歌として、作詞・阿久悠先生および長谷川鴻三宅村長、作曲五木ひろしさん本人、という豪華版の作品である。その思いは、
三宅村を勇気付けたい、という五木さん本人が作曲した点にも、強く現れていると感じる。自身で作曲した、ということもあり、五木さんの声質を最高に生かせるような
メロディで、また、詩の世界は、島独特の「時間のゆっくりとした」イメージが浮かぶような流れであるが、現実には、避難生活を強いられている、という場面を描いたところ
もあり、辛さも感じるものとなっている。
このような作品の良いところは、例えば10年経って三宅島が復興した場合に、この曲が歌い継がれることによって、「10年前はこの曲が歌われていたんだなぁ・・・
そういえば、全島避難していた時期もあった」という思い出として語り継がれることにある。また、長谷川鴻さんが三宅村長を引退したときにも、名前が残っていることで、
長谷川さんが村長をしていた時期が思い起こされることもあるだろう。もちろん、三宅村の皆様にとって、現在は非常に大変な時期であるが、その意味でも、この曲が世に
広まり、ヒットすることを願っているところである。
17.紙ふうせん あさみちゆきさん
井の頭での公園ライブ活動からスカウトされた新人若手歌手のデビュー曲。ポップス系の歌手(この曲も、曲調だけいえばJ−POPなのだが)では、この系統でデビュー
にこぎつけるケースは多いが、どちらかといえば、「売り出し」や「スタッフ」の面から演歌系ともいえる歌手の場合、このような「ライブ活動」からメジャーデビューできる
ケースは少ないので、貴重な存在といえよう。実際、あさみさん本人も、歌手を目指して上京したものの、なかなかデビューのチャンスがつかめず、どのように活動していけば
いいのか感覚がつかめず、まずは、地道なライブ活動から、ということで井の頭公園での活動を始めたところ、スカウトされた、ということで、この世界は、どこにチャンスが
あるか分からない、という好例ともいえる。そして、6月中旬に初めてのNHK歌謡コンサート出演も果たした。
杉本眞人先生独特のメロディーに川口真先生のアレンジ、そして、あさみさんの柔らかい声の質が、「流れ行く人生」をイメージした歌詞や曲想にぴったりしている点が特徴
といえる。そして、あさみちゆきさんの「芸名」の由来は、若くして亡くした兄からとって、ということだが、この歌詞や曲のイメージから、私は、亡くなったあさみさんの兄
を思い出させるような懐かしさも感じることができた。その意味で、デビューへのエピソードとともに、これからを期待したいと思っている。
18.ユンボギの日記より 少年 一条健さん
この歌手とタイトルを見て、知っている、という方がいられたら、相当な演歌ファンだろう。私がこの歌を初めて聞いたのは、昨年10月の浅草での、「バップレコード」の演歌
イベントであり、また、一条さんは、平成13年、この曲でデビューして、2年くらい頑張っていることになるが、最近になって、この曲がクローズアップされるべき社会状況が
生まれつつあるといえる。
この歌は、1950年代の「朝鮮戦争」の動乱期を生きた、当時10歳の少年ユンボギ君という少年が生きた時代の背景を描いた、という紹介だが、現在の朝鮮、そして、日本を
取り巻く状況を見ると、歌の中に、本当の「現実」が見えてくるような気がする。朝鮮戦争がもたらした「悲劇」を映し出してもいるし、とりわけ、現在の「北」の状況がこの「詩」
の中にあるようにも思え、なにより、わが日本も、戦中、戦争直後は、この「詩」の世界の中にあったような気がする。その意味でも、この曲は長く歌い継がれるべきだろう。
詩の内容的には、童話の「マッチ売りの少女」的なところがあるが、この「少年」は、マッチの代わりにガムを売る、という話になっている。その中で、少年が「母」を探して、
というところがあるが、家族が「南北」で離れ離れになるような状況が思い出される。「歌」の世界では、3〜4分では表現しきれないところはあるが、その続きをぜひとも聞いて
みたい逸品といえる。
19. 家族 黒川真一朗さん
今年8月に水森英夫先生の内弟子からデビューした新人(正確には、再デビューという話だが)で、氷川きよしさん、音羽しのぶさん、山内惠介さんの弟弟子にもあたる歌手でも
ある。その中でも、デビュー曲としては、上記の3人とは一風変わった歌で、タイトルにもあるとおり、家族の大事さ、ふるさとの大切さを感じる、懐かしさあふれる曲である。
最近の業界全体の傾向として、メガヒット曲不在の状況の中、カバー曲に頼る、というのがあるが、懐古的な流れになってきているというところだろうか。その中で、演歌業界も
その傾向が見て取れるのが、嶋三喜夫さんなど、ふるさとを大事にする懐古的な歌をリリースするというところで、今回重要なのは、新人デビューの若手歌手が、このような懐古的
な歌を歌う点であろう。というのは、最近、若い世代に「ふるさと、家族、地域社会を重んじる」風潮が欠けている、というところが見え、それが、ひいては社会全体のひずみを
生んでいるのでは?というところに行き着くことが考えられるのだ。その意味で、若い世代の黒川さんが、このタイプの歌を歌うことが非常に重要である、と感じるのである。
20. 河 堀内孝雄さん
「はぐれ刑事純情派」の主題歌を毎年歌うことでおなじみだが、2003年10月の「演歌百撰」ゲストで今作で16作目、という話をされていた。堀内さんの作曲した歌の中
では、荒木とよひさ先生の作品が多いが、今回は、たきのえいじ先生の作詞ということで、近年の作品の中では、どちらかと言えば、異彩を放っているように感じる。
さて、今作はゆったりとしたメロディーで、人生の奥深さ、長さを、ゆっくり流れる大河のイメージに投影した作品となっている。以前に、五木ひろしさんが歌唱された「山河」
(同じく堀内さん作曲・小椋桂先生の作詞)にも同様の詩想を感じることができたが、今回は、特に、メロディーには和み、癒し的なイメージを感じ、どちらかといえば、先日に
銀座演歌イベントで観覧した、湯原昌幸さんの歌っているような、「人生、50からの応援歌」的な部分を強調している、という感覚に映る。以前にヒットした「竹とんぼ」と
比較すると、「50からの応援歌」としての「竹とんぼ」から5年たって、その5年、ひいては、今までの人生を回顧して「河」を、という感覚で聴くと、2つの作品の世界を、
さらに深く堪能できるだろう。