
関富士子未刊詩篇より
柩の前で
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小さく開いた窓からあなたの顔を見る
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目はかたく閉じられているのに
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白い歯が見えている
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何がおかしいのだろう
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次々と人がのぞきこむのに
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誰も見ようとしないで笑うなんて
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顔全体が膨れて
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勝ち誇っているみたいにも思える
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大きなまぶたが丘のように盛り上がり
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瞳をすっかり覆っているので
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あなたの本心はわからない
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苦しみで口がゆがんだのかもしれない
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あのころもそうだった
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夕暮れの教室で静かに詩を読んでいた
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あなたは見知らぬ大人のようで
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わたしがごめんなさいと言っても
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薄い色の瞳に感情は何も映らない
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微笑んでうなずいて
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そのくせ誰のことも許さなかったのだ
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今わかった
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あなたは自分自身さえも許さない
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あれから三十年間ことあるごとに
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心とからだを責めさいなんだ
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自分に最後の暴力をふるい
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笑いながら別れを告げること
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清潔なほそい喉が今真綿で包まれて
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青黒い紐の痕を隠している
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肉親をあれほどに泣かせて
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これはわたしたちへの罰だろうか
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あなたの苦しみを知らない
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死に顔を見せられて
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いきなり殴られたように驚愕している
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わたしはなぜ罰せられていると感じるのだろう
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あのころも今も
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わたしはあなたの友人ではなかった
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(関富士子詩集『女−友−達』2003.6.16発行(開扇堂)所収)