これは架空の話です。
水泳大会で水着を脱がされて以来、頭の中はその事でいっぱいでした。
どういう訳か、もう一度でいいから再びそういう状況に置かれないかと考えていました。
しかし、そう滅多な事は起こりません。そして数ヶ月後にはすっかり忘れてしまいました。
私の通っていた高校は、私立の共学でした。
校則は厳しいのか厳しくないのか、よくわからない変わった所がありました。
アルバイトに関してはこんな調子です。
アルバイトは原則として禁止。
ただし、新聞配達、牛乳配達、郵便局での仕事、農作業、
自宅から半径500m以内のスーパーと本屋、家業の手伝い、
並びに親戚の家での手伝いは除く。
とありました。
恐らく、次から次へと例外が追加されたのだと思います。
そんな高校に通う私に、とっておきのアルバイトの話がやってきました。
高校一年の春休み、N県に住む叔母の妹さんの家の民宿の手伝いをやってくれというのです。
きっと三食昼寝付きで、スキーもやり放題だと思い、喜んでOKの返事をしました。
そして短い春休みが来ました。
現地には両親に車で送ってもらいました。
叔母の家で一泊後、両親は自宅に帰り、私はバイト先の親戚の民宿に向かいました。
幸せな事に、民宿でのアルバイト生活は、期待通り実に楽しいものでした。
朝は5時から9時まで、午後は3時から9時まで。
仕事内容は食事の支度、後片付け、部屋の掃除、風呂掃除、雪かきなどでした。
私の部屋は3畳の狭い部屋ですが、昼間はスキーもできれば昼寝もできました。
子供たちと雪で遊んだりもしました。
これだけで日給5千円です。高校生の私にとっては、非常に幸せでした。
ところが、この快適な民宿生活には一つ問題がありました。
それは入浴時間です。
この民宿には3人くらいが一度に入れる風呂が1つだけあり、男性・女性と家人とでは時間差で入浴時間が決まっていました。
詳しくは忘れてしまいましたが、午後6時から女性の入浴時間で、次に家人、最後に男性が11時までという感じでした。
おばさんには「家人の時間帯に入るように」と言われていました。
しかし、時間帯が短いですから、大抵、誰かと一緒に入ることになります。
おじさんや、お爺さんお婆さんと一緒ということは無いですが、子供達かおばさんと一緒に入らなければなりません。
ですから「寝がけに入りたいので、夜11時過ぎに入ります。」とお断りしてました。
おばさんも私の心境を察してか、無理には誘いませんでした。
男性客の中には11時過ぎに入ってくる人もいました。
風呂にカギが掛かればいいのですが、カギを掛けてアベックで入る宿泊者がいるため、カギは取り外されていました。
そのため、実際には夜12時頃から入っていました。
民宿生活も数日たち、私はいつものように夜12時にお風呂に入りました。
もう上がろうかという頃、湯船に浸かっていると、
「ガラガラガラ・・・」と、脱衣所の扉の開く音がしました。
(え?誰?)
私は息を潜めて耳を澄ましました。
しばらくすると、再び「・・・ガラガラガラ、バタン」と、閉まり静かになりました。
その時は、たぶんおばさんが、寝る前に様子を見に来てくれたのだと思いました。
そして1〜2分経って湯船から出て、右手にタオル、左手にシャンプーを持ち、風呂場の重たい引き戸を開けました。
すると、それと恐らく同じタイミングだったと思います。
脱衣所の扉も再び「ガラガラガラ」と開きました。
そこには宿泊客の40歳くらいのおじさんと、10歳くらいの女の子が立っていました。
私は体を隠そうと思いましたが、両手で重たい戸を押し開けている途中で、不思議と全く両手が動きません。
両腕を広げたまま固まってしまいました。
女の子はそのまま脱衣所に入って来ました。
すると、私と同様に固まっていたおじさんは・・・私が何とも思わず、堂々としているように見えてしまったのかも知れません。
「あ・・・こんばんわ」
と言って、脱衣所に入ってきました。
私は急いでバスタオルを体に巻きました。
おじさんは、私に背中を向けたまま浴衣を脱ぐと、女の子を置いてさっさとお風呂に入ってしまいました。
私は急いで体を拭いてパジャマを着ると、急いで部屋に戻りました。
その夜、布団の中で、あの水泳大会の水着を脱がされた時と同じ感覚をジワジワと味わいました。
「見られた!見られた!素っ裸を見られた!!」
どういう訳か興奮して、その夜はほとんど寝付けませんでした。
翌日、私は早く寝たいから・・・と、頭の中で言い訳をして、お風呂は11時過ぎるとすぐに入りました。
しかし、もうあの親子は来ませんでした。
更に翌日その翌日と、あの親子は帰った後でしたが、再び11時にお風呂に入りました。
そして長湯をしました。
でも結局、誰も入ってきませんでした。
そしてアルバイト最終日を迎えました。
自宅に帰る時に来年もまたアルバイトしたいとお話しました。
しかし、道路拡張のため、この家は取り壊してしまうとの事でした。
そして、今度は立て替えた家に遊びに来てね。絶対に来てね。と言ってくれました。
でも、それ以来その家には遊びに行けませんでした。