天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第2話『家族の写真を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「早坂由紀夫として生きていく決心をした由紀夫は、最後に蘇った記憶をたどり、心臓病で入院している義理の弟、溝口正広に会いに行く。正広は退院を間近に控えており、両親を亡くした正広と由紀夫は一緒に暮らす約束をした」短すぎ(笑)でも、それだけの内容やったもんな(笑)

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「正広の写真」届け先「腰越奈緒美」

正広の退院が決まり、由紀夫が時間を見ては覗きに行くと、その度に、必ず看護婦なり、医者なり、場合によっては、他の患者なりが部屋にいた。こっちの病院に移ってから2年。正広は、すっかり人気者だったらしい。入院患者であるにも関わらず茶髪なのは、正広が可愛いから絶対似合う!と言い張った看護婦さんたちのせいだと、由紀夫は聞かされた。
「しかし、そこまでします?」
首謀者だという、まだ若い看護婦に由紀夫は言ったが、「でもほら、よく似合うでしょ?」とにっこり笑われ、その通りだと納得もする。

たとえ退院したって、正広の体が、各種のメンテナンスを必要とするのには変わりなく、しばしばこの病院に顔を出す事になるだろうというのは、先生や看護婦たちを少しやるせない思いにさせたが、それでも、正広の命にはもう別状はない。またすぐ会えるよね、と冗談のように言いながら、ちょっとでも、そのインターバルが長くなるようにと、みんなが思っていた。

「じゃあ、明日だね」
主治医の森先生の最後の回診を受け、そう言われた正広は嬉しそうな顔になる。
「明日、退院かぁ」
「カッコいいお兄ちゃんがお迎えに来てくれるの?」
「兄ちゃん、カッコいい?」
「そりゃ、カッコいいでしょ。お兄ちゃん来たら、看護婦さん達浮き足立って大変なんだから。つまんない仕事頼んだら怒られんだよ?」
「うっそぉ!」
「ホント」
診察用の道具を手早く片付けながら森医師は辛そうな顔をしてみせた。
「でも、兄ちゃんは、先生がすっげーカッコいいって言ってたよ。俺もそう思うけど」
「俺ぇ?そっかなぁ。ちょっと背が高くて、ちょっと足が長くって、ちょっと顔が小さくて、ちょっと頭がよくってってくらいだけどね」
ケラケラ笑いながら言うけど、このセリフをまったくイヤミに聞かせないところが、森医師のすごいところ。
「よくがんばったね」
道具をしまい終え、森医師はちょっと真面目な顔で言った。
「え?」
「一人で、よくがんばりました。えらかったよ」
頭に、ポンと手を置いて、小さい子にするように、頭を撫でる。そういうのは中学生にだってイヤがられるもんだが、正広は森医師にそうされるのは、そんなに嫌いじゃなかった。
「ご褒美に、お兄ちゃんが来てくれたんだね」
そう言われて、心から嬉しそうに正広は笑う。
「ありがとう、先生」

「どー考えても、ベッドは入らない」
自分の部屋をぐるりと眺めて由紀夫は呟いた。そもそも、今のダブルベッドでさえ、無理やりいれさせた部屋は、部屋自体の大きさはともかく、ドアが小さい。正広の体のサイズを思い浮かべ、下の潰れたビデオ屋をどうにかするまでは、ここで一緒に寝るしかないか…。と思う。
で、あれば、絶対に千明に釘を刺しておかないと、俺はともかく、正広に何かされたら…。すっかり、過保護なオヤジの気分になりながら、部屋のあちこちを片づける。今までスーツばっかりだった由紀夫のクロゼットには、由紀夫(武弘)本来の好みの服が増えつつある。ここに正広の服まで入れたら、すぐ一杯になるよな…。つったって、あいつ今はパジャマしかねぇのか…。
え?って事は明日退院する時の服がいるんじゃあ?
あわあわと、服を買いにでかけた由紀夫は、嬉しそうな顔を収める事ができなかった。

サイズとかに拘らなくてもいい、Tシャツに、短パン。チェックのシャツを羽織って、正広は退院した。
看護婦さんたちの一大泣き笑い劇場と化した病院正面玄関は、入院患者、見舞い客、先生たちを巻き込んで、どういう訳か、森医師のバンザイ三唱で幕を閉じた。
10日もすれば、定期検診があるってのに、と思いながらも、正広が人から愛されてるのがやたらと嬉しい兄バカ由紀夫である。

とりあえず部屋まで連れて行くと、1階のビデオ屋のあちこちを正広はしげしげと眺める。
「そこら辺りが青少年の健全育成に問題があるんだよな」
AVビデオの山を差し由紀夫がいい、ケラケラ正広が笑う。
「すっごいね、これ!見てもいいの?」
「18になったらな」
「うっそぉ!」
「いいから、上。今使ってんのはこっちだけだから」
大人しくついて来る正広は、部屋を見て、うわあ…と小さく呟いた。
「すっごい。カッコいいー…」
「そっか?」
「うん。すっごくない?すっごいカッコいい!」
単に奈緒美の趣味なんだけどな、と思いながら、あっちこっち覗いてる正広を放って、正広の荷物をどこにしまおうかと考える。
「俺、どこで寝んの?」
今までずっとベッドの上で生活していた正広から、当然の質問が出た。
「あぁ、申し訳ありませんねぇ。見ての通りなんで、ご一緒させていただきたいんですけども」
「兄ちゃんと?」
ベッドに座って感触を確かめるようにしてた正広が振り返る。
由紀夫がうなずくと、正広もうなずいた。
「俺、寝相いいから、大丈夫だよ」

点滴をしたままの生活が長かったものだから、正広はじっと横になっているのは得意だった。
「下を片づけようかと思ってっから。それっと、そこの棚開けといたから、好きに使いな?」
「はーいっ」
立ち上がって荷物を受けとった正広は、あーでもない、こーでもない、とレイアウトを楽しんでいる。

「俺ってやっぱ、運強いや」
ふいに正広が言った。
「え?」
「俺ってね、どっか運が強いんだよ」
自慢気な顔で、正広は言う。
「運がいい訳じゃないけど、運が強いの」
正広は指を折って、数え上げる。心臓病だけど死ぬ訳じゃないし、親は死んだけど生活に困る訳じゃないし。
「退院間近に兄ちゃん迎えに来てくれて、こーんなカッコいい部屋で暮らせるし」
正広の身の上で、自分の事を「運が強い」と言えるのは、そう思うように、正広が努力してきたからかもしれない。
イヤミでも、強がりでもなく、自分は運が強いと、正広は言う。
「運が強い…か」
「強いよ。兄ちゃんも相当強いよね」
「俺?」
「だって、記憶喪失だったのに、ちゃんといい人に拾われてさぁ」
「いい人って?奈緒美?」
「いい人でしょ?普通、人間なんか拾ってくんないよ?」
「そっかね」
「そうだって。それに、兄ちゃん、最高に運強いんだよ?」
「どこらへんが?」
「だって、こーんな可愛い弟がいんじゃん」
にっこりと笑って正広は言う。
「だったら、こーんなかっちょいい兄ちゃんがいるおまえの方が運が強いと思うけどねぇ」
ふざけて言ったら、正広がきょとんとした顔になる。
「だから、言ってんじゃん。俺は、運が強いんだって」

いかん…。
由紀夫は顔を伏せた。
正広けなげすぎ…。
そんなけなげな事言われたら、どうしていいか解らなくなる。
「兄ちゃん?」
急に黙ってしまった兄の顔をのぞこうと、ベッドの上を這い這いしながらよってくる正広の頭を押さえる。
「兄、ちゃん?…」
「…おまえの運を分けてもらったのかな」
「え?何?」

正広の頭を放し、由紀夫はベッドから離れた。
背中に視線を感じながら、由紀夫はカメラを手にする。
「何、それー?」
振り向いて正広の写真をとった。ベットで両手両膝をついたまんまの正広は、眩しさに目をしぱしぱさせ、「眩しい!」と文句を言う。
「何、それー!」
「ポラロイドカメラ。ちょっといいだろ」
「えっ?ポラロイドって、そんななの?うわ見せて、見せて!」

ベッドに座り直した正広にカメラを渡し、でかけて来ると由紀夫は言った。
「今日、朝からバタバタしてっから、疲れてたら寝てろよ。すぐ帰ってくるから」
「うん。でも、それどーんすんの」
由紀夫が持ったままの写真を指して正広は尋ねる。
「あー、渡しときたい相手がいて」
「誰?」
あー…、目線を宙に泳がせ言葉を捜した由紀夫は、じっと待ってる正広の耳元で言った。
「俺の…」

「由紀夫?」
腰越人材派遣センターには、その時奈緒美しかいなかった。
「どしたの?とりあえず仕事はないけど」
「仕事なきゃ来ちゃいけないわけ?」
「そんな事言ってないでしょー?珍しいのは確かじゃない」
そおだけどぉー、と呟きながら、チラっと奈緒美の様子をうかがう。何?とそんな由紀夫に奈緒美は首を傾げた。
「あの、これ」
「何?」
綺麗にマニキュアされた手が伸びて、由紀夫の手から正広の写真を受け取る。

「…誰?」
キョトンとした顔の正広の写真を手に、奈緒美が尋ねた。
「それ、俺の弟」
「弟ぉー?」
「溝口正広っての。だから、溝口の両親の子供。俺とは血のつながりはないけど」
マジマジと写真を眺め、奈緒美の目が丸くなる。

その奈緒美に事情を説明し、正広と一緒に住む事にしたと、報告する。
「あら。じゃあ、あの部屋じゃあ狭いわね。どうする?移る?」
当たり前のように言われ、自分がどのくらい奈緒美に甘やかされ、大事にされていたのかを自覚する。
一緒に逃げるはずだった男の代わりに、記憶を失ってクロゼットから生まれた自分を拾い、名前を、仕事を、住むところを、与えてくれたのが奈緒美。部屋のインテリアも、着る服も、全部奈緒美が決めてくれた。
自分は運が強い、と言い切った正広のように、これだけの女に拾われた自分の運も、相当なもんだろうと思う。
「いや、あの部屋気に入ってるから…。でも、あの、1階さ、どうにかしてもいいかなぁ」
「1階?あぁいいわよ。そうねぇ、この子いくつ?」
「16」
「じゃあ、ビデオどうにかしないとねぇ…。野長瀬のとこにでも放り込む?」
「仕事来なくなるんじゃん?」
「かもね。ビデオもいらなきゃ捨ててもいいし、売ってもいいし。好きにしていいわよ」
奈緒美は、一度たがが外れたら、際限無く甘い顔を見せる質だった。母性本能も、女性らしさも、人並み外れて持っている自覚があるから、とにかくそれを押し殺して仕事をしているけど、由紀夫に対してはもういいか、とも思っている。
由紀夫も、そんな奈緒美の気持ちを、今は素直にありがたいと思えている。
「しかし、何でこの子、セクシーポーズな訳?」
ベッドの上で、四つんばい…。
「いや、たまたま…」
「妙なバイトさせんじゃないわよ?」
「させねーよっ!」

奈緒美は由紀夫に写真を返そうとする。
「わざわざ連絡してくれなくてもいいのに。別に、あんたの部屋なんだから、好きにしていいのよ」
けれど、由紀夫はそれを受け取らなかった。
「由紀夫?」
「それ、持ってて」
「何で?」
「だって、それー…」
ちょっと口篭もり、由紀夫は言った。
「それ、奈緒美の次男だし」
「次男―っ!?」
「長男」
由紀夫は自分の顔を指差す。
「ちょ、ちょっとぉーっ!?」
目をむく奈緒美に、変に冷静に由紀夫は言った。
「だって、そうじゃん。俺は、早坂由紀夫は、3年前に奈緒美のとこに生まれて、それから、奈緒美に育ててもらったんじゃん?」
「だからって、何で母親よ!あたしは嫁入り前の娘よーっ!?」
「…嫁入り前はそうだけど、娘ってのは…」
「うるさいっ!」

「奈緒美」
キーっ!って怒っている奈緒美に、静かに由紀夫は言う。
「俺には、生んでくれた母親と、最初に育ててくれた母親と、それから奈緒美がいるけど、最初の二人はもう死んじゃった。母の日なんかした事ないし、これからもしないだろうけど、だから、こんな事言うの、多分今だけだから」
「な…、何よ…」
「拾ってくれて、見捨てないで、育ててくれて、ありがとう」
由紀夫はにっこりと笑った。
「お母さん」

「やめてぇーっ!」
奈緒美が耳をふさぎ、由紀夫に背中を向ける。
「あんたみたいにでかい子供なんていらないーっ!」
「それぐらいだったらいいの?」
持ったままの写真の事を言うと、ブンブンっ!と力一杯首が振られる。
「もーちょっともういいわよーっ!ちょっと、あんたもう帰って!正広くん一人じゃ可哀相でしょーっ?」
自分に背中を向けたままの奈緒美にそっと近づく。

「由紀夫っ?」
奈緒美が驚いて体を硬直させた。由紀夫が、背中から奈緒美の体に腕を回す。
「奈緒美だったから、よかった。俺、奈緒美に拾ってもらえてよかった」
「由紀夫ー…」
奈緒美の声が震えているから、顔は見ない。

奈緒美の頬に、子供みたいなキスをして、離れる。ドアの方に向かいながら言った。
「あ、今度は、次男連れてくるな?」
「次男って言わないでよーっ!」
赤い顔で頬を押さえた奈緒美がようやく振り返って怒鳴る。
「そーゆーなって。あいつ可愛いぜー、おかーさんっ!」
「今度お母さんって言ったら殺すわよっ!」
「はーい、おかぁーさーん」
「由紀夫っ!!」
振り向いて、ヒラヒラと手を振った。じっと自分を見てくれてる奈緒美に、にっこりと笑いかけ、事務所を出る。

残された奈緒美は、キョトンと目を丸くしてる、正広の写真に目を落とす。
「誰が、母親よ、誰が…」
言いながら、何だか、おかしくなってくる。
「それじゃあ…、せいぜい親孝行してもらうかな」
小さな子が、母親にするような可愛らしいキスは、きっと、母親にならなくては体験できないもの。
「老後の面倒から、下の世話まで」
突如気づいたら二児の母親にさせられていた奈緒美は、クスクスと笑った。

家族がいること。
それが、とても落ち着く事だと、由紀夫は初めて知った。
血の繋がらない母親と、血の繋がらない弟と、血の繋がらない仲間たちと、それでも、それが全部家族のような気がする。
その由紀夫の血の繋がらない弟は、『俺の母親』に会いに行った兄を、起きて待とうと努力しながら、うつらうつらと気持ちのいい眠りの世界に引きずりまれて行こうとしていた。

<おわり>

しょーげきのキスシーン(笑)!これもまたまた、黒ラブ様からのご提案でございますー!ありがとうございますー!

「ギフト」には、ちゃんとした小説本が出ましたが、まだちゃんと読んでおりません。その本とはまったく違う内容になりますので、ご容赦くださいませ(いや、気にしてる人は最初っから、読んでない??)

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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