幻のトラクター発見!
重要文化財「札幌農学校第2農場」
北海道大学創基125周年記念事業にて
(2)
McCormick Deering 10-20
 冷静に考えれば、この大正期の未再生輸入トラクターこそ最大のお宝かも知れない。風化しているがサビで腐りきってはいない絶妙な状態だ。同型車は「北海道開拓の村」で常時見ることが出来る。思ったより大きい車両だ。

 この個体は札幌丘珠の谷口牧場が1926〜28の間に輸入した3台中の1台と記してあった。ここは1918年にケースを導入したという篠路の谷口牧場と同じ所ではないだろうか?(篠路と丘珠はお隣である)。 国内に現存する物では、旧北農試のベスト-30クローラーフォードソン4台に次ぐ6番目に古いトラクターではないだろうか(※他にCletracやaveryがありました)。エンジン出力が20psで牽引馬力10psなので「10-20」という事らしい。右の赤いのは「北海道開拓の村」にある同型車で、本来はこの様な色をしている。日本にはこの2台しか現存していない筈である。
 

 露天展示の後ろには「国内に現存する鉄車輪トラクター覧」というパネルが有った。マコーミック10-20は、北大と開拓歴史村の2台、フォードソンは4台、ファモール(F型)3輪が2台有るという。当初の最大の目的であった北大のフォードソンは現存していない事が明記してあり残念であった。
 
本当の主役・・・
 屋内を公開した建物は、一番奥に建つ穀物庫(Corn Barn)と、その手前の模範家畜房(Model Barn)の2棟であった。両方とも明治10年建設(125年前)の西洋式木造建築で、それ自体が一見の価値ある物だ。中ではパネル展示をしていたが、モデルバーン1階には馬具や建築模型もあった。そして2階には古農機具の見事なコレクションがズラリと並べられていた。「ケプロン米農務長官が明治4年に持ち込んだ農機具」と思しき奴は、クラーク博士も触ったかも知れない物でロマンチックだ。これらの価値の分かる人には堪えられない内容の筈だ。今の私にはシブ過ぎて分からない事だらけだが・・・。そんな2階の窓から隣の牧牛舎の写生をする爺さんもいる。今回の展示はノンビリしたもので、堅苦しい感じがしないのは明治の農場の雰囲気が残っているせいだろうか。

 後で気づいたが、モデルバーン内部を公開するに当たって、ここに仕舞ってあったトラクターは邪魔物だった筈である。それを外に出し、ついでに展示したのがあのトラクター達と考えられる。私は幹を見ず枝葉の方ばかり注目していた事になる。 なるほど、実は裏の方に4台のトラクターが終始ブルーシートで覆われ、展示の形になってなかったりもした。 私はその内2台を触ってポルシェとランツである事を確かめた。判別出来なかった残りの2台は「マン」だと後に分かった。


露天展示品リスト 入り口側より

○ 石油発動機・Fairbanks Morse "Z" (フェアバンクス・モース「Z」)
○ 石油発動機・Alpha  (アルファ)
○ 耕耘機  SIMAR (シマー・シマール) 
○ 耕耘機  ? 三菱メイキの空冷エンジンをフレームに積んだ物。
 
 なお、敷地内の小さな建物「釜場」内にも同型アルファと思われる物があった。アルファは大正4年から輸入(日本初)、フェアバンクス・モースは6年から輸入され、共に国産石油発動機の手本になったとされる有名なメーカーだ。ただし、この個体が何時のモデルかは不明である。
 スイス製の耕耘機シマーは大正8年頃から輸入された極初期の耕耘機で、この個体も相当に古いモデルと見て良いだろう。当時としては画期的なロータリー式の耕耘機で、そのロッドを曲げた爪刃形状や2気筒ガソリンエンジンこそ日本の土壌に合わなかったが、ロータリー耕耘機というアイデアは日本で独自進化し圧倒的な主流になる。残念ながらラジエターの前に付くエンジンが失われているが、日本の農機史上において貴重な資料である事に間違いない(他に少なくとも2,3台日本に現存)。


手前Alpha、奥Fairbanks

SIMAR

○ McCormick Deering10-20 マコーミック デアリング10-20鉄車輪。上記の車両。
○ 加藤 KATO-P型。 前ページの車両。
○ 三菱 MISUBISHI-TA25。前ページの車両。
○ Farmall Cab (ファモール・カブ) 小型トラクタの名機。戦後のヒットモデル。
○ Holer B10 (ホルダー) ドイツの小型トラクタ。ザックスディーゼル10PS
○ 農民車コマツ。 後にマイナーチェンジし「ユニカ」と銘々された魅力的な万能車(?)。初期の「農民車」時代の現存車は非常に珍しい。


カブ、ホルダー、農民車

小松農民車
初代のWG-06!

この他、離れた場所に、ランツブルドッグ、ポルシェ、マン2台のドイツ車4台がビニールシートに覆われて置かれていた。
 


11月
 実は記念事業の後、建物は閉められたがトラクターは出しっぱなしだった。このまま常設展示とし、冬の間は裏の4両のようにビニールシートで冬囲いするのだろうと思い込んでいた。「土の館」の露天展示車両もそうしていたのだ。11月4日初雪が降った。何となく気になって6日に確かめに行くと、列んでいたトラクターが無くなっていた! いや、唯一、ホルダーだけがポツンと残っていて、奥で何か作業をしている人たちがいる。偶然にも撤収作業中だったのだ。ここで初めて裏にあった4台のドイツ車を見ることが出来た。


 模範家畜房(Model Barn)「日本最古の洋式農業建築物にして物置!」 牽引されるはLANZ。タイヤに空気を入れていたが、ダメだったようだ。
 穀物庫(Corn Barn)と小さなドイツ車ホルダー。札幌の市街地の真ん中で、ここだけゆっくり時間が流れているようだ。

 黄色い奴の正体は「MAN」だった。多分ディーゼル。4WDかどうか良く見なかった。薄緑のマンも有った。

 現用トラクターに押込まれるLANZ。小さい車両だが、パンクで傾いているため入り口に引っかかりそうになる。この色はツートン塗装ではなく錆である。

 この列は、鉄車輪、三菱TA25、加藤P型、と超貴重品が並び、最後尾の「真っ赤なポルシェ」でも肩身が狭い。

 外から見た加藤P型。この後ドアが閉められ施錠された。冬眠から覚めるのは何時になるのだろうか・・・。


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 追加: 翌2002の6月、サッカーWカップ注目カード、イングランドVSアルゼンチンが札幌で行われたこの日、北大は大学祭をやっていた。意外な事にモデルバーン内部は開放され、二階の農機具コレクション等を再び見ることが出来た。しかし、1階に仕舞われた筈のトラクターは姿を消していた。聞くと、他の建物(種牛舎か牧牛舎と思われる)に移されたとの事。そちらの建物は窓から内部を見る事が出来ず、今後も公開する事は無いと思われる。残念な事に、トラクターを再度見る機会が絶たれてしまったのかもしれない。

 追記2:2007年の11月に加藤P型が某所へ寄贈されていたことを2010年になって知る。再度これを発見した時は「2台もあったのか!」と驚いたが、よく観ると同一車両だったというオチ。常時公開する事は無さそうな施設だが「偶然発見出来る程度」の扱いで置いてあった(2010年8月現在)。なお、他の車両はここでは未確認だが、何らかの事情で同時期に分散して整理(寄贈)された可能性はある。とくに「北大で使用された物ではない」という点でこの加藤Pと同様の三菱25型はその対象だろう。気になる。



注意!これら展示物は現在非公開です。将来的に公開の構想も有るらしいので期待しましょう。北大に迷惑かからぬよう問い合わせ等は控えましょう。(建物外観は見ることが出来ます)
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