闇を支配するリング

2002年6月11日(火) テニアン ダイナスティーホテル&カジノ

nishizaki


気軽な観測場所
courtyard 金環の継続時間が一番長くなる金環食帯の中心線は、テニアン島の南方海上を通っています。
島内で中心線に近く観測可能な場所は suicide cliff で、金環継続時間は42秒と計算されていました。 ただ早い時刻にホテルからバスで移動しなければならない、人がたくさん集まり混雑しそう、風が強い、雨が降った場合避難が大変、などの欠点があります。

ホテルでは金環の継続時間が5秒ほど短くなりますが、太陽が全て隠される皆既日食と違い、金環の継続時間は短くてもそれほど気にならないので、ホテルで見ることにしました。
11年前のハワイで、移動した先が曇ったのに泊まっていたホテルでは見えたという苦い経験があるので、その二の舞になりたくないというのも理由の一つです。
ホテルの一番人気は屋上ですが、そこはさらに混雑しそうなので、広々とした庭で気軽に見ることにしました。

雲の中の夜明け
sunrise 日食は朝方なので暗いうちから準備開始。
空は星がきれいに見えているものの快晴になることはなく、常にどこかに雲がある状態。雲は動きが速く、東から西へ次々と流れていきます。

日の出を迎えても状況は変わりません。 雲の切れ目から漏れた太陽の光が放射状の筋となって見えています。

臨機応変体制
telescope 今回の撮影は2本の望遠鏡を使います。
まず1本に減光フィルターを付けて前半の部分食を撮影。 金環時はそのままインターバルタイマーで2秒間隔の自動撮影を行ないます。 皆既と違い露出は一定でかまないので、一切操作は不要。
もう1本は金環時のみ使用し、フィルターを付けずに撮影。 もちろん太陽は露出オーバーになりますが、太陽と月の大きさが近いので4年前のオーストラリア同様に見えるかもしれないプロミネンスや彩層を狙います。

また雲の状況によってはフィルターの有無や露出をいろいろ変えて撮らなければいけなくなるので、その場合は臨機応変に2本の撮影方法を切り替えて対処する予定でした。

日食スタート
thermometer1 部分日食開始。
気温は34度。 風は少し吹いていましたが、撮影には全く影響ありません。 蒸し暑さが和らぐのでもう少し強く吹いてもいいと思うほどです。

cloud 日が昇っても空の様子は変わらず、青空の中を少しまとまった雲が次々と移動し、時折太陽を隠してしまいます。 雲が動いた後にまた次の雲が涌き出てくるので、空全体が快晴になることはありません。

雲が厚い部分では太陽は完全に見えなくなってしまいます。
雲の動きは速いので少し待てば太陽が姿を現し、部分日食を見るだけならそれほど影響はありません。

雲との戦い
partial 食は計算通り進行していますが、状況は変わりません。
金環時は空全体が晴れでも曇りでも雨でも関係なく、その37秒間、太陽の方向に雲があるかどうかだけが問題です。

薄雲なら太陽の環は見えるでしょうが、厚い雲だったらアウト。 雲の高度が低いので、観測場所のわずかな違いによっても運命が分かれそう、と思っていました。

日食晴れの奇跡
clear 金環まであと15分ほどになったところで、突然雲の流れが途絶えました。最後尾の雲が去った後は、太陽の周辺には雲がほとんどありません。 太陽が欠けるに従って気温が下がり雲が多くなる「日食雲」は何度か経験していますが、晴れてくる逆現象は初めてです。
雲の切れ目があまりにもくっきりしているので初めは信じられない思いでしたが、10分前、5分前になっても次の雲は涌いてきません。
心配は全く無くなりました。金環日食を見られます。

リング七変幻
金環食開始直前。本格的な写真撮影を開始。

annular1 annular2
annular3 annular4

インターバルタイマーによる自動撮影は設定通りに撮影が始まったので一安心。

フィルターを外した望遠鏡に付けたカメラは、手動で露出を皆既日食並に変えて撮影。
ファインダーをちらっと覗くと、月の縁が凸凹のため輪が途切れ途切れになるベイリーのビーズ現象が見られました。
まだ太陽を隠している月の縁には赤い彩層と、外側に飛び出したプロミネンスも見えています。
その後全体が細い輪になりましたが、中心線から外れているため輪の太さに偏りがあり、細い側ではチラチラとベイリーのビーズが続いている状態です。

30数秒後、反対側がはっきりとしたベイリーのビーズになり、輪が切れて金環食が終了。
月に隠された縁からは、まだ彩層が見えています。

短い食でしたが、短いからこそ見られる面白さが満載、楽しい誕生日プレゼントでした。

金環が動く「金環日食動画集」でお楽しみください。

快適な一瞬
thermometer2 金環終了直後の気温は28℃。
食の開始時から6℃下がり、かなり過ごし易くなっていました。

ジンバブエの皆既日食で10℃下がったことと比べると気温差が小さいのは、皆既と金環の違いと言うよりは、湿度が高いためでしょう。

恒例のおまけ
pinhole 後半は部分日食のピンホール撮影。
クラッカーとビスケットの穴は、ここでも良好な像を映してくれました。

テニアン島の土産物屋はホテルに1軒あるだけなので、適当な穴が開いた土産物がありません。
ようやく見つけたのは熱帯魚の手作りマグネット。
縁近くのサンゴに開いていた小さな穴がなんとかピンホールになってくれました。

金環中にピンホールをやれば像がリングになって面白いはずですが、今回は経過時間が短すぎて無理。 楽しみは経過時間の長い金環日食に残しておきます。


| テニアン島金環日食トップ | ← 終わらぬ戦後 | 南国の犬 → |