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宮沢賢治幻燈館 「水仙月の四日」 3/11 |
雪童子は、かぜのやうに象の形の丘にのぼりました。雪には風で介殻(かひがら)のやうなかたがつき、その頂には、一本の大きな栗の木が、美しい黄金(きん)いろのやどりぎのまりをつけて立つてゐました。 |
「とつといで。」雪童子が丘をのぼりながら云ひますと、一疋の雪狼(ゆきおいの)は、主人の小さな歯のちらつと光るのを見るや、ごむまりのやうにいきなり木にはねあがつて、その赤い実のついた小さな枝を、がちがち囓じりました。木の上でしきりに頸(くび)をまげてゐる雪狼の影法師は、大きく長く丘の雪に落ち、枝はたうとう青い皮と、黄いろの心(しん)とをちぎられて、いまのぼつてきたばかりの雪童子の足もとに落ちました。 |