宮沢賢治幻燈館
「水仙月の四日」 4/11

子供はびつくりして枝をひろつて、きよろきよろあちこちを見まはしてゐます。雪童子は笑つて革むちを一つひゆうと鳴らしました。
 すると、雲もなく研(みが)きあげられたやうな群青の空から、まつ白な雪が、さぎの毛のやうに、いちめんに落ちてきました。それは下の平原の雪や、ビール色の日光、茶いろのひのきでできあがつた、しづかな奇麗な日曜日を一そう美しくしたのです。
子どもは、やどりぎの枝をもつて、一生けん命にあるきだしました。
 けれども、その立派な雪が落ち切つてしまつたころから、お日さまはなんだか空の遠くの方へお移りになつて、そこのお旅屋で、あのまばゆい白い火を、あたらしくお焚きなされてゐるやうでした。
 そして西北の方からは、少し風が吹いてきました。
 もうよほど、そらも冷たくなつてきたのです。東の遠くの海の方では、空の仕掛けを外したやうな、ちひさなカタツといふ音が聞え、いつかまつしろな鏡に変つてしまつたお日さまの面を、なにかちひさなものがどんどんよこ切つて行くやうです。