馬は汗をかいて黒く光り、鼻からふうふう息をつき、しづかにだくをやってゐた。乗ってるものはみな赤シャツで、てかてか光る赤革の長靴をはき、帽子には鷺(さぎ)の毛やなにか、白いひらひらするものをつけてゐた。
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鬚(ひげ)をはやしたおとなも居れば、いちばんしまひにはペムペル位の頬のまっかな眼のまっ黒なかあいゝ子も居た。ほこりの為にお日さまはぼんやり赤くなった。
おとなはみんなペムペルとネリなどは見ない風して行ったけれど、いちばんしまひのあのかあいゝ子は、ペムペルを見て一寸(ちょっと)唇に指をあててキスを送ったんだ。
そしてみんなは通り過ぎたのだ。みんなの行った方から、あのいゝ音がいよいよはっきり聞えて来た。まもなくみんなは向ふの丘をまはって見えなくなったが、左の方から又誰かゆっくりやって来るのだ。
それは小さな家ぐらゐある白い四角の箱のやうなもので、人が四五人ついて来た。だんだん近くになって見ると、ついて居るのはみんな黒ん坊で、眼ばかりぎらぎら光らして、ふんどしだけして裸足だらう。白い四角なものを囲んで来たのだけれど、その白いのは箱ぢゃなかった。実は白いきれを四方にさげた、日本の蚊帳(かや)のやうなもんで、その下からは大きな灰いろの四本の脚が、ゆっくりゆっくり上ったり下ったりしてゐたのだ。
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