宮沢賢治幻燈館
「黄いろのトマト」 9/15

 二人が二本の榧(かや)の木のアーチになった下を潜(くぐ)ったら不思議な音はもう切れ切れぢゃなくなった。
 そこで二人は元気を出して上着の袖で汗をふきふきかけて行った。
 そのうち音はもっとはっきりして来たのだ。ひょろひょろした笛の音も入ってゐたし、大喇叭(らっぱ)のどなり声もきこえた。ぼくにはみんなわかって来たのだよ。
『ネリ、もう少しだよ、しっかり僕につかまっておいで。』
 ネリはだまってきれで包んだ小さな卵形の頭を振って、唇を噛んで走った。
 二人がも一度、樺の木の生えた丘をまはったとき、いきなり眼の前に白いほこりのぼやぼや立った大きな道が、横になってゐるのを見た。その右の方から、さっきの音がはっきり聞え、左の方からもう一団(ひとかたま)り、白いほこりがこっちの方へやって来る。ほこりの中から、チラチラ馬の足が光った。
 間もなくそれは近づいたのだ。ペムペルとネリとは、手をにぎり合って、息をこらしてそれを見た。
 もちろん僕もそれを見た。
 やって来たのは七人ばかりの馬乗りなのだ。