看板の中には、さっきキスを投げた子が、二疋の馬に片っ方づつ手をついて、逆立ちしてる処(ところ)もある。さっきの馬はみなその前につながれて、その他にだって十五六疋ならんでゐた。みんなオートを食べてゐた。
おとなや女や子供らが、その草はらにたくさん集って看板を見上げてゐた。
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看板のうしろからは、さっきの音が盛んに起った。
けれどもあんまり近くで聞くと、そのなにすてきな音ぢゃない。
たゞの楽隊だったんだい。
たゞその音が、野原を通って行く途中、だんだん音がかすれるほど、花のにほひがついて行ったんだ。
白い四角な家も、ゆっくりゆっくり中へはひって行ってしまった。
中では何かが細い高い声でないた。
人はだんだん増えて来た。
楽隊はまるで馬鹿のやうに盛んにやった。
みんなは吸ひこまれるやうに、三人五人づつ中へはひって行ったのだ。
ペムペルとネリとは息をこらして、じっとそれを見た。
『僕たちも入ってかうか。』ペムペルが胸をどきどきさせながら云った。
『入りませう』とネリも答へた。
けれども何だか二人とも、安心にならなかったのだ。どうもみんなが入口で何か番人に渡すらしいのだ。
黄金をだせば銀のかけらを返してよこす。
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