宮沢賢治幻燈館
「黄いろのトマト」 3/15

 二人がキャベヂを穫るときは僕はいつでも見に行った。
 ペムペルがキャベヂの太い根を截(き)ってそれをはたけにころがすと、ネリは両手でそれをもって水いろに塗られた一輪車に入れるのだ。そして二人は車を押して黄色のガラスの納屋にキャベヂを運んだのだ。青いキャベヂがころがってるのはそれはずゐぶん立派だよ。

 そして二人はたった二人だけでずゐぶんたのしくくらしてゐた。」
「おとなはそこらに居なかったの。」
「おとなはすこしもそこらあたりに居なかった。なぜならペムペルとネリの兄妹の二人はたった二人だけずゐぶん愉快にくらしてたから。
 けれどほんたうにかあいさうだ。
 ペムペルといふ子は全くいゝ子だったのにかあいさうなことをした。」
 蜂雀は俄かにだまってしまひました。
 私はもう全く気が気でありませんでした。
 蜂雀はいよいよだまってガラスの向ふでしんとしてゐます。
 私もしばらくは耐(こら)へて膝を両手で抱へてじっとしてゐましたけれどもあんまり蜂雀がいつまでもだまってゐるもんですからそれにそのだまりやうと云ったら たとへ 一ぺん死んだ人が二度とお墓から出て来ようたって口なんか聞くもんかと云ふやうに見えましたのでたうとう私は居たゝまらなくなりました。私は立ってガラスの前に歩いて行って両手をガラスにかけて中の蜂雀に云ひました。