「だからどうしたって云ふの。」
「だからね、二人はほんたうにおもしろくくらしてゐたのだから、それだけならばよかったんだ。ところが二人は、はたけにトマトを十本植ゑてゐた。そのうち五本がポンデローザでね、五本がレッドチェリイだよ。
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ポンデローザにはまっ赤な大きな実がつくし、レッドチェリーにはさくらんぼほどの赤い実がまるでたくさんできる。ぼくはトマトは食べないけれど、ポンデローザを見ることならもうほんたうにすきなんだ。ある年やっぱり苗が二いろあったから、植ゑたあとでも二いろあった。だんだんそれが大きくなって、葉からはトマトの青いにほひがし、茎からはこまかな黄金(きん)の粒のやうなものも噴き出した。
そしてまもなく実がついた。
ところが五本のチェリーの中で、一本だけは奇体に黄いろなんだらう。そして大へん光るのだ。ギザギザの青黒い葉の間から、まばゆいくらゐ黄いろなトマトがのぞいてゐるのは立派だった。だからネリが云った。
『にいさま、あのトマトどうしてあんなに光るんでせうね。』
ペムペルは唇(くちびる)に指をあててしばらく考へてから答へてゐた。
『黄金(きん)だよ。黄金だからあんなに光るんだ。』
『まあ、あれ黄金なの』ネリがすこしびっくりしたやうに云った。
『立派だねえ。』
『えゝ立派だわ。』
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