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宮沢賢治幻燈館 「黄いろのトマト」 8/15 |
そして二人はもちろん、その黄いろなトマトをとりもしなけぁ、一寸(ちょっと)さはりもしなかった。 |
「だからね、二人はこんなに楽しくくらしてゐたんだからそれだけならばよかったんだよ。ところがある夕方二人が羊歯(しだ)の葉に水をかけてたら、遠くの遠くの野はらの方から何とも云へない奇体ないゝ音が風に吹き飛ばされて聞えて来るんだ。まるでまるでいゝ音なんだ。切れ切れになって飛んでは来るけれど、まるですゞらんやヘリオトロープのいゝかをりさへするんだらう、その音がだよ。二人は如露(じょろ)の手をやめて、しばらくだまって顔を見合せたねえ、それからペムペルが云った。 |