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実にはげしい雷雨になりました。いなびかりは、まるでこんな憐(あは)れな旅のものなどを漂白してしまひさう、並木の青い葉がむしゃくしゃにむしられて、雨のつぶと一緒に堅いみちを叩き、枝までがガリガリ引き裂かれて降りかかりました。
(もうすっかり法則がこはれた。何もかもめちゃくちゃだ。これで、も一度きちんと空がみがかれて、星座がめぐることなどはまあ夢だ。夢でなけぁ霧だ。みづけむりさ。)
ガドルフはあらんかぎりすねを延ばしてあるきながら、並木のずうっと向ふの方のぼんやり白い水明かりを見ました。
(あすこはさっき曖昧(あいまい)な犬の居たとこだ。あすこが少ぅしおれのたよりになるだけだ。)
けれども間もなく全くの夜になりました。空のあっちでもこっちでも、雷が素敵に大きな咆哮(はうかう)をやり、電光のせはしいことはまるで夜の大空の意識の明滅のやうでした。
道はまるっきりコンクリート製の小川のやうになってしまって、もう二十分と続けて歩けさうにもありませんでした。
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