|
その稲光りのそらぞらしい明りの中で、ガドルフは巨(おほ)きなまっ黒な家が、道の左側に建ってゐるのを見ました。
(この屋根は稜(かど)が五角で大きな黒電気石の頭のやうだ。その黒いことは寒天だ。その寒天の中へ俺ははひる。)
ガドルフは大股に跳ねて、その玄関にかけ込みました。
「今晩は。どなたかお出(い)でですか。今晩は。」
家の中はまっ暗で、しんとして返事をするものもなく、そこらには厚い敷物や着物などが、くしゃくしゃ散らばってゐるやうでした。
(みんなどこかへ遁(に)げたかな。噴火があるのか。噴火ぢゃない。ペストか。ペストぢゃない。またおれはひとりで問答をやってゐる。あの曖昧な犬だ。とにかく廊下のはじででも、ぬれた着物をぬぎたいもんだ。)
ガドルフは斯(か)う頭の中でつぶやき又唇(くちびる)で考へるやうにしました。そのガドルフの頭と来たら、旧教会の朝の鐘のやうにガンガン鳴って居りました。
|