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長靴を抱くやうにして急いで脱(と)って、少しびっこを引きながら、そのまっ暗なちらばった家にはね上って行きました。すぐ突きあたりの大きな室は、たしか階段室らしく、射し込む稲光りが見せたのでした。
その室の闇の中で、ガドルフは眼をつぶりながら、まづ重い外套(ぐわいたう)を脱ぎました。そのぬれた外套の袖を引っぱるとき、ガドルフは白い貝殻でこしらへあげた、昼の楊の木をありありと見ました。ガドルフは眼をあきました。
(うるさい。ブリキになったり貝殻になったり。しかしまたこんな桔梗(ききやう)いろの背景に、楊の舎利がりんと立つのは悪くない。)
それは眼をあいてもしばらく消えてしまひませんでした。
ガドルフはそれからぬれた頭や、顔をさっぱりと拭(ぬぐ)って、はじめてほっと息をつきました。
電光がすばやく射し込んで、床におろされて蟹のかたちになってゐる自分の背嚢(はいなう)をくっきり照らしまっ黒な影さへ落して行きました。
ガドルフはしゃがんでくらやみの背嚢をつかみ、手探りで開いて、小さな器械の類にさはって見ました。
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