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ガドルフはそっちへ進んで行ってガタピシの壊れかかった窓を開きました。たちまち冷たい雨と風とが、ぱっとガドルフの顔をうちました。その風に半分声をとられながら、ガドルフは叮寧に云ひました。
「どなたですか。今晩は。どなたですか。今晩は。」
向ふのぼんやり白いものは、かすかにうごいて返事もしませんでした。却って注文通りの電光が、そこら一面ひる間のやうにして呉れたのです。
「ははは、百合の花だ。なるほど。ご返事のないのも尤(もっと)もだ。」
ガドルフの笑ひ声は、風といっしょに陰気に階段をころげて昇って行きました。
けれども窓の外では、いっぱいに咲いた白百合が、十本ばかり息もつけない嵐の中に、その稲妻の八分一秒を、まるでかゞやいてじっと立ってゐたのです。
それからたちまち闇が戻されて眩(まぶ)しい花の姿は消えましたので、ガドルフはせっかく一枚ぬれずに残ったフランのシャツも、つめたい雨にあらはせながら、窓からそとにからだを出して、ほのかに揺らぐ花の影を、じっとみつめて次の電光を待ってゐました。
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