間もなく次の電光は、明るくサッサッと閃めいて、庭は幻燈のやうに青く浮び、雨の粒は美しい楕円形の粒になって宙に停まり、そしてガドルフのいとしい花は、まっ白にかっと嗔(いか)って立ちました。
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(おれの恋は、いまあの百合の花なのだ。いまあの百合の花なのだ。砕けるなよ。)
それもほんの一瞬のこと、すぐに闇は青びかりを押し戻し、花の像はぼんやりと白く大きくなり、みだれてゆらいで、時々は地面までも屈んでゐました。
そしてガドルフは自分の熱(ほて)って痛む頭の奥の、青黝(あおぐろ)い斜面の上に、すこしも動かずかゞやいて立つ、もう一むれの貝細工の百合を、もっとはっきり見て居りました。たしかにガドルフはこの二むれの百合を、一緒に息をこらして見つめて居ました。
それも又、たゞしばらくのひまでした。
たちまち次の電光は、マグネシアの焔(ほのほ)よりももっと明るく、菫外線(きんぐわいせん)の誘惑を、力いっぱい含みながら、まっすぐに地上に落ちて来ました。
美しい百合の憤(いか)りは頂点に達し、灼熱の花弁は雪よりも厳めしく、ガドルフはその凜と張る音さへ聴いたと思ひました。
暗(やみ)が来たと思ふ間もなく、又稲妻が向ふのぎざぎざの雲から、北斎の山下白雨のやうに赤く這(は)って来て、触れない光の手をもって、百合を擦(かす)めて過ぎました。
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