宮沢賢治幻燈館
「銀河鉄道の夜」 18/81

 ところがいくら見てゐても、そのそらはひる先生の云ったやうな、がらんとした冷いとこだとは思はれませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、そこは小さな林や牧場やらある野原のやうに考へられて仕方なかったのです。そしてジョバンニは青い琴の星が、三つにも四つにもなって、ちらちら瞬き、脚が何べんも出たり引っ込んだりして、たうとう蕈(きのこ)のやうに長く延びるのを見ました。またすぐ眼の下のまちまでがやっぱりぼんやりしたたくさんの星の集りか一つの大きなけむりかのやうに見えるやうに思ひました。


  六、銀河ステーション

 そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪の柱がいつかぼんやりした三角標の形になって、しばらく螢のやうに、ぺかぺか消えたりともったりしてゐるのを見ました。それはだんだんはっきりして、たうとうりんとうごかないやうになり、濃い鋼青の空の野原にたちました。いま新らしく灼(や)いたばかりの青い鋼の板のやうな、そらの野原に、まっすぐにすきっと立ったのです。